ピアノのメロディーが和音に埋もれるとき:右手の声部を弾き分ける練習

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

上の音を強く弾いても、歌が続かない。そんなときは、同じ手の中の音量と、音を離す時点を聴き直します。3音の和音からブラームスの譜例へ、旋律を保ちながら響きを重ねる練習。

ピアノでメロディーが和音に埋もれるときは、旋律の音だけを取り出して歌い方を決め、その音色を覚えたまま、下の音を加えてみます。上の音をさらに強く叩く前に、ほかの音をどれくらい鳴らしているか聴くことが、バランスを変える手がかりになります。

右手で和音を弾きながら、その中の1音を旋律として聞かせる。これは、右手全体を大きく、左手全体を小さくする練習から、もう一歩進んだ課題です。同じ手の中で役割の違う音を弾き、さらに次の和音へ歌を続けます。

私はこのような演奏を聴くとき、まず上の音が聞こえるかだけでなく、和音と和音の間に旋律が続いているかを聴きます。1つずつの和音では上の音が目立っていても、次へ進むたびにアクセントが付くと、歌が短く切れて聞こえるからです。

最初に確かめたいのは、次の3点です。

  • 旋律だけなら、どんな強弱と長さで弾きたいか。
  • 和音を加えた瞬間に、旋律の音色や出だしが変わっていないか。
  • 次の和音へ進んだときにも、旋律を1本の線として追えるか。

和音の中の旋律

「和音をきれいに弾く」というと、すべての音をそろえることに意識が向きます。音が同時に出ることは大切ですが、そのあとにどの音が耳に残るかも、曲の聞こえ方を左右します。和音はまとまりであると同時に、いくつかの声が重なったものです。

例えば右手でド・ミ・ソを弾き、ソを旋律として聞かせるとします。3音が同じ強さで鳴ると、和音の色は聞こえても、ソだけを次の音へ追いにくい場合があります。ソの出だしを保ちながらドとミを静かにすると、同じ和音の中から上の線が現れます。

ここで「旋律はいつもいちばん上」と覚えるより、曲ごとに歌の位置を見つけることが大切です。上に長く伸びる音があり、その下で旋律が動く書法もあります。まず音価、符尾、スラーを読み、実際に弾いて、どの線を聴かせたいか決めます。以下では、上の音が旋律になる和音から練習します。

同じ右手の中に、歌と支え
ド・ミ・ソの和音で、ソを旋律として聴くドから次のドまでの白鍵。ドとミは淡い灰色、ソは金色で示しています。右手で3音を同時に弾き、下のドとミに支えられたソを聴きます。

ソ

下の音
ド・ミ

ラ

下の音
レ・ファ

ソ

下の音
ド・ミ

上のソ・ラ・ソを先に歌い、その線を聴きながら下の音を加えます。3つの和音を、1つのフレーズへ。

1つの和音で音量を分ける

最初はペダルを外し、右手で無理なく届くド・ミ・ソを使います。ソだけを弾き、響きが硬くなりすぎず、次の音へ歌える音色を探します。鍵盤に触れてから弾くと、空中から指を落としたときより、出だしの違いを聴き比べやすくなります。

次に3音を同時に弾きます。ソの音色を覚えていても、和音にした途端に手全体を強く押し込むと、ドとミも大きくなります。和音全体の音量を上げる前に、ドとミをどれくらい静かにできるか試してください。聞きたいのは、ソが飛び出す音よりも、下の響きに支えられたソです。

違いがつかみにくいときは、ソを弾いて保持し、少しあとからドとミを加えてみます。これは、どの音が重なったときにソが隠れるかを聴くための比較です。下の2音が鳴った途端に耳がそちらへ移るなら、その量を減らします。比較したあとには、もう一度3音を同時に弾いて確かめます。

小指だけを硬く立て、ほかの指を固めて動かさないようにすると、和音を変えるときの移動まで窮屈になります。鍵盤を押さえ込んだ形を保つことより、次の音へ動けることも含めて試します。自分の手に合う指使いで、響きと動きの両方を見ます。

低い2音が抜けてしまった場合は、旋律と伴奏の量の差を少し戻します。内側の音にも、和音の色を作る役割があります。上のソだけが鳴っているような状態と、和音の中からソを聴ける状態を、耳で区別してください。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

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ウィーン育ちのコンサートピアニスト、Enea。

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3つの和音をフレーズにする

1つの和音でバランスが変わったら、ド・ミ・ソ、レ・ファ・ラ、ド・ミ・ソと進めます。上の音はソ・ラ・ソです。最初にこの旋律だけを弾き、ラへ向かう動きと、ソへ戻る落ち着きを聴きます。そのあと下の音を加えます。

各和音で上の音を同じように強くすると、ソ、ラ、ソが3つの独立した合図のように聞こえます。ラへ向かう途中なのか、ラからソへ収まるところなのかで、音の扱いを変えます。指先で上の音を選ぶ練習から、和音の中でフレーズを作る練習へ進む場所です。

移動のときは、前の和音を最後まで強くつかんだままにしないようにします。次の位置へ手を運ぶ時間がなくなると、着地で急に音が強くなります。ゆっくりした速さで、どの音をいつ離し、次の和音をどこで用意するかを試します。手の大きさによって届き方が違うため、指使いは音名だけで固定せず、前後の動きで選びます。

3つの和音を録音したら、全体の音量より、ソ・ラ・ソだけを歌って追えるか聴いてみます。途中で下の音が耳を奪う場所があれば、その和音と前の和音を取り出します。最後には3つを続け、局所的に直した音がフレーズの中でも自然か確かめます。

