ピアノのカデンツを聴く:終止形とフレーズの行き先

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

最後の和音だけでは、フレーズの終わり方は決まりません。旋律が着く音と低音の動きを、シューマン《メロディー》の二つの区切りで比べます。鍵盤で試せる和音の例と録音も使い、自分の曲の行き先を耳で確かめましょう。

ピアノのカデンツは、フレーズがひと区切りに向かう和声の動きです。最後の和音だけでなく、そこへ進む低音、旋律が着く音、直前まで聴いていた調が、終わり方の印象を作ります。同じドで旋律が終わっても、下にある和音によって、落ち着いた感じにも、続きを待つ感じにもなります。

終止形を知る意味は、楽譜へ名前を書き込むことだけではありません。どこまで音楽を進めるか、どの音に少し時間を与えるか、旋律が止まったあとに低音をどう聴くか。その判断を、実際の響きから考えるための手掛かりです。シューマン《メロディー》Op.68-1の楽譜と、鍵盤で試せる短い和音の例を使って確かめましょう。

調・低音・旋律

まず、今聴いている調を確かめます。ハ長調なら中心となる主音はド、主和音はド・ミ・ソです。属和音のソ・シ・レから主和音へ進むと、中心へ戻る動きが生まれます。属和音にファが加わると、ソ・シ・レ・ファの属七の和音になります。

次に聴くのは、実際に一番下で鳴っている音です。和音の名前と、最低音は別々に確認します。 ド・ミ・ソの和音でも、ミが一番下なら第一転回形です。コードネームではC/Eと書きます。同じハ長調の主和音でも、ドを低音にした響きとは、着地の重さが変わります。

旋律がどの音へ進むかも聴きます。ハ長調の主和音の上で、旋律がドへ着く場合と、ミへ着く場合を比べてください。どちらも和音に含まれる音ですが、フレーズの終わり方には違いがあります。音が濁っていないことと、音楽がひと区切りに達したことを、耳で分けていきます。

鍵盤で比べる三つの終わり方

下の例では、左手で低音を、右手で三つの音を同時に弾きます。C4は中央のドです。C・D・E・F・G・A・Bは、それぞれド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シを表します。最初のC、F、Gの和音は共通で、そのあとを変えます。一つの和音を一拍ずつ、同じ速さと音量で弾いてみてください。

共通の始まり:C → F → G

左手は低音一つ、右手は三音。数字はオクターブを示します。

  1. 1. C · I

    左手: C3

    右手: E4 · G4 · C5

    ド / ミ・ソ・ド

  2. 2. F · IV

    左手: F2

    右手: F4 · A4 · C5

    ファ / ファ・ラ・ド

  3. 3. G · V

    左手: G2

    右手: D4 · G4 · B4

    ソ / レ・ソ・シ

終わり方を開いて、弾き比べる

ドへ戻る:V–I

左手: C3 · 右手: E4 · G4 · C5

ド / ミ・ソ・ド

四つ目の和音を弾きます。低音も旋律もドへ着きます。

ソで止まる:…–V

左手: G2 · 右手: D4 · G4 · B4

ソ / レ・ソ・シ

四つ目を弾かず、Gの響きを保ちます。その先を待つ感じを聴きます。

ラの和音へ進む:V–vi

左手: A2 · 右手: E4 · A4 · C5

ラ / ミ・ラ・ド

四つ目をAmに替えます。旋律はドでも、低音はラへ進みます。

最初は、ソの和音からドの和音へ戻ります。次は、ドへ戻らずソの和音で止めます。最後に、戻るはずだったドの和音を、ラ・ド・ミの和音へ替えます。毎回同じ弾き方にすると、和声そのものが作る違いを聴けます。

三つ目の例では、右手の一番高い音はドです。一つ目の終わり方と同じ音なのに、低音がラになると、響きの行き先が変わります。旋律だけを追っていると見落としやすい違いです。左手の音がどの程度聞こえるかによっても、終わり方の印象は変わるでしょう。

