ウィーン国立音楽大学(mdw)とMUKの違い:ピアノ留学の課程選び
ウィーン国立音楽大学(mdw)とMUKは、同じウィーンにある別々の大学です。どちらにもピアノを専門的に学ぶ課程があり、学士・修士の演奏課程を設けています。名前を整理したうえで見たいのは、取得する学位、中心になる音楽活動、師事したい先生の授業の三つです。
私はウィーンで音楽を学び、MUKでも勉強しました。留学を考える方と話すときは、大学名と一緒に「今の演奏の何を変えたいか」を聞きます。ソナタを大きく構成する力を育てたい人、歌手と歌曲を掘り下げたい人、演奏と指導の両方に関心がある人では、同じ大学の中でも調べる課程が変わるからです。
この記事では、日本から二校を比較するときに混同しやすい名称と課程を整理し、カリキュラムやレッスンの見方を考えます。課題曲と出願手順は、それぞれの大学の受験記事で詳しく扱っています。
mdwとMUKの正式名称
mdwの正式名称は、Universität für Musik und darstellende Kunst Wienです。日本語では一般にウィーン国立音楽大学と呼ばれる、オーストリアの国立大学です。MUKはMusik und Kunst Privatuniversität der Stadt Wienで、ウィーン市立音楽芸術大学という名称で紹介されています。
MUKの名称にあるPrivatuniversitätは、オーストリアの私立大学に関する法律の枠組みで認可されていることを表します。一方、大学の所有者はWien Holdingを通じたウィーン市で、公的資金が提供されています。「市立」と「私立」という二つの言葉は、所有者と法的な位置づけをそれぞれ説明しています。
MUKの前身はウィーン市の音楽院で、2005年に大学として認可され、2015年に現在の名称になりました。古い経歴のKonservatorium Wien Privatuniversitätは、この名称変更前の大学を指します。先生の略歴を読むときは、その人が学んだ当時の名前が使われていることもあります。
「ウィーン音楽院」という日本語だけでは、現在の学校や取得学位を特定できません。大学を調べるときは、正式名称に加えて公式サイトの課程名まで見ます。問い合わせの件名にも、mdwのKlavier Konzertfachなのか、MUKのKlavierなのかを書けば、志望する専攻がはっきりします。
| 比較する項目 | mdw | MUK |
|---|---|---|
| 大学の位置づけ | mdwウィーン国立音楽大学。オーストリアの国立大学。 | MUKウィーン市が所有・資金提供する大学。法的には私立大学の枠組みで認可。 |
| ピアノ演奏の学士 | mdwKlavier Konzertfach / Piano Performance。8学期、240 ECTS、BA。 | MUKKlavier / Piano。8学期、240 ECTS、BA。 |
| ピアノ演奏の修士 | mdwKlavier Konzertfach / Piano Performance。4学期、120 ECTS、MA。 | MUKKlavier / Piano。4学期、120 ECTS、MA。 |
| 演奏と教育 | mdw演奏課程とは別に、ピアノのIGP課程がある。 | MUK演奏課程とは別に、ピアノIGPの学士課程がある。 |
BAはBachelor of Arts、MAはMaster of Arts。学位と修業年限を確かめたら、専攻実技・必修科目・選択科目の内容を読みます。
学士・修士と演奏課程
二校のピアノ演奏課程は、どちらも学士が8学期・240 ECTS、修士が4学期・120 ECTSという構成です。標準的には学士4年、修士2年にあたり、取得学位はそれぞれBachelor of Arts、Master of Artsです。mdwではKlavier Konzertfach/Piano Performance、MUKではKlavier/Pianoという課程名を探します。
日本の高校から進学する場合、まず学士課程が検討の中心になります。日本の音大を卒業する方は、修士課程に求められる前の学位と専攻内容を確認します。卒業証明だけでなく、何を専門に履修し、どのような演奏を学んできたかが、次の課程を考える材料です。自分の学位が出願資格を満たすかは、志望大学が判断します。
修士を選ぶときには、今後掘り下げたい音楽を言葉にしてみてください。「もっと上手くなりたい」から一歩進めて、長い作品の構成、現代作品の奏法、室内楽での音色と時間の共有など、いま強く惹かれている課題を挙げます。その関心と、専攻実技や周辺の授業がどのように重なるかを見ます。
