ピアノの録画審査:撮影前に確認したい音・画角・提出条件
ピアノの録画審査では、演奏の良さが伝わる音と映像に加え、志望先の提出条件を満たすことが必要です。撮影前に確認したいのは、曲目、録画を続ける範囲、本人確認、顔と手の見え方、そして提出形式。まず短い試し撮りで音と画面を確かめ、その条件で一つの演奏を弾き通せるように準備します。
映像を美しく仕上げようとするほど、練習より機材のことが気になってしまうかもしれません。けれど、伝えたいのは普段の勉強で育ててきた音楽です。ここでは国内外の音大受験を中心に、撮影の条件と、録画の中で自分の演奏をどう聴くかを考えます。出願先の個別の指示がある場合は、そちらを優先してください。
録画の操作を演奏前に済ませておくと、弾き始めてから画面を気にせずにすみます。写真は準備のイメージで、審査用の画角を示すものではありません。
最初に読むのは、今年の募集要項
録画の準備は、受験する年度、課程、専攻、選抜区分が分かる公式ページから始めます。同じ大学でも、学部と修士、予備審査と最終審査では条件が違います。検索結果に出た動画案内だけを保存せず、今年の募集要項からその資料へリンクされているかまで見ておくと、古い手順を使う間違いを避けやすくなります。
実際に、東京音楽大学の2027年度の対象ピアノ専攻・コース向け案内は、MP4ファイルをGoogle Classroomへ提出する方式です。2026年度のYouTubeリンクによる案内を、そのまま次の受験に使うことはできません。また、2027年度の案内では、本人確認から全作品まで撮影を止めずに収録します。氏名を名乗るのではなく、指定された方法で顔を映し、受験番号を読み上げる指示があります。
一方、ロンドンのRoyal College of Music(RCM)の2027年入学向け動画受験案内では、複数の演奏を別ファイルで出すことが認められ、冒頭では氏名と演奏する作品を話します。複数ファイルが使えることは、演奏中のミスをつなぎ直してよいという意味ではありません。同校も編集や効果の追加を認めていません。以上は2026年9月14日に確認した例で、どちらも全受験者に共通する一般規則ではありません。
この違いは、撮影する日の過ごし方にも関わります。全曲を連続して撮るなら、最後の曲まで集中を保つ準備が要ります。曲ごとに収録できるなら、指定の範囲で休憩を取りながら進められます。撮り終えてから条件に合わせるのは難しいので、分からない箇所は撮影前に入試窓口へ確認しましょう。
録画で聴かせたい音楽を決める
課題曲の指定を満たしたうえで、自分が何を聴かせられるプログラムなのかを考えてみます。速いパッセージが弾けること、対位法の声部を聴き分けられること、長い旋律を保てること。それぞれは別の力です。自由曲を選べる場合も、難易度だけで決めず、今の演奏で作品の性格がどこまで伝わるかを先生と相談すると、仕上げる方向が定まります。
たとえば、歌う旋律と伴奏がある曲なら、録音で旋律を最後まで追ってみてください。始まりはよく歌えていても、音が下がるところで急に弱くなり、途中から伴奏だけが目立っていないでしょうか。逆に、クライマックスへ向かう前からすべての音が強いと、到着したときの変化が小さく聞こえます。ここで直したいのは、録音の音量ではなく、フレーズの中の重みの配分です。
バッハのように複数の声部を聴く曲では、片方の手だけに注意を向けず、主題が別の声部へ移ったところで耳も移してみます。ソナタなら、速い音型の均等さに加え、主題が戻ったときの性格や、終止までの呼吸を聴きます。録画というと小さなミスを探したくなりますが、作品のまとまりも同じくらい丁寧に確かめたいところです。これは審査の採点表ではなく、提出する演奏を選ぶための聴き方です。
曲目と楽章、繰り返しの扱い、暗譜の条件、演奏時間は、実際に弾く内容と照らし合わせておきます。曲名が合っていても、指定された楽章を省略していたり、時間に収めるために途中を切っていたりすれば、条件を満たせません。暗譜に不安がある場合は撮影直前の通し練習だけで解決しようとせず、暗譜を支える4つの記憶のように、音、楽譜、構造、動きを結び直す練習へ戻りましょう。
本番の録画より前に、予定した曲順で一度弾いてみることにも意味があります。よく仕上がった曲でも、前の曲で使ったテンポ感や手の感覚を引きずると、出だしが落ち着かないことがあります。曲間の静けさの中で次の音を思い浮かべる時間も、プログラムの一部として練習できます。


