ソナタ形式をピアノの練習に生かす:提示部と再現部の弾き分け

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

再現部なのに、指が提示部の続きを弾いてしまう。ベートーヴェンOp.2-1の二つの主題を比べ、変わる低音や調、経過句を耳と楽譜で確かめます。ソナタ形式の見取り図と録音から、練習する場所を選びましょう。

再現部に入ったはずなのに、指が提示部の続きを弾いてしまう。ソナタを練習していると、そんな間違いが起こります。旋律の形を覚えているだけでは、似た二つの場所を弾き分けられないことがあるのです。

ソナタ形式を練習に生かすなら、戻ってきた主題の何が同じで、何が変わったかを比べます。低音、調、強弱、次のフレーズへの進み方。その違いを耳で捉えると、再現部は「もう一度最初から」ではなく、それまでの音楽を受けて戻ってくる場面として聴こえます。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.2-1、第1楽章で確かめましょう。

ソナタとソナタ形式

「ピアノ・ソナタ」は作品の種類を示す名前です。一方の「ソナタ形式」は、一つの楽章の組み立て方を指します。中心になるのは提示部・展開部・再現部で、作品によって序奏やコーダが加わります。一つのソナタに含まれる全楽章が、同じ形式になるわけではありません。

提示部では、最初の調を示したあと、別の調の領域に進んで主題を聴かせます。展開部では、音型を取り出し、調や音域、伴奏との組み合わせを変えて扱います。再現部では主題が戻り、提示部で別の調に置かれた主題も、通常は主調の領域へ収められます。主調とは、その楽章の中心になる調のことです。

楽譜に三つの区分を書くだけで終わらず、次の点を弾き比べてみてください。

  • 冒頭主題とその再現。強弱、左手、直前のフレーズを比べる。
  • 第2主題の二つの出現。低音と臨時記号、落ち着く調を確かめる。
  • 再現部へ向かう数小節。低音を聴き、戻ってくる主題を先に思い浮かべる。

以下はOp.2-1第1楽章の見取り図です。冒頭のアウフタクトの次を第1小節と数え、反復して演奏する場合も、楽譜上の小節番号はそのまま使います。

Op.2-1 第1楽章の見取り図

各項目を開くと、耳と楽譜で追う目印が出ます。

提示部 第1–48小節ヘ短調 → 変イ長調

冒頭はヘ短調。第20小節からの第2主題群では伴奏のミ♭が目印になり、提示部は変イ長調で閉じます。反復記号で戻る先は、曲頭のアウフタクトです。

展開部 第49–100小節主題の断片と調の移動

冒頭の音型や下降する音型が、調や組み合わせを変えて現れます。後半で繰り返される低音ドは、ヘ短調への帰還を準備します。右手と一緒に低音の動きも追いましょう。

再現部 第101–147小節ヘ短調で主題を聴き直す

第101小節に冒頭主題がフォルテで戻ります。経過句が変わり、第119小節からの第2主題群もヘ短調へ。旋律の形に加え、低音と臨時記号を比べます。

コーダ 第148–152小節ヘ短調の終結

再現された終結の部分に続く、短い最後の締めくくりです。楽章全体の終わりとして聴きながら、書かれたリズムとアーティキュレーションを保ちます。

冒頭主題と第101小節

曲の最初に聴こえるのは、弱いドのアウフタクトです。続いてファ・ラ♭・ド・ファと上がり、ヘ短調の和音を示します。最初の完全な小節では左手が休んでいるため、上行する旋律の輪郭がそのまま耳に届きます。短い音の並びと、そのあとに続くスラーの付いた応答に、すでに性格の違いがあります。

第101小節に戻ってくる上行音型には、フォルテと左手のヘ短調の和音が付きます。手前の数小節にはクレッシェンドがあり、音楽はこの到着を準備しています。冒頭と再現で旋律の形が似ていても、そこへ来るまでに聴いた和声と、低音の支えが違うのです。

曲頭:アウフタクトと第1〜4小節

楽譜は横にスクロールできます。

ピアノで始まるヘ短調の上行分散和音。第1小節の左手は全休符。
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最初の完全な小節はファから。上行する音型が弱く始まり、そのファには左手の和音が付きません。