MUKには準備課程やCertificate of Performance(CoP)もあります。CoPは証書を授与する課程で、学士・修士とは修了資格が異なります。先生に習う機会だけでなく、留学後に必要な学位や研究の方向まで含めて課程を選びましょう。短期講習への参加歴、準備課程、学位課程は、経歴を書く際にも区別します。
MUKのピアノ留学・受験ガイドとmdwのピアノ受験ガイドでは、それぞれの出願と演奏審査を説明しています。二校を併願するときも、課題曲は志望課程ごとに照合します。


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カリキュラムと音楽の課題
大学選びでは、先生の名前に目が向きやすいと思います。ただ、学生生活をつくるのは専攻のレッスンだけではありません。室内楽、伴奏、理論、歴史、演奏実践などを含めて、一週間にどのような音楽を聴き、考え、弾くのかを読んでいきます。
MUKの現在のピアノ学士カリキュラムには、専攻実技、クラスの演奏会、歴史的・現代的な演奏実践、即興、アンサンブル、理論・歴史、研究に関する科目などが並びます。伴奏や歴史的鍵盤楽器などの選択肢もあります。必修科目と選択する領域を分けて読むと、自分が継続して取り組む内容が見えてきます。
mdwのPiano Performanceも、ソロに加えて室内楽やピアノ伴奏などを含む教育です。学士課程の説明は、それらの活動と音楽家としての自立を結びつけています。大学全体に魅力的な専攻があっても、自分の課程で何を履修するかは別途確認します。履修表と授業案内を合わせて読むことが大切です。
たとえば、モーツァルトのソナタで同じ主題が戻ってきたとき、最初と全く同じ弾き方では平板に聞こえることがあります。和声や調の動きを調べると、戻るまでに音楽がどのような道を通ったかがわかります。それを耳で確かめ、到着前の時間や低音の重さを変えてみる。理論と実技が出会うのは、このような場面です。
私は、履修表を読むときにも手元の曲を思い浮かべてほしいと思います。「和声を学ぶ」なら、いま弾いている曲のどこを聴き直したいのか。「室内楽」なら、相手の音を聴きながら自分のテンポを変えられるのか。曲に戻って考えると、科目名が日々の練習に関係する問いになります。
ECTSは、授業への出席に加え、準備や自習などを含む学修量を表す単位です。専攻科目のECTSの数字から、毎週の個人レッスン時間をそのまま計算することはできません。授業の回数や形態を知りたいときは、その授業の案内を確認します。
先生とのレッスン
師事したい先生を探すときは、現在の教員情報と演奏を調べ、先生が受け付けている方法でレッスンや相談の機会を探します。体験の機会があれば、弾き慣れた曲の中から、まだ答えを探している箇所を持っていくとよいでしょう。
右手だけなら歌える旋律が、両手にすると硬くなる場面を考えます。「もっと歌って」と言われたあとに、何が起こるでしょうか。左手の和音を小さくするのか、右手の指を替えるのか、フレーズの頂点まで一息で聴き直すのか。先生が何に耳を向け、どの試みから始めるかに、レッスンの特徴が表れます。
私が大事にしたいのは、指示の直後だけでなく、もう一度弾いたときの聴き方です。二つの弾き方を比べて「旋律のこの音が途中で消えていた」と自分でもわかる。そこまで聴ければ、一人で練習するときにも同じ箇所を判断できます。留学先のレッスンにも、こうした発見を期待してよいと思います。
厳しい指摘が多かったか、褒められたかだけで相性を決めるより、何を聴き直し、何を試したかを振り返ります。要求が高くても、音楽の方向が理解でき、続きを研究したくなる授業があります。反対に、有名な言葉や比喩を聞いても、自分の音にどう取り組むかが残らないこともあります。
「mdwはこういう奏法、MUKはこういう奏法」と大学全体を一つの教え方にまとめることはできません。実際に会った先生、扱った作品、その場のやり取りをもとに判断します。担当教員や受け入れについての最新情報は、希望する専攻に確認してください。
室内楽・歌曲と学びの中心
ソロ、室内楽、歌曲のピアノでは、同じ鍵盤を使いながら、注意を向ける相手が変わります。ソロでは自分が旋律と伴奏の時間を組み立てます。弦楽器と弾くときには、ピアノの音が減衰する間も、相手の音は伸び続けます。歌曲では、言葉の強勢や息を吸う場所がフレーズを動かします。
