ピアノの指使いを変えるとき:フレーズと手の移動から決める方法
ピアノの指使いを決めるときは、その音を押せるかに加えて、前後のフレーズまで弾いて考えます。途中で音が途切れる、親指だけ強くなる、次の音へ移る時間が足りない。こうした場所に、運指を見直す理由があります。
私はレッスンで指番号を変える前に、どの音をどう変えたいのかを一緒に聴きます。同じ音符を弾ける二つの指使いがあっても、音のまとまりや次の位置への移り方は違います。最後は、選んだ指でフレーズを繰り返し弾けるところまで確かめます。
まず、いま困っている箇所を次の三つから見てみてください。
- 音のつながり:続けたい音が切れる、軽くしたい音が強くなる。
- 手の移動:次の位置に遅れる、黒鍵へ入る直前に手を直している。
- 前後の流れ:そこだけなら弾けるが、前の小節から入ると指が変わる。
ここでは《エリーゼのために》の左手を例に、二つの運指を比べます。指番号の正解を一つ覚えるよりも、次に自分の曲で迷ったときに、何を聴いて選ぶかをつかんでください。
楽譜の指番号を読む
指番号は左右とも、親指が1、人差し指が2、中指が3、薬指が4、小指が5です。同じ数字でも、鍵盤上で進む方向は左右で変わります。右手で慣れた形を、そのまま左手へ当てはめずに確かめます。
印刷された運指には、その音の弾き方だけでなく、数音先の位置を準備する役割があります。最初は少し意外に感じる指でも、続きを弾くと理由が分かることがあります。変更する前に、次の小節まで読んでみましょう。
また、運指を付けた人も版によって異なります。楽譜の表紙や解説で、作曲家の指定と校訂者・演奏家の提案を確かめます。特に練習曲では、あえてその指を使うことが練習の目的に含まれている場合があります。
判断の基準は、楽譜の音、リズム、アーティキュレーションを保って弾けるかです。指番号を変えて弾きやすくなっても、旋律の途中に新しい切れ目ができたなら、その音のつながりも比べます。
《エリーゼのために》のミ・ミ・ソ♯
冒頭の2音をアウフタクトとして数え、そのあとの最初の完全な小節を第1小節とします。第3小節の左手は、低いミ、1オクターブ上のミ、さらに上のソ♯という三つの十六分音符です。その後に十六分休符と八分休符が続きます。
譜例の左手はヘ音記号、右手はト音記号です。音の高さを区別するため、中央のドをC4と呼ぶと、この左手はE2・E3・G♯3になります。二つのミは、どちらも中央のドより低い音です。
《エリーゼのために》、アウフタクトを除く第3小節。上段はト音記号、下段はヘ音記号、8分の3拍子です。

左手のソ♯の直後に、右手のミが入ります。最後の指を選ぶときも、右手が続くところまで聴きます。
第3小節を大きく表示前後の流れ:アウフタクトと第1〜5小節
譜例は横にスクロールできます。

左手の三つの音は、順番に弾いて移動する音形です。低いミからソ♯までを一度に広げて、最初の位置に手を固定しておく必要はありません。前の音を離す時点と、次の音へ入る動きを、書かれたリズムの中で考えます。
右手にも注目してください。この小節はシで始まり、十六分休符を挟んでミ・ソ♯・シへ進みます。左手のソ♯の直後に右手のミが来るため、左手が弾き終わったところで音楽まで止めると、二つの手の受け渡しが途切れます。
まず音だけを確認し、次に右手が続くところまで聴きます。運指を選ぶ範囲を「左手の3音」から「両手の一つの流れ」へ広げると、到着の速さだけでなく、その後の響きも判断に入ります。