第97〜101小節:右端が再現の入り

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第97〜100小節のクレッシェンドから、第101小節でフォルテの上行音型と左手のヘ短調和音へ。
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第101小節では、同じ上行音型を低音の和音が支えます。手前の四小節から、このフォルテへの流れを聴きます。

冒頭と第101小節を続けて弾き比べ、そのあと第97小節から再現へ進んでみましょう。左手の和音が入ることで、上行する音型の土台が変わります。ただし、フォルテの最初の和音で手首が固まり、続く音まで重くなると、この主題の歯切れのよさが失われます。響きの厚さと、右手の音の離れ方を一緒に聴きます。

私なら、この場面を単に「さっきより大きく」とは考えず、直前の緊張から主題がどう戻ってくるかを聴きます。弱く始まった音型が、ここでは低音に支えられて現れる。その違いを自分の耳で捉えてから、鍵盤への触れ方や和音のバランスを選びたいところです。

ヨーゼフ・ヴィリブロルト・メーラーによる1804〜1805年のベートーヴェン肖像。リラ・ギターを持ち、右手を差し出して座る姿。

第2主題の調と低音

提示部の第20小節後半から、下降する音型が現れます。左手ではミ♭が繰り返され、音楽は変イ長調の領域へ進みます。ここを第2主題群と呼びます。「群」と付くのは、一つの短い旋律だけでなく、その後に続く関連したフレーズも含めて捉えるためです。

この旋律にはファ♭が出てきます。変イ長調の通常の音階には含まれない音で、長調の中に暗い色を加えます。調号を見て「長調だから明るく」と決めると、こうした一音の表情を通り過ぎてしまいます。ファ♭から次の音へ進むとき、伴奏のミ♭とどのように響くかを聴いてください。

対応する音型は、再現部の第119小節に現れます。今度はヘ短調で、伴奏が繰り返す音はド。次の第120小節の下降する旋律にはミ♮があり、ファへ向かう力を持ちます。提示部の旋律がただ低い場所へ移った、というだけでは、この長調から短調への変化を捉えきれません。

第21〜25小節:提示部の第2主題群

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ファ♭を含む下降する旋律と、左手で繰り返されるミ♭。ベートーヴェンOp.2-1の提示部。
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入りは、この抜粋の直前にある第20小節後半です。伴奏のミ♭と、変イ長調の中に現れるファ♭を確認します。

第117〜121小節:第119小節から再現

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変化した経過句に続き、第119小節からドを繰り返す伴奏とヘ短調の旋律。第120小節にミ♮。
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抜粋の三つ目が第119小節。伴奏はドへ移り、次の第120小節にはミ♮が出ます。旋律の形と、和声の行き先を一緒に比べます。

最初は伴奏を繰り返しの低音一つに減らし、右手の旋律と合わせて弾いてみます。提示部のミ♭と再現部のドで、旋律の落ち着く先がどう違うか。そこを聴いてから、楽譜どおりの伴奏を戻します。音数を減らす目的は、暗記しやすい別の曲を作ることではなく、旋律を支える和声を耳に入れることです。

楽譜には「提示部:ミ♭の低音、変イ長調へ」「再現部:ドの低音、ヘ短調へ」のように、音として確かめられる目印を付けられます。AやBという文字だけでは、次にどの音を弾くかまでは分かりません。二つの場所を区別する音を選んで書くと、練習中にもその違いへ耳が向きます。

調が変わると、白鍵と黒鍵の並びも変わります。提示部の指使いをそのまま移す前に、旋律のまとまりと手の移動を確認してください。同じ運指で自然に弾ける部分は保ち、窮屈になる部分はその場所に合う指使いを考えます。フレーズと手の移動から決める指使いでも、この選び方を詳しく扱っています。

経過句の弾き分け

第1主題と第2主題の間には、次の調へ向かう経過句があります。提示部では変イ長調へ進みますが、再現部では第2主題をヘ短調に置くため、対応する部分の書き方が変わります。第115〜119小節付近は、その変化を追いながら練習したい場所です。

第119小節だけなら正しく弾けるのに、通すと提示部の音へ戻ってしまう場合、練習の始点が遅すぎるかもしれません。第115小節付近から始め、帰ってきた第2主題の最初のフレーズまで進みます。低音が行き先を準備し、それに伴って手の位置も変わる。その過程を含めて覚えます。