たとえば、チェロの長い旋律の下に和音を置く場面。自分の和音をきれいに鳴らすだけでは、チェロの行き先をふさいでしまうことがあります。次の和音に移る前から相手の音を聴き、どこで張りつめ、どこでほどけるかを共有する。その経験は、ソロで内声を扱うときにも生きます。
歌曲が好きなら、歌手が休んでいる前奏や後奏に何を感じるかも考えてみてください。ピアノは声の入る準備をし、歌い終えたあとも詩の世界を続けます。言葉と音楽を一緒に研究したい人には、専攻の選択そのものに関わる関心です。mdwにはArt Song Interpretation Piano(Performance)という独立した学士・修士課程もあります。
MUKのピアノ教育にも、ソロや室内楽の演奏機会、アンサンブルや伴奏に関する学びがあります。どちらを選ぶ場合も、興味のある活動が主専攻なのか、定期的な授業なのか、選択科目なのかを確かめます。演奏会一覧は活動を知る入口ですが、自分の履修内容はカリキュラムで確認します。
ピアノ演奏とIGP
将来、教える仕事にも取り組みたい方は、二校にあるIGP(Instrumental- und Gesangspädagogik、器楽・声楽教育)の課程を見てください。ピアノ演奏の力を育てながら、音楽をどう伝えるか、学習者の反応をどう捉えるかを学ぶ領域です。
MUKのピアノIGPの説明には、芸術的な成長と、伝え方や実践的な指導力の育成が含まれています。ウィーン市の音楽学校との協力にも触れています。mdwのピアノIGPも、演奏の実践と、それを振り返って考えること、教育に関する学びを組み合わせています。
同じ音を繰り返し弾く生徒が、二つ目の音だけ強くしてしまうとします。先生が滑らかに弾いて見せることは出発点です。そのあと、拍の感じ方なのか、鍵盤を戻す動きなのか、楽譜の読み違いなのかを聴き分けます。生徒に何を試してもらえば、原因がわかるでしょうか。教えることには、こうした観察と判断が伴います。
演奏と指導の両方を大切にしたいなら、専攻実技に求められる水準、教育実習の内容、対象となる学習者などを合わせて読みます。「人に説明してみたら、自分も音楽を深く理解した」という経験に惹かれる方にとって、教育は積極的に選ぶ専門分野です。
ドイツ語・学費・練習環境
ピアノ演奏課程のドイツ語について、MUKは原則として初回の入学登録時にB1の証明を求めています。特別な場合にはA2での登録を認め、2学期終了後までにB1を提出する扱いがあります。mdwのPiano Performanceでは、学士は第3学期、修士は第2学期に進む前が証明の提出時期です。語学の準備と渡航の計画には、この時期の違いが影響します。
MUKのIGPはB2が基本で、演奏課程のB1とは条件が異なります。教授と会話するだけでなく、授業で説明を聞き、課題について話し、将来は生徒に伝える場面も想像してください。音楽留学のドイツ語と語学証明の記事では、証明書と実際の会話を並行して準備する方法を扱っています。
学費は、大学の区分だけで金額を決めず、公式の料金表で自分に適用される項目を見ます。MUKは課程と学生の区分による料金を掲載しています。mdwにも国籍や在留資格、一定の学生区分での在学期間などによる規定と免除があります。日本から進学する場合も、国籍だけでなく、該当する在留・学生区分と入学予定年度を伝えて確認します。
生活面では、住まいと授業の場所に加えて、毎日の練習場所を考えます。個人練習と合わせの両方が増えれば、使いたい楽器や時間帯も変わります。練習室の利用方法、予約の仕組み、移動を含む一週間の見通しを調べ、集中して弾く時間を確保できるかを考えましょう。
ウィーンの演奏会を聴くことも、留学の大きな楽しみです。同時に、大学生活の中心は日々の授業、練習、合わせです。華やかな公演の印象と、自分が続ける勉強の内容の両方を持っておくと、渡航後に何を大切にしたいかが定まります。
日本で始める志望課程の相談
二校の比較を、自分の曲に戻してみましょう。今の演奏をよく表す一曲と、これから深く学びたい一曲を挙げます。その曲で困っていること、好きな響き、もっと聴こえるようにしたい声部を話してみてください。大学名だけを挙げるより、必要なレッスンや周辺科目を考える手がかりが豊かになります。
私は、志望校を決める相談でも演奏を聴きたいと思います。たとえば「室内楽に関心がある」という言葉と、相手の旋律を口ずさみながら伴奏を弾く姿では、伝わる内容が違います。いま持っている音楽への関心を実際の演奏で確かめながら、次の数年間に何を育てたいかを話します。
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