モーツァルテウム音楽大学のピアノ受験:動画審査とザルツブルクでの試験

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学のピアノ受験を日本から目指す方へ。学士・修士の課題曲、動画と現地の違い、当日配布の小品、楽典・聴音、ドイツ語A2を解説。全曲の準備と留学後の学びを考えます。

ザルツブルクのモーツァルテウム音楽大学でピアノを学びたいと思ったら、動画に入れる曲と、現地で弾く曲を最初に並べてみてください。学士課程の動画は4つの課題で構成されますが、現地ではソナタの全楽章や別の時代の作品も必要です。さらに、試験初日に渡される短い曲を、第2ラウンドまでに準備する課題があります。

私自身もモーツァルテウムで学びました。留学を目指す方の演奏を聴くときは、得意な曲の完成度に加えて、まだ慣れていない音楽にどう向き合うかを大切にしています。楽譜から音の関係を読み、自分の解釈を持って先生と話す。その力は、受験の先にある日々のレッスンでも使い続けます。

この記事ではピアノ学士課程(BA)を中心に、ピアノ・ソロの修士課程(MA)との違い、日本で進めたい演奏・語学の準備を紹介します。公式のピアノ課程ページに掲載されている日程は、すでに終了した2026年の募集回です。 次回の出願には、改めて公表される日程と要項を確認してください。

ザルツブルクのミラベル広場にあるモーツァルテウム音楽大学のガラス張りの入口と大学名の表示

学士・修士と出願資格

ピアノの学士課程は8学期・240 ECTSで、授業言語はドイツ語です。独奏に加えて、室内楽や音楽理論などを学びます。入試曲だけで数年間を過ごすわけではなく、新しい作品を読み、他の演奏者と合わせ、自分の演奏を振り返ることが学びの中心になります。

ピアノ・ソロの修士課程は4学期・120 ECTSです。出願には、関連分野の学士課程修了、またはそれに相当する学歴が必要です。日本の音楽大学を卒業する方は、学位の名称とピアノ専攻の証明を分けて考えましょう。成績証明書などに主専攻の楽器が明記されていなければ、その内容を確認できる大学の証明が求められます。

修士の出願時点で在学中の場合は、公式案内に従って在学証明を提出し、入学手続きまでに修了証明を補います。日本語の書類には、ドイツ語または英語の正式な翻訳が必要です。まず在籍大学に英文で発行できる書類を確認すると、学位・科目・専攻のどの情報がそろうかを把握できます。既修の学位が出願先の条件に当たるかは、大学側の審査で判断されます。

モーツァルテウムには、ソロ以外にも室内楽や歌曲伴奏など、ピアノに関わる複数の修士課程があります。ここで扱うのは Klavier Soloausbildung です。将来取り組みたい音楽と専攻を照らし合わせ、教員の演奏や授業の内容も調べてみてください。「どの先生に習いたいか」と「何を学びたいか」を一緒に考えると、志望理由に自分の音楽が表れます。

出願日程と動画提出

出願の窓口はMuvacです。初めてオーストリアの大学に登録する場合は、その前にMOZonlineでアカウントを作り、統計情報の登録(UHstat1)を通して申請番号を取得します。すでにオーストリアの大学で学んだことがある方には、既存の学籍番号を使う案内があります。

Muvacのプロフィール作成後、希望課程の出願を送信すると確認が届きます。大学が出願を処理した後に、動画審査への招待が届く流れです。招待には期限内に参加の回答をし、動画をアップロードします。アカウントを作った時点と、出願・動画提出が完了した時点を混同しないよう、Muvac内の状況とメールを確認しましょう。

動画は、ドイツ語または英語で自由に話す2分以内の自己紹介から始めます。そのまま演奏へ進み、課題曲を任意の順番で続けます。ピアノは自己紹介から最後の曲まで、カットや場面転換を入れずに1本で撮影します。 ファイルは1本、容量は最大5 GBです。

顔と身体が映り、音と映像が明瞭であることも条件です。録音した音を電子的に増幅・加工することは禁止されています。録音時に強奏が割れないレベルを選び、後から音を作り直さずに提出できる状態で収録します。撮影場所や音量の確認は、ピアノの録画審査の準備でも解説しています。

自己紹介では、これまでの学習と志望理由に加えて、今関心のある音楽を自分の言葉で話してみてください。たとえば「室内楽で相手の呼吸を聴きながら弾く力を伸ばしたい」と言えるなら、その背景にある演奏経験にも話が及びます。長い経歴を暗唱するより、今の学びと次の目標が伝わる内容を選びます。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