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顔と両手が、演奏中も見える画角に
カメラは、演奏を始める前の姿だけで位置を決めないようにします。実際の曲で低音側、高音側へ手を動かし、体を傾けたときにも、指定された部分が画面に残るかを見ます。最初は両手が見えていても、譜面台やピアノの縁に奥の手が隠れることがあります。少し角度や高さを変えるだけで、見え方が大きく変わります。
撮影方向の指定がなければ、顔の向きと両手を一緒に確かめられる斜め横の位置から試すと考えやすくなります。ただし、左右どちらからでもよいとは限りません。足元や全身が必要な場合は、その範囲まで入る距離を取り、画面上で顔や指が小さくなりすぎないかも確かめます。近くに寄せればよい部分と、引いて見せたい部分との折り合いをつける作業です。

- 1横顔
- 顔が譜面台に隠れず、向きが分かります。本人確認で正面の顔を求められる場合は、その場面も別途必要です。
- 2両手と鍵盤
- この瞬間の両手は見えます。ただし、曲の途中で手が端へ動いても映るかは、動画で確かめます。
- 3写真の外にあるもの
- 足の動きと鍵盤全体は確認できません。全身や足元を求める審査なら、さらに広い構図が必要です。
静止写真を使った見え方の説明です。実際の応募動画や、すべての審査に適した構図を示すものではありません。
画角が決まったら、安定した三脚などで固定します。撮影中に演奏者を追ったり、鍵盤へズームしたりする必要がない構図にしておくと、弾く側も落ち着きます。端末をピアノ本体に置くと、演奏の振動や操作する手の動きが映像に出る場合があるため、独立した置き場所で試すとよいでしょう。
窓を背にすると顔や手が暗くなることがあります。顔だけを明るくするのではなく、鍵盤の白さも残る程度の光で試し撮りをします。画面では明るく見えても、保存された動画では露出が変わっていることがあるので、録画後の映像を見ることが大切です。服装は指定があれば従い、演奏時に袖や装飾が手を隠さないものを選びます。
弱音と響きの終わりが聴こえる音に
試し撮りでは、曲の冒頭だけでなく、最も静かな部分と強い部分を短く弾いてみてください。さらに、和音を響かせてから音が消えるまで待ちます。弱音の旋律が聴こえるか、強い和音が割れていないか、残響が途中で不自然に途切れていないか。この3つは、違う問題を見つけるための手掛かりになります。
弱音が小さく聞こえるときは、再生音量が低いだけなのか、伴奏とのバランスなのか、録音そのものなのかを分けて考えます。同じ端末、同じ再生音量で比べると判断しやすくなります。ヘッドフォンでも聴いて、音が入っていることと、旋律として追えることの両方を確かめましょう。スマートフォンの小さなスピーカーだけを基準にして、普段より強く弾き続ける必要はありません。
強い音でざらついたり割れたりするなら、弾き方を変える前に、録音側の入力レベルを確認します。調節できる機材なら入力を下げ、できなければ距離や位置を変えて同じ箇所を録り直します。録音時に生じた歪みは、あとから再生音量を下げても解消しません。特定の機材を買う前に、今の機材でどこまで自然に収録できるかを確かめる価値があります。
ピアノに近い位置では、音の立ち上がりや鍵盤周辺の機械音が目立ちやすく、離れると部屋の響きが多く入ります。Shureの録音ガイドでも、マイク位置による音色と周囲の響きの違いが説明されています。近ければ必ず明瞭になる、遠ければ豊かな音になる、とは決められません。同じ短い一節を位置を変えて録り、旋律、低音、和音の厚みがどう変わったかを聴いてみてください。
カメラとマイクが同じ端末なら、音のために動かした後で画角も確かめます。外付けマイクを使える場合でも、映像と別に録音して後から差し替えてよいとは限りません。本人が同時に弾いている記録を保つため、接続方法と加工の扱いは出願先の指示に合わせます。通話用の強い雑音抑制や音量の自動調整が使われている場合は、弱音や余韻に影響がないかを聴き、録画用の設定を検討します。
