シューマン《見知らぬ国と人々》の練習:旋律と三連符を弾き分ける
シューマン《子供の情景》の第1曲《見知らぬ国と人々》。親しみやすい旋律を弾きたくて練習を始めたのに、両手を合わせると三連符ばかりが目立ってしまう。ゆっくり弾いても、歌が途中で消えるように感じる。そんな悩みが生まれやすい作品です。
旋律、動く伴奏、低音という三つの役割を聴き分けることが、練習の中心になります。右手が旋律、左手が伴奏と単純に分かれる曲ではありません。右手は旋律を保ちながら、左手から続く三連符の最後の音も受け持ちます。
私は、最初に旋律だけを聴き、どの音へ向かいたいかを尋ねることがあります。その方向が決まると、伴奏のどの音を静かに置きたいかも見えてきます。旋律を全部強くするより、一つのフレーズとして歌うところから考えます。
難易度と曲の性格
《子供の情景》という題名から、子供の初級教材を想像するかもしれません。この曲には、複数の声部の弾き分け、三連符と付点のリズム、内声を保つ動きなど、中級の方がじっくり取り組める課題があります。
楽譜は短くても、音の役割は重なっています。旋律と伴奏を別々に弾けるようになったあと、それらを組み合わせて音色を選ぶ時間が必要です。大人の学び直しでも、音を読めた段階から、響きを作る段階へ進むためのよい作品になります。
シューマンは、この曲集について、大人が子供時代を振り返る性格を語っています。幼い子供の音楽として単純に扱うより、親しさや好奇心、その中に混じる少し落ち着かない響きにも耳を向けてみてください。各小節へ決まった物語を当てはめる必要はありませんが、どんな表情を感じるかは演奏の大切な出発点です。

冒頭の旋律・伴奏・低音
楽譜は横にスクロールできます。

調号はファ♯一つ、拍子は4分の2拍子です。第1小節の旋律は、シから高いソへ6度上がります。中央のドをC4とすると、B4からG5への動きです。二つの四分音符が、その下の六つの伴奏音をまたいで歌います。
最初の伴奏の三連符は、B3・D4・G4。ここで使う版では、最初の二音が下段、最後の一音が上段に書かれています。左手から始め、右手で続ける音形です。その下で、低音のG3が拍の頭に鳴ります。
まず三連符だけを、実際に使う手の分担で弾いてみます。右手へ渡した最後の音だけが強くならないよう、三音を一つの静かな動きとして聴きます。そのあと旋律のシを加え、伴奏が動く間もその響きを保ちます。
二拍目では旋律が高いソへ進み、低音はド♯、伴奏にはシ♭・ミ・ソが現れます。旋律の上行だけでなく、和声の色も変わる場所です。高いソをどのくらい強くするかを決める前に、その下の響きまで聴いてください。
旋律を歌わせる練習
最初の八小節を、旋律だけで弾きます。シからソへの上行、ファ♯・ミ・レの下降、そのあとドへ向かうフレーズ。長い音が、次の短い音へどう続くかを聴きます。伴奏を取り除いても、歌と拍が感じられる演奏を目指します。
次に、三連符を外し、旋律と低音だけを合わせます。旋律がどの響きに支えられているかが、よく聴こえます。三連符を戻したあとも、その二つの外側の声部へ耳を残し、内側の音を加えていきます。
旋律が聞こえなくなったら、先に伴奏の音量を下げてみてください。旋律だけをさらに強く弾こうとすると、全体の音が重くなり、手も固まりやすくなります。一拍分から試し、旋律を保つ指と、内声を弾いて離す指の役割を確かめます。
冒頭の6度の上行では、前のシが響いている間に高いソへの準備をします。手を止めたまま指だけを大きく広げるより、音の位置に合わせて手や腕が動けることを大切にします。到着したソが、それまでの歌の続きとして聞こえるかを聴きます。
和音の中で旋律を出す練習も、音ごとの重みを選ぶために役立ちます。この曲では、そのバランスを保ちながら、伴奏が動き続けるところが課題です。
付点のリズムと三連符
第2小節の旋律は、付点8分音符のファ♯、16分音符のミ、四分音符のレです。最初の一拍では、伴奏が三等分、旋律が付点のリズムで動きます。
書かれた音価をそのまま読むと、三連符の最後の音は一拍の3分の2の位置、短いミは4分の3の位置に来ます。ミは三連符の最後の音より少しあとです。その次の拍では、旋律のレと伴奏の始まりが合います。
第2小節、一拍目の音の位置
横幅は一拍分。上は伴奏の三連符、下は旋律です。
十二等分して読むなら、三連符は0・4・8、短いミは9。図は書かれた音価の関係を示しています。
ゆっくり確かめるなら、一拍を十二等分してみます。三連符は0・4・8、旋律の短いミは9の位置です。机の上で二つのリズムをたたき分けてから、鍵盤へ戻します。位置を理解したあとは、細かな数え方を前面に出さず、旋律の流れへ耳を移します。
このリズムの演奏には、解釈上の議論もあります。Henleの校訂資料では、後年の自筆譜で一部の音符が縦にそろう一方、初版では16分音符が三連符の最後の音よりあとに記されていると説明されています。図は書かれた音価の関係を示しています。レッスンでは、意識して選んだ弾き方なのか、合わせやすい場所へ無意識に寄っているのかを聴き分けます。
第6〜8小節の終止
楽譜は横にスクロールできます。

