ウィーン国立音楽大学(mdw)のピアノ受験:学士・修士と日本での準備

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

ウィーン国立音楽大学(mdw)のピアノ受験を日本から目指す方へ。学士・修士の課題曲、出願と動画の締切、日本の卒業時期、楽典・聴音、ドイツ語B1の証明時期を解説。留学後の学びを見据えた演奏準備も紹介します。

ウィーン国立音楽大学(mdw)のピアノ受験を考え始めたら、最初に決めたいのは、受ける課程と入学する学期です。そこから動画提出、現地での実技、学士課程の楽典・聴音、ドイツ語の準備を組み立てます。日本の学校の卒業時期と、ウィーンでの学期の始まりも照らし合わせる必要があります。

私は留学を目指す方の演奏を聴くとき、今いちばんよく弾ける曲と同時に、これから育てたい音にも耳を向けます。たとえば、速いパッセージには勢いがあるのに、緩徐楽章では旋律が途中で止まって聴こえる。その違いを見つけると、受験までにどの曲へ時間をかけるかが見えてきます。

この記事で扱うのは、mdwのピアノ演奏専攻(Klavier Konzertfach/Piano Performance)の学士・修士課程です。まず、現在公表されている募集日程を見てみましょう。

青空と木々に囲まれたウィーン国立音楽大学(mdw)の本館。アントン・フォン・ヴェーベルン広場1番地

学士・修士と専攻選び

学士課程(BA)は8学期・240 ECTS、修士課程(MA)は4学期・120 ECTSです。ECTSは欧州の学修量を表す単位制度で、数字をそのまま日本の大学の単位数に置き換えるものではありません。学士では独奏に加え、室内楽や伴奏、音楽を理解するための科目にも取り組みます。修士では、それまでの学びを踏まえて演奏と芸術上の関心を深めます。

高校生の段階で学士を目指す方なら、得意な1曲だけで現在地を判断せず、異なる時代や性格の音楽を並べて聴きたいところです。曲によって音色や拍の感じ方を変えられるか、譜面を自分で読み進められるか。私は、レッスンで一つの提案を試した後に、本人が何を聴き取ったかも大切にしています。そこに入学後の学び方が表れるからです。

修士への出願には、関連する学士号、または大学が同等と認める課程の修了が必要です。日本の音大を卒業していれば専攻名を問わず自動的に認められる、と考えるのは避けましょう。取得する学位、専攻、履修内容を資料で伝え、mdwのStudiesCenter(学務窓口)に確認します。

修士を選ぶ際は、演奏上の関心も掘り下げます。独奏中心だった経験に室内楽を加えたいのか、近現代作品の響きを研究したいのか、ソナタ全体の構成をもっと大きく捉えたいのか。これまで弾いた曲と、今後取り組みたい作品を見比べると、学びたい内容を言葉にできます。

mdwには音楽教育や歌曲伴奏など、ピアノに関係する別の課程もあります。出願画面の課程名と、読んでいる試験要項を一致させてください。同じウィーンにあるMUKは別の大学です。そちらを検討している方は、MUKのピアノ留学・受験ガイドをご覧ください。

出願日程と日本の卒業時期

上の表では、出願と動画提出の締切を分けています。2027年1月の修士試験は、出願が2026年11月18日まで、動画が11月25日まで。2027年6月の学士・修士試験は、それぞれ4月7日と4月14日までです。動画の提出期間が残っていても、出願そのものの期限は延びません。

日本の大学を卒業する前に修士入試を受ける場合、mdwは在籍大学による正式な卒業予定日の証明を求めています。そして、mdwへ入学登録する前に、現在の課程を修了する必要があります。演奏試験の日と、学位を取得して入学できる日は、別々に確かめます。

たとえば、2027年3月に日本の大学を卒業する予定で、1月の修士試験を受けたい方を考えてみます。この試験は2027年夏学期と2027/28年冬学期の入学を対象にしていますが、mdwの2027年夏学期は3月1日からです。日本で学位を取得する日、証明書を受け取れる日、mdwの入学登録期限を大学に伝え、どちらの学期を希望するか相談します。「1月に合格すれば、そのまま春に入学できる」とは限りません。

動画の結果発表は、1月の修士試験に向けた回が2026年12月23日まで、6月の回が2027年5月19日までとされています。そこから現地試験まで約1か月です。動画通過の知らせを待ってから、残りのソナタの楽章を譜読みする計画では、音楽を練る時間が足りなくなります。