部屋選びでも、響きが豪華に聞こえるかだけでなく、自分の弾き方が聴き取れるかが大切です。低音が長く残る部屋でペダルを踏むと、次の和音との境目が分かりにくくなることがあります。録音でだけ濁るなら、まず設置位置と部屋の影響を確かめ、それから実際に聴こえる響きに合わせて演奏を考えます。静かな環境を確保し、普段使う練習室を借りる場合は、録画の可否と使用できる楽器も予約前に確認しておきましょう。
一つの演奏としてテイクを選ぶ
録画では撮り直せる分、終わりが見えなくなることがあります。少し弾き間違えるたびに止めていると、冒頭だけを何度も練習し、後半を落ち着いて弾く経験が減ってしまいます。通しの練習では、小さなミスがあっても次の音楽へ進んでみてください。どこで集中が崩れたかも、最後まで弾いた録画だからこそ分かります。
本番の撮影日は、録音の試験と演奏の収録を分けておきます。機材の調整が終わったら、短く休んで耳と気持ちを演奏へ戻します。端末の電池と空き容量がプログラム全体に足りることも、同じ長さで一度録画しておくと確かめられます。撮影中に機材を心配する時間を減らすための準備です。
選ぶときは、まず条件を満たした候補だけを残し、冒頭から終わりまで聴きます。たとえば、あるテイクでは短い音型に1音の乱れがあっても、その後の旋律の方向がよく伝わる。別のテイクでは音はそろっていても、終始用心深く、音楽が前へ進まない。こうした違いは、ミスの数だけでは判断できません。大きな脱落や指定違反を見過ごすという意味ではなく、作品全体を聴いたうえで先生と選ぶという考え方です。
続けて撮るほどテンポが急ぎ、弱音が雑になり、終盤で注意が散るようなら、その日は候補を保存して終える選択もあります。次の日に耳を休めて聴くと、撮影直後ほど小さなことにとらわれずに判断できる場合があります。締切直前に初めて録ると、この余裕がなくなります。選曲や仕上げも含めて時期を考えたい方は、音大受験に向けた12か月の準備も参考にしてください。
演奏の途中をつないだり、残響を加えたりして候補を整えるのではなく、必要なら条件を整えて新たに弾きます。終了後もすぐに端末へ手を伸ばさず、響きが収まり、指定の待ち時間が過ぎてから止めます。最後の和音まで含めて、聴き手に渡せる演奏にしましょう。
提出する動画を、最後にもう一度聴く
よいテイクが保存できたら、次はその演奏を間違いなく届ける段階です。ファイル形式は拡張子の名前を書き換えても変わりません。機材が出力する形式を早めに確認し、指定に合わない場合は、許容される変換方法を窓口へ確認します。容量を小さくする必要がある場合も、演奏の加工と形式の変換を自己判断で同じものとして扱わないようにします。
締切は「出願」と「動画提出」が同日とは限りません。RCMの2027年入学の動画受験ルートでは、UCAS出願が2026年10月1日、動画が10月26日という別の期限です。自身の受験ルートに当てはめる前に、専攻や会場による例外を確認してください。海外の締切は現地時刻と日本時間の違いも確かめ、送信や動画処理にかかる時間を残しておきます。
YouTubeリンクを受け付ける出願先では、指定が「限定公開」なら「非公開」と取り違えないことが大切です。限定公開の動画はリンクを知る人が視聴・共有できます。完全に私的な保存場所ではありません。提出するリンクをログアウトした環境でも開き、意図した動画が再生されるかを確認します。ファイル提出が指定されている場合は、リンクで代用しないでください。
最後の確認は、パソコンに残った元の動画だけでなく、実際に提出するファイルやリンクを対象に行います。ここまで決めてきたことを、提出直前に確かめるための短いチェックです。
- 中身:選んだテイクか。必要な本人確認、全曲、音声、最後の余韻まで再生できるか。
- 表示と形式:指定のファイル名、形式、容量、公開範囲になっているか。申告した曲目や演奏開始時間と一致するか。
- 提出先と期限:正しい出願先・課題に送ったか。アップロード後、必要な送信操作を終え、受付の表示や通知を確認したか。
- 手元の控え:元データと、どの動画をいつ提出したか分かる記録を残したか。審査中に必要なリンクを削除・変更しない準備ができているか。
録画の目的は、練習してきた音楽がそのまま聴き手に届くことです。準備の最後には画面の設定から少し離れて、冒頭の一音をどんな音で始めるか、最後にどんな響きを残すかへ耳を戻してみてください。
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