第5〜6小節では、左手の内声のソが小節線を越えてタイで結ばれています。低音や三連符が変わっても、この音は続きます。新しい伴奏音形に入るたびに左手全部を離すと、内側の静かな線が途切れます。
第6〜8小節の旋律は、ミ・レ・ド、ラ・レを経て、二分音符のシへ落ち着きます。ディミヌエンドの中で、旋律が静かに収まるところを聴きます。旋律が長い音になったからといって、最後の伴奏音を目立たせないようにしてください。
第8小節のあとには繰り返し記号があります。最後のシの響きを聴き、そのあと冒頭の拍へ戻ります。繰り返すたびに大きな空白を置くより、短いお話の一節をもう一度語るような続き方を試してみます。
全曲の録音を聴く
アルフレッド・コルトーによるOp.15第1曲の録音です。最初は旋律を一つの線として聴き、次はその下の三連符へ耳を向けてください。旋律の音と音の間で、伴奏がどう流れているかを追います。
アルフレッド・コルトー:《見知らぬ国と人々》
Warner Classics. YouTubeで聴く.
中間部では低音にも耳を向けます。冒頭の伴奏と同じ役割のまま聞き流さず、低音自体が動くフレーズを聴いてみてください。自分で練習するときも、右手の旋律だけで全曲の表情を作ろうとせず、下の声部を加えて考えます。
第9〜14小節の中間部
第9小節から右手の旋律は二音の和音になり、低音も長くまとまった線を作ります。右手の上の音を歌わせながら、その下の音が加える厚さと和声も聴きます。
楽譜は横にスクロールできます。

第9〜12小節の右手の二音だけを弾くと、上の旋律はシ・ド、ラ・シ、ソ・ラ、ファ♯・ソと進みます。次に三連符を外したまま低音を加えます。上と下の声部がどう応じ合うかを聴いてから、内声を戻します。
第10・12小節では、低音にも付点のリズムが現れます。ここは「左手だけ」で弾いても、低音と三連符という二つの動きが残ります。低音のフレーズをいったん取り出し、その歌い方を聴いてから、伴奏と組み合わせます。
第13小節の旋律はミ・ファ♯から上がり、第14小節のソ・ラ・シ・ドを経て、第15小節のレへ向かいます。ritard.と、第14小節のシに付いたフェルマータが、戻ってくる主題の前に時間を作ります。短いドは、その先へ進む音として聴きます。
まず、あまり遅くせずにこの移り変わりを弾き、旋律の行き先を確かめます。そのあと、呼吸に必要な時間を加えてみます。大きく止まりすぎると、次の主題が前の音楽と切り離されて聞こえることがあります。
主題の再現と最後の和音
第15小節にはa tempoがあります。伴奏は冒頭の形へ戻りますが、旋律の最初はシではなくレです。レ・ソという動きは、中間部の上行から続いています。戻ってきた場所だけを取り出さず、前の小節から歌を渡します。
楽譜は横にスクロールできます。

第17〜22小節では、なじみのあるフレーズが最後の終止へ進みます。第19〜20小節では内声のソが再びタイで続きます。第20小節からのミ・レ・ド、ラ・レ、最後のシを、ディミヌエンドの中で一つに聴きます。
第8小節と第22小節を比べると、旋律はどちらもシへ落ち着きますが、最後の小節では低音のソとレが二分音符で保たれます。その上で内声は動きます。伴奏の最後の一音で新しいアクセントを作らず、保たれる和声の中に置きます。
最後の四小節は、余裕のあるテンポから練習してください。小さくするにつれて旋律まで消えてしまう場合は、音量を戻す前に、伴奏との関係を聴きます。最後の打鍵のあとも、残る響きと、その音を離すところまでがフレーズです。
ペダルと和声の変わり目
ペダルは歌う響きを支えますが、内声のタイが切れたことや、前の和音が残りすぎたことを隠す場合もあります。指で保てる音を先に確かめ、そのあとペダルで何が加わったかを聴きます。
第1小節では二拍目で和声が変わります。低音のド♯、伴奏のシ♭が、冒頭のト長調の響きと重なりすぎていないかを聴いてください。一小節をずっと踏み続けた場合と、新しい和声で整理した場合を比べます。
踏み替えで音楽が切れるときは、新しい低音と、前の響きを離す時刻の関係を試します。足を上げることだけへ注意が向くと、旋律まで短くなりがちです。手で保つ旋律を聴いたまま、足の動きを合わせます。
低い音が増える中間部では、部屋の残響も響きの厚さへ影響します。低音を手がかりに、何を残し、何を整理したいかを選びます。楽譜のペダル記号と実際の響きを合わせて考えてください。基本は、ペダルの練習ガイドでも確認できます。
レッスンで響きを整える
体験レッスンでは、最初の二小節だけでも、旋律の持続、三連符の受け渡し、和声の変わり目を聴けます。その課題を中間部や最後のフレーズへ広げ、同じ弾き方を続ける場所と、音楽に合わせて変える場所を考えます。
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