次に、提示部の第15〜21小節付近と比べます。一方を弾き、少し間を置いてもう一方の低音を思い浮かべてから弾く。途中で音が混ざったら、最初に見落とした臨時記号や低音の変化を探します。その音の少し手前から、変化した先までを一まとまりにすると、間違いの起点を通って練習できます。

ページや段の切れ目は、必ずしも音楽の変わり目ではありません。似た音型がどこから違う道へ進むのかを見つけると、段の途中から始める理由も生まれます。ソナタ形式の知識は、このように練習する範囲を選ぶときに役立ちます。

展開部から再現部へ

第49小節からの展開部では、冒頭の音型や下降する音型が、新しい和声の中に現れます。調が変わり、音型の組み合わせも変わるため、提示部より先を予想しにくく感じるかもしれません。そこで、右手の細かな動きと一緒に、低音がどこへ進むかを追います。

後半で繰り返されるドは、ヘ短調の属音です。このドを土台として響きが続くと、ファへ戻る期待が生まれます。再現部へ帰る準備をするこの部分は「再移行部」とも呼ばれます。細かな音が動いていても、低音が同じ土台にとどまる時間を聴くことが大切です。

練習では、低音と旋律の主要な音だけを取り出し、拍と小節の長さを保って弾いてみます。和声が動く場所と、同じ低音の上で音型が入れ替わる場所を区別し、そのあと間の音を戻します。音数が増えても、先ほど聴いた低音の方向を失わないようにします。

一つ一つの区切りについては、カデンツとフレーズの行き先も参考になります。展開部の途中でフレーズが収まっても、楽章全体の旅が終わるわけではありません。近くの終止と、長い範囲でのヘ短調への帰還を、別の大きさで聴きます。

提示部の反復と再現部

第48小節の反復記号に従うと、曲頭のアウフタクトへ戻ります。そこで演奏するのは、最初の提示部と同じ調の進み方です。一方、第101小節へ到着したときは、展開部を経た音楽が先へ進んでいます。強弱や伴奏が変わり、第2主題へ向かう経過句も書き換えられています。

暗譜するときに両方を「最初の主題に戻る」とだけ覚えると、行き先が曖昧になります。提示部の終わりから弱いドのアウフタクトへ戻る接続と、クレッシェンドから第101小節へ入る接続を、それぞれ弾いてください。最初の音を出す前に、次の音色と低音が頭の中にあるかを確かめます。

再現部への到着には重みがありますが、楽章はまだ続きます。第101小節を大きく引き延ばし、そこで音楽が終わったようになると、後に続く第2主題や終結部分の居場所がなくなります。帰ってきた手応えを出しながら、先へ進む拍も保ちます。最後の締めくくりは、終結部と短いコーダに残されています。

ケンプの録音で聴く

ヴィルヘルム・ケンプの録音を、楽譜を開いて聴いてみましょう。まず冒頭と第101小節の上行音型を追い、次に第2主題群の低音へ耳を向けます。提示部ではミ♭、再現部ではド。すべての和音を言葉で説明する前でも、この二つの支えは探せます。

ケンプ:Op.2-1 第1楽章

Deutsche Grammophon / Universal Music Group. YouTubeで聴く.

次に聴くときは、主題が戻る直前の数小節に注目します。低音、クレッシェンド、フレーズの長さのうち、何が帰還を予感させるでしょうか。区分の名前を待つのではなく、音楽が続いていく中で戻る瞬間を聴きます。録音の速さや響きをそのまま写す前に、自分のピアノでも同じ関係が伝わるか試してください。

自分の曲への応用

いま練習しているソナタやソナチネから、戻ってくるフレーズを一組選びます。旋律だけでなく、低音、臨時記号、強弱、そのあとの進み方を見比べてください。最初に見つかる違いは、一音だけかもしれません。その一音が和声や手の位置をどう変えるかまで弾いて確かめます。

曲によって、主題の戻り方や調の配置には違いがあります。ここで示した小節数や区分を、別の曲にそのまま当てはめる必要はありません。短い作品で試したい方には、クーラウのソナチネOp.20-1第1楽章の練習もあります。作品ごとの音の並びから、比較する場所を探しましょう。

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