5・1・2と5・1・3を比べる
この音形では、低いミを5、上のミを1で弾き、ソ♯を2または3で取る方法を比べられます。違うのは最後の指です。2なら人差し指、3なら中指が、親指の上を越えてソ♯へ向かいます。
第3小節、左手の比較。E2とE3は1オクターブ離れたミです。
| 運指 | E2低いミ | E3上のミ | G♯3ソ♯ |
|---|---|---|---|
| 案A | 5小指 | 1親指 | 2人差し指 |
| 案B | 5小指 | 1親指 | 3中指 |
同じ速さと音量で、ソ♯へ入る間隔と音を比べます。次は右手を加え、その先の小節まで弾きます。
最初に5・1・2で弾き、ソ♯へ移る直前の間隔を聴きます。次に同じ速さ、同じ音量で5・1・3を試します。最後のソ♯だけ強くなっていないか、直前に小さな待ち時間が入っていないかを比べてください。
弾きやすさには、最後の指が黒鍵へ届くことだけでなく、そこへ来るまでの手の位置も関わります。人差し指を使ったときと、中指を使ったときで、親指のミを弾いている手がどこにあるかを見ます。最後の一音を取るために急な位置の直しが必要なら、その前のミから動きを考え直します。
片方を大きな音で、もう片方を極端に小さな音で弾くと、運指と音量の条件が一緒に変わります。まず同じ響きを目指して比べ、違いが聞こえたら、その指使いで音量を変えてみます。曲の中で欲しい音でも使えるかを確かめます。
白鍵と黒鍵の奥行き
鍵盤上の移動には、左右の距離に加えて手前と奥の違いがあります。ミは白鍵、ソ♯は黒鍵です。白鍵の手前ばかりで弾いていると、ソ♯の直前に奥へ移る動きが大きくなることがあります。
二つ目のミを弾く位置を少し変え、そこからソ♯へ向かってみます。手前で取ったときと、黒鍵に近い位置で取ったときでは、2や3が到着する感覚も変わります。指の長さや手の形に合わせて、鍵盤に触れる場所まで含めて選びます。
ここで親指を鍵盤へ押し付けたまま、ほかの指だけを無理に回そうとすると、動きが窮屈になります。ミを弾く動き、次の位置へ向かう手の動き、ソ♯を弾く動きが、流れの中でどう重なるかをゆっくり観察します。
黒鍵だから常に同じ指を使う、という決め方では、この前後関係を捉えられません。同じソ♯でも、その前の音、次の音、音の長さによって使える運指が変わります。
次の小節へ戻る動き
この譜例では、第3小節の左手がソ♯を弾いたあとに休符があり、第4小節では低いラからラ・ミ・ラへ上がります。ソ♯に届く運指が決まったら、次の低いラへ戻るところまで弾いてみましょう。
ソ♯を取った指や手の位置によって、低いラへ向かう準備の感覚が変わります。次のラの直前までソ♯の上にとどまり、最後に急いで飛ぶより、休符の時間を感じながら次の位置を見ます。右手はその間も音楽を続けています。
前から入る練習も大切です。第2小節の左手はラ・ミ・ラ、第3小節がミ・ミ・ソ♯です。第3小節だけなら5で始められても、前のラから来ると別の指が出てしまうなら、そのつなぎ目を含めて練習します。
この見方は、同じ音形が別の場所に現れたときにも役立ちます。最初の数音が同じでも、行き先の音域や次の和音が違えば、最後の指を変える理由が生まれます。繰り返しに見える場所ほど、その終わりを読みます。
音の切れ目とペダル
運指を比べるときは、最初にペダルなしで弾き、指で保っている音と離している音を聴きます。《エリーゼのために》のこの版にはペダルの指示もあります。鍵盤を離す時点と、ペダルで響きを残す時間を分けて確かめます。
ペダルを使うと音は重なりますが、ソ♯だけ飛び出す打鍵や、右手の入りの遅れは残ります。指使いを変えたあとも、両手の音量と拍を聴きながら、曲に合う響きへ戻します。
ほかの曲でレガートを求める箇所なら、隣り合う音がどう受け渡されるかを比べます。フレーズの切れ目なら、音を離す時間が移動の準備にもなります。休符やスラーを読むことが、手を動かす時間を見つける手掛かりです。
和音の上の旋律を続けたい場面では、上の音をどの指が担当するかも運指の一部です。音を全部取れていても旋律が埋もれるときは、右手の和音から旋律を浮かせる練習で、声部ごとの役割も聴いてみてください。
速さと両手で確かめる
新しい指使いは、慣れたものより最初の反応が遅くなることがあります。番号を確かめながらゆっくり覚え、意図した指が出るようになってから、同じ短いフレーズで比べます。弾くたびに違う指が出ている間は、まだ比較する運指が定まっていません。
ゆっくり弾けたら、少し流れのある速さで試します。長い準備時間を置いたときだけ届く運指は、曲のテンポで再検討する必要があります。反対に、速さを戻せば指の順序も音も整うなら、移動を覚える練習がまだ必要なのかもしれません。
両手で弾くと崩れる場合は、どの音で注意が移るかを探します。左手のソ♯を弾きながら次の右手のミを待てるか、そのミが来る時点を耳で捉えます。運指の変更と両手のタイミングの練習を、一度の失敗だけで混同しないようにします。
決めた運指を書き込む
選んだら、入り口の指、指を越える場所、移動先の指を楽譜へ書き込みます。候補の数字が何段も残っていると、音符や休符より数字を探す時間が増えます。比較用のメモと、普段弾くときに読む運指を分けておくと、見る場所がはっきりします。
数字は、音のまとまりを読むためにも使えます。例えば「ここで1へ移る」と分かれば、その先の数音を同じ位置から見渡せます。音名を一つずつ追って止まる場合は、音程と和音から先を読む練習も合わせて取り組めます。
一度決めた運指は、前後の小節から入り直して練習します。毎回同じ動きが出るようになると、指番号へ向けていた注意を、旋律や響きに戻せます。あとで音楽上の理由が見つかれば、その箇所を改めて選び直します。
《エリーゼのために》全体を学んでいる方は、最後まで仕上げるための練習順序で、中間部を含む課題も見てください。今回の短い音形で考えた「前から入り、次へ進む」という視点を、ほかの難しい箇所にも広げていきます。
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