日本にいる間の練習では、提出する2曲を録画に向けて整えながら、現地試験の全曲にも触れ続けます。新曲が多い方は、大学の試験や卒業演奏会と重なる時期も考慮します。長い期間の練習配分は、音大受験の12か月計画でも詳しく扱っています。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

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ウィーン育ちのコンサートピアニスト、Enea。

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動画と現地試験の課題曲

動画に提出するのは、学士・修士ともに技巧的な練習曲1曲と自由曲1曲です。現地では、この2曲を含む、より広いプログラムを準備します。下の表は、公式要項のa〜fの区分に対応しています。

動画はa・b、現地は全プログラム

学士の現地試験はa〜e、修士はa〜fを準備します。異なる区分に同じ作品を重複して数えることはできません。

a:技巧的な練習曲動画・現地の両方学士:1曲修士:1曲
b:自由曲動画・現地の両方学士:ほかの区分と異なる1作品。ソナタの単独楽章も可修士:ほかの区分と異なる1作品。ソナタの単独楽章も可
c:ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト学士:1作品。ソナタなら全楽章修士:1作品。ソナタなら全楽章
d:バッハ学士:前奏曲とフーガ修士:前奏曲とフーガ
e:ロマン派学士:1作品修士:1作品
f:20・21世紀学士:独立した指定枠なし修士:1作品。印象主義を含む

暗譜が原則。1950年より後に作曲された作品は例外です。現地の最初の曲は受験者が選び、その後は審査員が指定します。

動画に使った曲も、現地で準備する?

はい。現地のプログラムにはa・bも含まれます。重複不可という条件は、同じ作品を別の課題区分へ二重に当てはめることを指します。

自由曲には、ほかの区分と異なる作品を選びます。たとえば、cの区分にベートーヴェンのソナタを用意する場合、その同じソナタの第1楽章をbの自由曲として重ねて数えることはできません。自由曲にソナタの単独楽章を選ぶなら、別の作品から選びます。

cの作曲家には、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンに加え、シューベルトも含まれます。ソナタを選ぶ場合は全楽章が対象です。バッハは学士・修士ともに前奏曲とフーガを準備します。普段の試験でフーガだけを弾いていた方は、前奏曲も含めてプログラムを見直してください。

ロマン派の区分には、ラフマニノフ、作品52までのスクリャービン、作品21までのシマノフスキが明記されています。作曲家名だけで分類せず、作品番号まで照合する部分です。修士にはさらに、印象主義を含む20・21世紀作品の区分があります。普段弾いている音楽から離れた作品を選ぶ場合は、記譜や響きを理解する時間も練習期間に含めます。

暗譜が原則で、1950年より後に作曲された作品は例外です。「現代的に聴こえる曲」という印象で決めず、作曲年を確かめます。現地試験の最初の曲は受験者が選び、その後は審査員が曲目表から指定します。動画の2曲だけでなく、準備したどの曲にも、その音楽らしい入り方が必要になります。

選曲と全曲の仕上げ

私なら、動画の候補曲を決める前に、2曲を続けて聴きます。練習曲で速い動きと明確なリズムを示せるなら、自由曲では長い旋律や静かな響きを聴かせる組合せが考えられます。一方、ゆったりした曲でも、伴奏が旋律を覆っていれば、本人のよさは伝わりません。性格の対照と、実際の完成度の両方を見て選びます。

練習曲では、速くしたときに音楽の何が変わるかを聴いてみてください。右手の細かな動きに集中するあまり、左手の低音が毎回強くなり、フレーズが1拍ずつ切れてしまうことがあります。その場合は、低音と旋律の骨格だけを弾き、和声がどこへ向かうかを耳に入れてから、細かな音を戻します。速さを上げる前に、支える音と通り過ぎる音の役割をつかみます。

自由曲で歌う旋律を選んだら、長い音を保つ間にも伴奏が動く箇所に注目します。鍵盤を押さえ続けていても、旋律は自然に減衰していきます。次の伴奏音を強く置くと、耳がそちらへ移ってしまいます。私は、旋律の次の音へ向かう息の長さを歌ってもらい、その線を邪魔しない伴奏の強さを一緒に探します。

現地用のバッハでは、前奏曲とフーガをそれぞれ一つの音楽として仕上げます。フーガの主題が低声部に移った箇所なら、上の声部を小さくするだけで済ませず、低声部のどの音がフレーズの重心になるかを確かめます。主題を弾きながら別の声部を歌うと、手の動きだけでは気づかなかった音の関係が聴こえることがあります。