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ウィーン育ちのコンサートピアニスト、Enea。

Enea

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動画審査の課題曲

学士の動画で演奏するのは、バッハの前奏曲とフーガ、古典派のソナタの速い楽章、ショパンの技巧的な練習曲、5分以上の自由曲です。古典派にはシューベルトも含まれます。ショパンはOp.10の第3番・第6番、Op.25の第1番・第7番を除く指定です。

自由曲の最低演奏時間と練習曲の除外番号は、ドイツ語版の要項に明記されています。英語版には5分以上という条件の記載がなく、Op.25の除外番号も読みにくいため、この2点はドイツ語版の表記に沿って確認します。

学士:動画の曲から現地の全曲目へ

録画前にソナタの全楽章と追加作品まで選びます。修士の追加課題は本文で説明しています。

バッハ動画:前奏曲とフーガ現地:動画と同じ前奏曲とフーガ
古典派のソナタ動画:速い楽章を1つ。シューベルトも含む現地:その作品の全楽章
ショパンの練習曲動画:技巧的な1曲。Op.10の第3・6番、Op.25の第1・7番を除く現地:動画と同じ練習曲
自由曲動画:5分以上の1作品現地:下欄のロマン派または20・21世紀の作品を、動画の自由曲に使えます
ロマン派と20・21世紀動画:どちらかを自由曲として選択可能現地:ロマン派1作品と、20・21世紀の1作品を準備
現地配布の小品動画:動画では演奏しません現地:初日の受付で楽譜を受け取り、第2ラウンドまでに準備

現地では審査委員会が演奏箇所を選びます。暗譜の例外は、1945年以降の現代作品と現地配布の小品です。

自由曲を現地の課題と兼ねるには?

学士では、現地用に選んだロマン派または20・21世紀の作品を、5分以上という条件を満たしたうえで動画の自由曲にも使えます。現地には両方の時代の作品を用意します。

自由曲には、現地試験で用意するロマン派または20・21世紀の作品を使えます。最初に現地までの曲目を決めておくと、動画用の自由曲にも役割が生まれます。速い動きの多い曲が並んだ場合、長い旋律を支える作品を選ぶのか、響きやリズムの対比を示す作品を選ぶのか。曲名の知名度より、プログラムを通して何が聴こえるかを考えたいところです。

ショパンの練習曲では、速さと粒のそろい方だけに耳を向けると、旋律が埋もれることがあります。右手の細かい動きが同じ形を繰り返していても、左手の和声が変わるところでは響きの方向も変わります。私はまず低音を弾いてもらい、その上にどの音を浮かべたいかを一緒に聴きます。指の動きが安定した後にも、強弱や声部の扱いを掘り下げる余地があります。

バッハでは、主題が出るたびに機械的に大きくすると、他の声部の流れが切れてしまいます。ある声部が主題を弾く間、別の声部はどこへ向かっているでしょうか。2声ずつ取り出して歌い回しを確かめ、それから全声部に戻すと、主題の下で続く音楽にも耳を向けられます。前奏曲とフーガを続けて弾き、両者の性格の違いも聴いてください。

録画の練習では、自己紹介と全曲を一度通してみます。前の曲の終わりから、次の曲の拍子と音色へ気持ちを切り替える時間も演奏の一部です。曲間を削れない条件だからこそ、急いで次の鍵盤に触れず、最初の一音を内側で聴いてから始める習慣が役立ちます。

全曲演奏と現地の2段階審査

学士の現地実技は2ラウンドで、用意した曲の中から審査委員会が演奏箇所を選びます。バッハとショパンは動画の曲を引き継ぎ、古典派のソナタは全曲に広がります。さらにロマン派と20・21世紀の作品を用意します。ロマン派にはラフマニノフや、Op.53までのスクリャービンも含む案内です。

暗譜の例外は、1945年以降の現代作品と、現地で配られる小品です。ウィーンの大学も併願する場合は、mdwのピアノ受験案内などと課題の範囲を別々に確認してください。大学ごとに暗譜や曲目の条件が異なります。

動画で第1楽章を弾くなら、第2楽章以降も録画前から読み始めたいところです。緩徐楽章の細い旋律や、終楽章の軽い伴奏に苦労することは珍しくありません。速い楽章で身につけた打鍵の勢いをそのまま持ち込むと、弱音が硬くなったり、歌の息が短くなったりします。

