バッハの平均律第1巻プレリュード第1番:和音の流れとペダルの練習

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

均等な16分音符から、和声が動く音楽へ。冒頭の両手の受け渡し、ソの保続音、最後の音形まで、楽譜と演奏を使って聴きます。

バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻、ハ長調のプレリュードBWV846。冒頭の音形を覚えると、両手が自然に動き始めるように感じる曲です。ところが、最後まで音を並べられても、「ずっと同じように聞こえる」「どこへ向かって弾けばよいか分からない」という悩みが残ることがあります。

この曲では、16分音符の流れと一緒に、保たれる音と和声の変化を練習します。低音が動く場所、同じ低音の上で響きが変わる場所、終わりに音形が変わる場所を聴くと、短い分散和音が一つの大きな音楽として続いていきます。

私は、いったん音数を減らして、低音と和音の移り変わりを弾く方法があります。そのあと元の音形に戻し、先ほど聴こえた進み方が残っているかを確かめます。指の並びを覚える練習に、耳で進む方向を選ぶ時間を加えます。

難易度と、取り組む前の譜読み

冒頭には調号のシャープやフラットがなく、左右の役割も比較的つかみやすい形で書かれています。一方、曲が進むと臨時記号が増え、低音の位置も下がります。終わりの二つの小節では、それまでの繰り返しとは違う動きを読みます。

大人の初級後半から中級の方にとって、音を保つこと、拍、和声の聴き方を学べる作品です。ただし、五線の音を一つずつ探す段階なら、短い曲で両手の譜読みを育てながら取り組む方法もあります。曲を選ぶ際は、冒頭と最後のページを両方見てください。

ここで扱うのはBWV846の「前奏曲」です。続くフーガは四つの声部を持つ別の課題を含みます。前奏曲が弾けたあとに何を選ぶかは、今伸ばしたい力と合わせて考えます。

冒頭の二拍と、保つ音

第1〜3小節:音形と和声の変化

楽譜は横にスクロールできます。

バッハBWV846、4分の4拍子。左手は二分音符の低音と、16分休符のあとからタイで続く上の音。右手は16分音符。低音はド、ド、シ。
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最初の八音は、ド・ミ・ソ・ド・ミ・ソ・ド・ミ。その並びが一小節の中で二回現れます。中央のドをC4とすると、左手はC4とE4、右手はG4・C5・E5を受け持ちます。

左手の二音から右手へ渡るところで、間が空いたり、右手が急いだりしないかを聴きます。まず最初の四音を一定の間隔で弾き、次に二拍分を続けてください。一拍を四つに分けた場所が、手が替わっても続くことを確かめます。

冒頭の二拍:八つの打鍵位置

C4は中央のド。各拍を四つに分け、左手から右手へ一定の間隔で渡します。

  1. 1C4左手
  2. eE4左手
  3. &G4右手
  4. aC5右手
  5. 2E5右手
  6. eG4右手
  7. &C5右手
  8. aE5右手

ドは二拍、次のミはその打鍵から二拍目の終わりまで保ちます。同じ八音の並びが三拍目からもう一度現れます。

左手のドは二分音符なので、二拍分保ちます。次のミは16分休符のあとに入り、付点8分音符と四分音符がタイで結ばれています。次の半小節へ移るまで、このミも響きを支えます。

全部の音を短く離してからペダルでつなぐと、この書き分けを聴き取りにくくなります。まずペダルを使わず、左手の二音が残った上で右手が動く響きを聴きます。右手の動きにつられて、左手まで早く離れていないかも確かめてください。

指使いは、一つの形を押さえ続けるためではなく、次の音へ動くために選びます。ソ・ド・ミの並びが弾けたら、次の小節へ入る動きまで続けます。指使いとフレーズのガイドでも、前後の音を含めた選び方を扱っています。

最初の四小節の和声

第1小節にはド・ミ・ソが含まれます。第2小節では低音のドが残り、その上がレ・ファ・ラへ変わります。第3小節では低音がシに下がり、上にはレ・ファ・ソ。第4小節で冒頭のハ長調の響きへ戻ります。

この四つの響きを、いったん分散させずに、両手へ分けた和音として弾いてみます。手の幅に合わせて配置し、第2・3小節から第4小節へ進む感じを聴きます。そのあと楽譜の音形へ戻し、和声の動きを思い出しながら弾きます。

特に聴きたいのは、第1小節から第2小節です。低音は同じドでも、上の音が替わっているため、響きは同じままではありません。最低音だけを追っていたときに聞き逃した変化が、和音で弾くとよく分かります。

二拍の音形が現れるたびに大きく膨らませると、四小節の流れが細かく区切られます。短い音形を安定させながら、どの響きに重みを置き、どこへ進むかを考えます。

第5〜19小節の道筋

第5〜11小節の低音を、一小節ずつ追ってみましょう。ド・ド・シ・シ・ラ・レ・ソと進みます。最初は近い場所にとどまり、後半のレからソへの動きで到着がはっきりします。

低音だけを弾いたあと、その上の音を加えて聴きます。同じ低音が二小節続く場所では、上のどの音が変わったかを探してください。これが分かると、同じ手の形に見える場所でも、耳は次の響きを待つようになります。

第10〜12小節:到着と次の響き

楽譜は横にスクロールできます。

低音はレからソへ移り、ソを保つ。第11小節はト長調の和音。第12小節は左手にシ♭、右手にド♯が現れる。
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第11小節はト長調の和音へ到着します。第12小節でも低音のソは続きますが、左手のシがシ♭になり、右手にはド♯が現れます。ここを前の小節と同じ色で通り過ぎず、二つの響きを続けて聴いてみてください。

第12〜19小節の低音は、ソ・ファ・ファ・ミ・ミ・レ・ソ・ドです。臨時記号を見つけたら、変わる音の位置と、その音が小節の後半でも続くことを読みます。右手だけの暗記に頼ると、左手の音が変わったところで迷いやすくなります。

第19小節のハ長調への到着まで、短いまとまりを少しずつ広げます。ゆっくり弾くときも、音を確かめるだけで終えず、どの響きからどこへ進んだかを耳に残します。

全曲の演奏を聴く

リヒテルによる前奏曲とフーガの録音です。冒頭の前奏曲では低音を追い、後半でソが続くところと、そのあと低いドへ移るところを聴いてみてください。細かな音が流れ続ける中にも、大きな区切りがあります。

スヴャトスラフ・リヒテル:ハ長調前奏曲とフーガBWV846

RCA Gold Seal. YouTubeで聴く.