ソナタの全楽章を準備すると、技術的な難所以外の課題も表に出ます。第1楽章の力強い終わりから、緩徐楽章の最初の音へ移るとき、同じ重さのまま弾き始めていないか。終楽章の軽さを出そうとして、拍の支えまで失っていないか。各楽章の冒頭を録音して並べると、音色と拍の性格がどれほど変わっているかを比較できます。

全曲を通す日は、止まらず弾けたかに加えて、集中の配分を聴き直します。難しい箇所を越えた直後に、静かな移行部が雑になることもあります。録音でその部分を見つけたら、難所の前から移行部の終わりまでを一つの範囲として練習します。技巧の成功で気持ちを切らず、次の音楽まで運ぶためです。

mdwのFuture Art Labにある明るい部屋のグランドピアノ。大きな窓の向こうにキャンパスが見える

学士の楽典・聴音

学士課程には、実技に加えて楽典・聴音の筆記試験があり、必要に応じて口頭試験が加わります。公式案内には、ト音記号・ヘ音記号による記譜、音程、和音、音楽の書き取り、基本的なリズム・旋律・和声の聴き分けが挙げられています。2027年6月の募集では、実技の翌日、6月22日に予定されています。

日本で楽典やソルフェージュを学んできた方も、何が耳で分かり、何を紙に書けるかを分けて確かめます。和音の名前は答えられるのに、音だけでは長三和音と短三和音を迷う。旋律は歌えるのに、休符を含むリズムを記すと拍がずれる。そうした差によって、練習の出発点が変わります。

短い旋律を使うなら、まず聴いて歌い返し、拍を保ちながらリズムを記します。その後で音高を書き、原曲と比べて最初に食い違った場所を探します。音程の聞き違いなのか、音は分かっていたのに五線へ置くときに間違えたのか。答え合わせでは、その過程までたどります。

和音を聴く練習では、同じ和音を異なる音域や配置でも弾いてみます。低い音が増えるだけで、知っている響きが別のものに感じられることがあります。まず各音を歌い、次に全体を聴き直すと、音の密度に惑わされたのか、和音の種類そのものを捉え違えたのかが分かります。

受験曲も教材になります。ソナタの終止で低音を歌い、旋律との音程を確かめる。フーガの主題を鍵盤から離れて書き、譜面と照合する。ここで挙げたものは準備のための練習例です。公式の出題例と混同せず、大学が示す範囲を軸に取り組んでください。修士の要項は動画と現地実技の2段階を示しているため、学士の筆記試験をそのまま修士の条件として扱わないようにします。

出願書類と撮影条件

出願先はオンラインシステムのmdwOnlineです。学務窓口が申請を確認して承認するとメールが届き、動画アップロード機能を使えるようになります。日本で書類をそろえる段階から、出願の締切と動画の締切を別々に予定へ入れておきます。

修士では、学士号の証明、成績証明書、ディプロマ・サプリメントをドイツ語または英語で提出するよう指定されています。ディプロマ・サプリメントは、学位や履修内容などを説明する補足資料です。在籍・出身大学が同じ名称の書類を発行していない場合は、用意できる英文資料をmdwへ伝え、何を提出するか確認してください。卒業予定日の証明も、本人が書いた説明ではなく大学の正式な資料を用います。

書類を取り寄せる際には、学校名、学位名、本人氏名の英語表記を確認します。曲目表は作曲者、作品名、作品番号、演奏する楽章を明記し、動画の表示とそろえます。日本語の通称しか書かれていない曲名は、楽譜の表題を見て正式な名称を調べておくと、別作品との取り違えを防げます。

ピアノの撮影条件は、各作品を無編集・無切断の1回の演奏で収録し、固定した一つの角度から全身、特に手・足・鍵盤を見せるというものです。提出は1つまたは2つの動画ファイルで、指定ポータルを使います。顔と手だけが大きく映る構図や、ペダルを踏む足が切れた構図は、この条件に合いません。

最初に短く試し撮りをし、低音域から高音域まで動いたときの画角と、強奏の音割れを確認します。ペダルの響きが濁っていないか、弱音の旋律が伴奏の中に残っているかも聴きます。機材と音の調整は、ピアノの録画審査の準備を参考にしてください。