全曲を通すときは、各楽章の性格に加えて、楽章の間に置く沈黙も聴いてみてください。第1楽章を重く終えた後、第2楽章まで同じ緊張で始めると、作品全体が動きにくくなることがあります。最後の和音、余韻、次の楽章の最初の音を続けて試し、音楽の景色が変わる瞬間を探します。

途中から弾く練習も欠かせません。再現部を指定されたつもりで、そこから最初のフレーズを弾いてみましょう。直前の和声と拍を頭の中で聴き、出発点の音色を決めてから始めます。冒頭から指を動かす記憶に加えて、作品の節目ごとに音楽を思い出せるかを確かめる練習です。

修士のピアノ・ソロでは、動画の4課題に続く現地の曲目がさらに広がります。バッハ、古典派全曲、ショパン、ロマン派に加えて、20世紀初頭の作品と、1945年以降の現代作品をそれぞれ準備します。 現地配布の小品もあります。学士の「20・21世紀の1作品」と同じ曲数で考えず、修士の要項で各欄を埋めてください。

ガラス屋根の下に大階段と回廊が広がるモーツァルテウム音楽大学のエントランスホール

当日配布の小品

学士・修士とも、現地の初日に受付で短いピアノ曲の楽譜を受け取り、第2ラウンドに向けて準備します。この曲は楽譜を見て演奏できます。受け取ってすぐ弾く初見課題とは異なり、限られた時間で譜読みを進め、音楽としてまとめる課題です。

日本でのレッスンでも、先生に未習の短い曲を選んでもらい、数日後など期限を決めて演奏する練習ができます。この日数は練習上の設定で、実際の審査間隔を示すものではありません。曲を替えながら試すことで、最初にどこを読み、何に時間をかける傾向があるかが見えてきます。

私は、弾き始める前に楽譜の最後まで目を通してほしいと思っています。同じ動きの反復、拍子の変化、休符、強弱の頂点、終わり方。全体を見渡すと、一見難しそうな小節にも役割が見つかります。音名を1つずつ拾う作業に入る前に、曲がどのように進むかを想像してみます。

たとえば、右手の旋律が小節線をまたいで伸び、その下で左手の和音だけが変わる場面を考えます。両手を一緒に追っていると、右手を左手につられて弾き直したくなるかもしれません。右手の長い音を歌いながら左手を弾くと、音を保つ時間と和声が変わる時点を分けて聴けます。難しい音形を反復する前に、どの関係を読み違えているかを捉えることが大切です。

細部を練習した後は、一度最後まで弾いてみます。数小節だけがよく仕上がっていても、その前後で毎回止まるなら、次の練習は曲の流れに向けます。テンポを控えめにしてでも、拍、声部、フレーズの行き先を保った演奏を目指したいところです。

レッスンに持ってきたら、「ここは低音の動きを聴いて、この音を少し長くしました」と、選んだ理由も話してみてください。先生の指示を再現する力と、自分で楽譜を読み判断する力の両方が、留学後の勉強を支えます。

学士の楽典・聴音

学士には実技とは別に、約60分の筆記と5〜10分の口頭による音楽理論・聴音の試験があります。旋律・リズムの聴音、和音と転回形、和声機能などに加え、与えられた旋律の続きを作る課題や、短い文章に旋律を付ける課題も示されています。

口頭試験には新曲視唱、和音を聴いて歌う課題、和声の聴き取りなどがあり、長調・短調の拡大カデンツを異なる2つの調で演奏する課題もあります。ピアノ・ソロ修士の案内には、この学士と同じ独立した楽典・聴音試験は記載されていません。

公式の試験例を早い時期に試し、知識と実際の反応を比べてください。楽譜を見て和音の名前が言えても、転回形を耳で捉えたり、その構成音を歌ったりする場面では迷うことがあります。ピアノで正解を探す前に声に出してみると、どの音を内側で聴けているかが分かります。

今弾いているソナタの短いフレーズも教材になります。旋律だけを歌い、次に低音だけを弾き、終止に向かう和声を確かめます。和音を縦に数えるだけで終わらせず、「ここで落ち着きそうなのに、なぜまだ先へ進む感じがするのか」と耳で追ってみましょう。その感覚は、演奏の息の長さにも関わります。