もう一度聴くときは、上の音へ耳を移します。同じ低音が続いていても、上の響きが落ち着いたり、次へ進もうとしたりするところを探します。録音から得た印象を、自分の練習で試す際は、音を聴き分けられるテンポから始めます。

第20〜24小節の変化

第20小節では、低音のドの上にシ♭が加わります。続く低音は、第21小節のファ、第22小節のファ♯、第23小節のラ♭を経て、第24小節のソへ進みます。

第22〜24小節:ファ♯、ラ♭、ソの低音

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最低音がファ♯、ラ♭、ソと動く。上では同じリズムの分散和音が続く。
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弾きにくい和音だけを取り出したら、その直前の半小節も加えます。新しい位置で指を置けても、前の響きから移るときに準備が遅れることがあるためです。低音の移動と、上の音の変化を一緒に聴きます。

響きが変わるたびに最大の音量を使うと、その先の盛り上がりを作りにくくなります。まず控えめな音でこの部分を通し、どの変化に重みを置きたいかを選んでみてください。

このガイドの小節番号は35小節の版に従っています。版によっては第22小節のあとに、いわゆる「シュヴェンケ小節」が加わり、全36小節になっています。この追加小節はバッハの自筆譜にはありません。お手元の番号が途中からずれる場合は、この箇所を見比べてください。

第24〜31小節の保続音

第24〜31小節では、最低音がソのまま続きます。こうした低音を「保続音」、英語ではpedal pointと呼びます。足のペダルを八小節踏み続けるという指示ではありません。

第25〜30小節:ソの上で変わる和声

楽譜は横にスクロールできます。

六つの小節を通して低音はソ。第28小節にはミ♭とファ♯、第29小節にはミのナチュラルと高いソが現れる。
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低音が同じでも、上の響きは動きます。第25〜27小節では、上のミがファへ上がり、その下の音も変わります。第28小節にはミ♭とファ♯、第29小節にはミのナチュラルと、さらに高いソが現れます。

最初は低音を静かで安定した音にそろえ、上の変化を聴いてみます。そのあと、低音にもどの程度の重みを加えたいかを考えます。毎回の低音を強く打つことと、フレーズ全体を育てることを、別々に試せます。

第29小節の高いソは、盛り上がりを考える一つの候補です。ただし、そこで音楽は終わりません。第30・31小節を通り、第32小節の低いドまでを続け、頂点のあとにどんな響きが残るかを聴きます。

ペダルと濁りの聴き方

グランドピアノの弦の上に並ぶダンパー

指で保つ音を確かめたあと、ペダルを加えて響きの変化を聴きます。同じ踏み方でも、楽器や部屋の残響によって音の重なり方は変わります。

冒頭の第1小節から第2小節では、前のミやソが、新しいレ・ファ・ラに重なりすぎていないかを聴きます。新しい響きが始まるところで前の音を十分に整理し、そのあとに残る響きを確かめます。

踏み替えで音楽が途切れる場合は、足を上げる時刻が早すぎないかを聴いてください。次の低音が鳴ることと、前の響きを離す動きを合わせて試します。足の動きだけを大きくしても、音の間にできた空白は解決しません。

「一小節に一回」という踏み替えは、試し方の一つです。低音が下がり、音が近く重なる後半では、より細かく響きを整理したい場所も出てきます。ペダルあり・なしの両方で短い箇所を弾き、指で保つ音は同じにしたまま比べます。基本の動きは、ペダルの練習ガイドにもまとめています。

第32〜35小節の終わり方

第31〜35小節:低いドと終わりの音形

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第32小節で低音がソから低いドへ移る。第33小節の右手はヘ音記号、第34小節はト音記号。左手の低いドは全音符。最後はフェルマータの付いたハ長調の全音符の和音。
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第32小節で低音が低いドへ移りますが、上にはシ♭が含まれ、まだ音楽は先へ進みます。第33・34小節では、右手がそれまでの二拍ごとの繰り返しを離れ、長い音形を作ります。

この二小節は、冒頭から通す前に別に読みます。ここで使う版では、第33小節の右手がヘ音記号、第34小節でト音記号へ戻ります。五線上の見た目だけで前の位置を続けず、音部記号と実際の高さを確かめてください。

左手の低いドは、それぞれ全音符で保ちます。その上の音は、第33小節のドから第34小節のシへ動きます。この小さな動きを、低いドの響きと一緒に聴くと、最後のハ長調の和音への進み方が見えてきます。

最後は第31小節から続けます。難しい音の直前だけで止まる癖が付くと、終わりの身振りが分かれてしまいます。テンポを広げるなら、音形全体の流れの中で選びます。最終和音のフェルマータでは、打鍵のあとに残る音と、その響きを離すところまで耳を向けてください。

レッスンで深めたいこと

全曲をまとめる際には、第11小節、第19小節、第24小節、第32小節からも始めてみます。それぞれの和声と音形を思い出して入ることで、冒頭からの指の記憶だけに頼っている箇所が分かります。

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