鳴らしたあとに聴くこと

アコースティックピアノでは、いったん鳴った音に対して、鍵盤の底でさらに力を加えても、その音を大きくし直すことはできません。音の出だしを作ったあとには、残っている響きと、これから鳴らす音の関係を聴きます。

旋律が長く伸び、その下で内声が動く場面では、最初の旋律音だけをよく鳴らしても、続く内声が大きければ途中から隠れてしまいます。長い音を保持している指へ力を足す代わりに、次に弾く内声の音量を変えてみます。旋律の響きが自然に弱くなっていくことも含めて、周囲の音を選びます。

音の終わりにも違いがあります。下の音を早く離しすぎると、和音が急に薄くなります。反対に、旋律より長く残すと、最後に内声だけが目立つ場合があります。譜面の音価を読み、どの音を持続し、どこで響きを変えるかを考えます。すべての音を一緒に離す癖があると、複数の声部に書き分けられた長さを落としやすくなります。

ブラームスの譜例

ブラームス《間奏曲》Op.118-2の冒頭には、同じ手の中で歌と和声を弾き分ける課題がよく表れています。上の旋律は弱起のド♯・シから、第1小節の長いレへ進みます。レに着いたあと、その下の音と左手の動きが加わっても、歌の方向を聴き続けたいところです。

長いレの下で、ほかの声が動く

ブラームス《間奏曲》Op.118-2、弱起〜第5小節。

譜例は横にスクロールできます。

イ長調、4分の3拍子。弱起のド♯・シから、第1小節の2分音符のレへ。レと同時に、その下のファ♯が鳴り、内声と左手は旋律の持続中にも動く。
譜例を大きく表示

最初の和音

レとファ♯を同時に弾いても、弱起から続くレの歌を耳に残します。

レを保持している間

新しく鳴る内声が、長い旋律を隠していないか聴きます。

まず上のド♯・シ・レだけを弾き、レをどのような響きで迎えるか決めます。次に第1小節のレと、その下のファ♯を一緒に弾きます。レだけのときに持っていた歌が、2音になるとどう変わるでしょうか。和音をつかむことに意識が移り、レが硬くなったり短くなったりしていないか聴きます。

そのあと、譜面にある内声の動きを加えます。旋律が長く続く間に、ほかの音は新しく鳴ります。新しい音の出だしは耳を引きやすいため、最初のレだけを強くして解決しようとせず、途中の音の量を聴き直します。最後に左手を戻し、弱起から数小節を一続きに弾きます。

私は、和音にしたときの旋律だけを何度か歌ってもらうことがあります。声なら自然に次へ進めるのに、鍵盤では和音ごとに止まるなら、その差が練習の対象になります。旋律を聞かせることには、音量だけでなく、次の音を待つ時間や、フレーズの行き先も関わっています。

この曲全体を学ぶ段階では、中間部の3連符や声部の対話、主題が戻るときの変化も課題になります。曲の準備や通した解釈については、ブラームス《間奏曲》Op.118-2の難易度と練習をご覧ください。ここでは、冒頭の響きを、同じ手の中のバランスを聴く一例として使っています。

ペダルを戻したときの響き

ペダルなしで音の役割が聞こえたら、曲に合うペダルを戻してみます。ペダルによって響きが長く重なると、先ほどは静かに聞こえた内声が、次の和音まで残ることがあります。指で作ったバランスと、残している響きの量を合わせて聴きます。

一度だけ、同じフレーズをペダルなし、普段のペダルで続けて録音すると、どこで旋律が隠れるか比べられます。ペダルを踏んだ版だけ濁るなら、旋律を強く叩く前に、和声の変わり目と踏み替えを確かめます。逆に、ペダルなしの段階から旋律が聞こえないなら、指で鳴らす音量の配分へ戻ります。

ペダルを浅くすれば必ず解決する、という一律の深さは決めません。楽器と部屋によって残る響きが違うためです。旋律の長い音、内声が動く場所、低音が変わる場所に耳を向け、そこで必要な踏み方を探します。基本の踏み替えは、ペダルの練習で説明しています。

自分の曲で確かめる

練習中の曲に戻ったら、和音が続く部分から短いフレーズを1つ選びます。まず旋律だけを取り出し、強弱や音の長さを含めて弾きます。次に和音を戻し、変わってしまった音を探します。最も高い音だけを機械的に強くするのではなく、そのフレーズで聴きたい線を保ちます。

速さを落とすときにも、旋律の行き先は残します。1和音ずつ止まって確かめる練習が続くと、動きは安定しても歌が分断される場合があります。和音単位で調整したあとは、少なくとも次の和音まで弾き、音と音の間を聴きます。

録音で旋律を追えるようになったら、別の入り方でも試します。曲の冒頭から弾く、少し前のフレーズから入る、途中から始める。そのどれでも同じ線を聴けるなら、練習したバランスが曲の中に定着しつつあります。音色そのものを見直したい方には、ピアノできれいな音を作る練習も役立ちます。

レッスンでの声部づくり

旋律が聞こえない原因は、内声の音量、手の移動、音の終わり、ペダルなど、弾いている箇所によって変わります。レッスンでは、実際のフレーズを聴き、旋律だけの演奏と、和音を戻した演奏を比べながら、その違いを作っている動きや音を探します。

Vienna Piano Schoolでは、池袋・新宿のピアノスタジオで、音色や解釈を深める対面レッスンのお申し込みを受け付けています。現在は開講準備中です。いま取り組んでいる曲と、旋律が埋もれると感じる箇所を添えて、無料体験レッスンをお申し込みください。初回体験は55分・無料。通常は55分4,800円、室料800円を加えた合計5,600円です。開始時期と体験の日程はメールでご案内します。

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