旋律の続きを作る課題では、最初の数小節が問いかけなのか、同じ形を繰り返しているのか、終止に向かっているのかを聴きます。続きの案を歌ってから書き、書いた楽譜をそのまま弾き直してください。頭の中では自然だった旋律が、記譜すると拍からはみ出していることもあります。歌う、書く、読むという3つの間を行き来します。

文章への作曲では、言葉を声に出して、強く読む音節と軽く読む音節を確かめます。それから短い旋律を付け、言葉の抑揚と音楽の重心がどう重なるかを聴きます。これは歌のためだけの練習ではなく、ピアノの旋律を語るように弾く感覚にも関わる課題です。

ドイツ語A2とレッスンの会話

ピアノ学士とピアノ・ソロ修士は、ドイツ語を母語としない入学者に入学手続きまでにA2以上のドイツ語証明を求めています。語学講座に通った証明だけでは満たせず、大学が認める試験・証明の条件を確認して受験します。

語学試験による証明では、読む・聴く・書く・話すの4領域すべてを、同じ試験実施団体で必要な水準以上に合格する条件があります。GoetheやÖSDなどの証明には有効期間の扱いもあるため、以前取得した証明を使う方は、入学する学期の基準日から確認してください。日本で受験する場合も、試験日だけでなく結果と証明書が届く時期まで予定に入れます。

A2の準備と並行して、ピアノの前で使う短い会話を練習しましょう。音名や拍の指示を聞き取ることに加え、「内声をもう少し出すという意味ですか」「ペダルを替える位置を確認したいです」と尋ねる力があると、レッスン中の疑問をその場で扱えます。基本的な語句は、ピアノのドイツ語用語と読み方にまとめています。

私は、言葉の練習を演奏から切り離しすぎないようにしています。短いフレーズを弾き、どう変えたいかを1文で言い、もう一度弾いて聴き比べます。話す内容が目の前の音と一致すると、その表現を次の曲でも使えるようになります。先生への質問や自分の解釈を伝える練習は、自己紹介の暗記とは違う準備です。

日本からの渡航と準備期間

日本から受験する場合、動画の締切までに全曲の譜読みを進め、現地試験までに演奏を育てる流れで考えます。動画通過後からソナタの残りの楽章や現代作品に着手すると、移動の手配と新曲の練習が同時に集中します。長期的な配分は、音大受験の12か月の準備計画も参考になります。

録画が近づいた時期にも、現地だけで弾く曲に触れる時間を残します。録画曲は何度も弾くため問題点を把握しやすい一方、まだ通していない曲の難しさは見落としがちです。数週間ごとに全曲目の一部を先生に聴いてもらい、先に解決したい箇所を選びます。仕上がった曲を増やすことと、手つかずの曲を減らすことを両方進めます。

現地試験の招待が届いたら、自分の受付・試験の予定と練習できる楽器を確認します。公式の数日間の試験期間だけから、全員が同じ日に弾くと決めつけず、個別の案内を基準に滞在を組みます。当日配布の小品を練習する時間もあるので、会場に行く時間だけで予定を埋めないことが大切です。

日本からの長距離移動後には、楽器と身体の感覚を確かめる時間を持ちたいところです。慣れないピアノでは、弱い和音、旋律と伴奏、最も厚い響きの箇所を試してみます。同じ強さで弾いたつもりでも、伴奏が前に出たり、ペダルで低音が残りすぎたりします。日本で決めた指の感触を再現することより、その場で聞こえる響きを基準に調整します。

モーツァルテウム受験のレッスン

受験準備のレッスンでは、最初に全曲目とそれぞれの進み具合を見ます。動画に向けて音楽を磨く曲、全楽章を育てたいソナタ、読み方から学びたい現代作品では、必要な時間の使い方が異なります。譜読み、和声、暗譜、通して弾く経験を、曲ごとの課題に合わせて組み込みます。

私のレッスンでは、演奏指導に加えて、音楽家向けのドイツ語、教授との連絡、出願準備の相談にも対応しています。ウィーンとザルツブルクでの学びを含む経歴は、講師Eneaの紹介をご覧ください。

対象は中学生以上と大人の方で、日本語・英語・ドイツ語で受講できます。オンラインレッスンは現在受講可能で、東京・新宿での対面レッスンは2026年10月からです。30分の無料体験レッスンでは、候補曲の一覧と最近の演奏をもとに、最初に時間をかけたい音楽上の課題を一緒に聴いていきます。

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