ここでの短い進行は、響きを比べる材料です。曲の中のカデンツは、そこへ向かう旋律やリズムを含めたフレーズの節目に現れます。伴奏の途中でソの和音からドの和音へ動くたびに、フレーズを切るわけではありません。

正格終止・半終止・偽終止

正格終止は、属和音から主和音へ進んでフレーズを閉じる形です。ハ長調では、ソ・シ・レからド・ミ・ソへの動きが基本になります。ローマ数字ではV–Iと書きます。主和音をI、属和音をVと呼ぶのは、音階のどの音の上に和音を作るかを示すためです。

その中でも、属和音と主和音がともに基本形で、旋律が主音へ着く形を、完全正格終止と呼びます。ハ長調なら、低音がソからドへ進み、最後の旋律もドです。転回形を含む場合や、主和音へ着いても旋律がミなどに落ち着く場合は、不完全正格終止として区別します。「不完全」は演奏の出来を評価する言葉ではありません。

半終止では、フレーズが属和音に着いて止まります。ハ長調ならソの和音です。一息つける場所があっても、和声には先へ進む期待が残ります。そこで大きく音を切ってしまうと、次のフレーズが別の曲のように聞こえる場合があります。

偽終止は、属和音のあとで予想した主和音へ進まず、別の和音へ向かう形です。ハ長調のV–vi、ソの和音からラ・ド・ミへの進行が、よく使われる例です。先ほどの三つ目の響きに当たります。旋律がドへ着いても、低音のラが音楽を別の方向へ開きます。

ほかに、ファ・ラ・ドからド・ミ・ソへ進むIV–Iの変格終止もあります。属和音を経由する正格終止とは、主和音への近づき方が異なります。名前を一度に覚えようとするより、まず自分で弾き、どの和音が最後に残ったかを聴いてください。

《メロディー》最後の一小節

シューマン《メロディー》Op.68-1の最後は、旋律の到着と低音の到着が少しずれています。下の譜例は第17〜20小節です。小節番号は、冒頭の繰り返しを二度数えず、楽譜に書かれた順に数えています。

第17〜20小節:ドへ戻る終わり

楽譜は横にスクロールできます。

《メロディー》第17〜20小節。最終小節の右手は八分音符レ、ファ、シ、レから四分音符ド、休符へ進む。左手はファ、ラ、ソ、ファ、ミ、ソ、低いド。
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第20小節の到着

  1. 2拍目

    G7

    低音ソ・ファ、上にシ・レ

  2. 3拍目

    C/E

    ミ・ソの上に旋律のド

  3. 4拍目

    C

    低いドで収まる

最後の第20小節では、二拍目にソ・シ・レ・ファが両手に分かれて現れ、G7の響きになります。三拍目で旋律はドへ着きます。このとき左手はミ、ソと動くので、主和音の第一転回形C/Eから始まります。低いドは四拍目に現れ、そのとき右手の旋律は休符です。

つまり、この終わりには段階があります。先に旋律が主音へ着き、主和音の響きが現れ、そのあと低音がドへ落ち着きます。旋律のドを弾いたところで左手まで気持ちが終わると、最後の動きが途中で消えてしまいます。反対に、最後の低いドを強く打つと、収まりかけた音楽へ新しいアクセントを加えることになります。

私はこのような箇所では、まず旋律と各拍の低音だけを弾いてみます。どの音へ向かっているかを耳に残し、そのあとで伴奏の八分音符を戻します。音を増やしたあとにも、旋律が着く瞬間と、低音が収まる瞬間が聞こえるかを確かめます。

楽譜のディミヌエンドも、この動きの中で考えます。小さくする途中で必要な低音まで抜けてしまうと、和声の方向が薄くなります。音量を減らしながら、どの声部を最後まで聴いているかが大切です。

冒頭の終わりはソへ向かう

同じ曲の第1〜4小節を見てください。全体の調はハ長調ですが、最初の区切りはソへ落ち着きます。第4小節のファ♯が、その行き先を示す手掛かりです。

第1〜4小節:ソへ向かう終わり

楽譜は横にスクロールできます。

シューマン《メロディー》冒頭四小節の歴史的な楽譜。第4小節に右手のファ♯とラ、そのあとソと休符。左手はド、レ、シ、レから低いソへ進む。
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第4小節の到着