アップロード案内では、解像度は最大Full HD、動画の容量は最大4 GBとされています。転送終了後は、画面に完了表示が出たことと、曲の情報を確かめます。締切までにアップロードされたファイルは自動処理され、完了の確認メールや締切のリマインダーは送られません。最後の確認は、提出画面で行います。

ドイツ語B1と音楽の会話

ピアノ演奏専攻BA・MAの案内では、ドイツ語の基準としてB1が示されています。証明の期限は、学士が第3学期への登録前、修士が第2学期への登録前です。受け付ける試験や証明書の有効期間は公式要項に記載されています。期限までに証明がないと主科へ登録できないため、入学後の実技の予定にも関わる条件です。

特に修士は、入学から証明の期限までが短くなります。日本で受験できる語学試験を選ぶ際は、大学が受理する証明書かを確認し、試験日と結果・証明書の発行時期を調べます。曲が仕上がってから語学を始めるのでは、出願直前に負担が重なります。演奏の練習と並べて、継続する時間を確保しましょう。

レッスンの言葉は、自分の曲に結び付けて使います。Ab dem zweiten Takt は「第2小節から」。その場所を見つけて弾き始め、続いて die linke Hand allein と言われたら左手だけを弾く。文章を毎回最後まで日本語へ訳すより、場所や手を示す言葉に反応する練習が、実際のやり取りに近くなります。

自分から質問する言葉も持っておきたいところです。Meinen Sie hier weniger Pedal? は「ここはペダルを減らすという意味ですか」。聞き返した後に、ペダルを浅くした演奏と、踏み替えを早めた演奏を試し、どちらの響きを意図しているか聴きます。短い質問でも、音を交わしながら話を深められます。

私は、語彙を増やす練習と一緒に、今弾いた数小節について説明する時間を作ります。「この内声を残したい」「ここで低音が強すぎた」と、耳で気づいたことを短く言葉にする。言い慣れた表現が自分の音楽と一緒に増えていきます。読み方や頻出表現は、ピアノのドイツ語用語にまとめています。

日本からの渡航と演奏準備

動画選考を通過したら、大学からの案内をもとに現地の予定を組みます。学士の6月受験では、実技と翌日の楽典・聴音の両方を含めて滞在を考えます。公表された試験日と、自分に届く集合時刻や会場案内を確認してから、移動の計画を固めます。

滞在先と同時に調べたいのが、到着後に弾ける楽器です。試験会場のピアノで事前に自由に練習できるとは想定せず、使える練習場所、予約、利用時間を調べます。移動日の直後から長時間の練習を詰め込むより、体を休め、鍵盤の重さと音の返りを確かめる時間を取りたいところです。

日本で慣れたピアノと響きが違うとき、まず聴きたいのは低音とペダルです。低音が長く残る楽器では、普段と同じ深さで踏んでも次の和声が濁ることがあります。日本にいる間から、同じ数小節をペダルの深さや伴奏の重さを変えて弾き、旋律の形を保つ練習をしてみてください。一つの弾き方だけに頼らず、響きに応じて調整する経験になります。

最初に弾く曲は、自分の呼吸と音色をつかめるものを選びます。難所が目立つ曲でも、冒頭の音楽を普段から安定して示せるかが判断材料です。次の曲を指定された場面も練習し、最初の音を出す前に、その曲の拍と低音を思い浮かべます。プログラムの順番に頼らず、それぞれの音楽へ入る力を育てます。

mdw受験に向けたレッスン

日本で進めるmdw受験準備では、志望課程と入学希望時期、現在の曲目、最近の演奏録音をもとに、実技の課題を見ていきます。動画の自由曲を変えるべきか、ソナタの全楽章に時間をかけるべきか、聴音やドイツ語をどこから始めるか。曲の仕上がりと本人の予定を聴いたうえで、一緒に決めます。

私自身がウィーンで学んできた経験からも、留学前に育てたいのは、演奏を聴いて考え直す習慣です。先生から違う弾き方を示されたとき、音がどう変わったのかを自分で聴き、その理由を問い直す。受験曲を準備する間にも、そのやり取りを重ねていけます。

ピアノの実技に加え、音楽のためのドイツ語、教授への連絡や出願準備の相談にも対応しています。対象は中学生以上と大人の方で、日本語・ドイツ語・英語で受講できます。オンラインレッスンは現在受講でき、東京・新宿での対面レッスンは2026年10月から始まります。

講師Eneaのプロフィールと、30分無料の体験レッスンをご覧ください。受験候補の曲と、最近の演奏を用意していただければ、まずその音楽を聴くところから準備を始められます。

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