  1. 2拍目

    D7

    低音ド・レ、上にファ♯・ラ

  2. 3拍目

    G/B

    シ・レの上に旋律のソ

  3. 4拍目

    G

    低いソで収まる

第4小節の二拍目では、右手のファ♯・ラと、左手のド・レが合わさり、D7の和音になります。これはト長調の属七の和音です。三拍目では、低音のシにレとソが重なり、G/Bになります。そのあと四拍目で低いソが鳴ります。

最後の小節と似たように、旋律の到着のあとから低音が収まっています。ただし、今回は行き先がドではなくソです。ファ♯を含むD7の響きによって、ソが一時的な中心として聞こえます。

ここを「ハ長調でソに終わるから半終止」と、最後の音だけで決めると、その直前の働きを見落とします。曲全体での調と、その短い部分で感じる中心を両方聴きます。ファ♯がどの音へ進もうとしているかを、前後のフレーズと一緒に確かめてください。

繰り返しで冒頭へ戻ると、再びハ長調の材料が始まります。最初の区切りが持つ小さな落ち着きと、曲全体の最後が持つ落ち着き。その違いを聴くと、どちらにも同じ大きさの間を置く必要がなくなります。

録音で低音を追う

イェルク・デームスによる《メロディー》の録音です。最初は曲を通して聴き、冒頭の四小節の終わりと、曲全体の終わりを比べてみてください。次に、最後の小節だけ低音へ耳を向けます。旋律がドへ着いたあとにも、左手の動きが残っています。

イェルク・デームス:《メロディー》Op.68-1

Nuova Era. YouTubeで聴く.

録音の秒数を覚えるより、楽譜の音形を目印にします。自分で弾いた録音でも、同じ場所を聴き直してください。冒頭の繰り返しへ自然に戻れるか。最後は、右手が休符に入ったあとまで音楽が続いて聞こえるか。速さをまねるより、まずその関係を聴きます。

演奏を聴き比べながら自分の練習へ取り入れる方法は、ピアノ演奏の聴き方と解釈でも紹介しています。

間合いとペダル

カデンツがあるたびに、必ず速度を落とす必要はありません。和声の変化だけでも、到着は聞こえます。最初は拍を保って弾き、そのあとで少し間合いを変えてみてください。次のフレーズを続けたときに、流れがどう変わるかまで聴きます。

シューマンの最後の小節なら、三拍目の旋律のドと、四拍目の低音のドは、同じ役割ではありません。すべての音を同じように引き延ばすと、終わりが重くなります。旋律が着き、低音がそれを受け止める。その順序を聴きながら、時間の取り方を選びます。

グランドピアノ内部の弦、ダンパー、金属製のフレーム。

ペダルを長く踏み続けると、前の属七の和音のシやファが、主和音に移ったあとまで残ります。まずペダルを外して、音がどこで変わっているかを聴きます。それから、楽器の響きと書かれた音の長さに合わせて踏み方を加えます。単に濁りを消すだけでなく、新しい和音が現れる瞬間を聞き取ってください。

伴奏の八分音符も、一音ずつを強く意識しすぎると、和声の大きな動きから離れてしまいます。小さな音の流れを保ちながら、旋律と低音の到着を聴き続けます。手の動きだけに頼らず音楽の道筋を覚える考え方は、ピアノの暗譜と四つの記憶にもつながる内容です。

今の曲で終止を探す

練習中の曲から、一区切りになりそうな箇所を選びます。最後の二つの和音だけでなく、調と旋律の流れが分かるところから弾いてください。旋律と低音を取り出し、内声を戻し、そのまま次のフレーズへ進みます。途中で止めなくても、区切りが聞こえるかを確かめます。

楽譜への書き込みは、今の疑問に答える言葉にします。《メロディー》の最後なら「G7からC/E、最後に低いド」と書くだけで、聴く対象がはっきりします。和音名をすべての音へ重ねるより、到着の順序をつかむための印です。

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