シューベルトの即興曲Op.90-3:旋律を歌わせる練習と難易度

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

長い旋律を、流れる内声と低音の上で歌う。冒頭から中間部、最後の和音まで、五つの譜例、拍の図と演奏動画を使って、響きとフレーズを考えます。

シューベルトの即興曲Op.90-3、変ト長調。流れる伴奏の上に長い旋律が浮かぶこの曲では、音を読めたあとに、もう一つ大きな楽しみが待っています。同じ音が続く旋律をどう歌うか。低音が変わると、その歌はどんな表情になるか。静かな響きの中にも、耳を向けたい出来事がたくさんあります。

練習の出発点は、旋律、細かく動く内声、低音の三つを聴き分けることです。その関係を冒頭でつかみ、力強い中間部、左手へ移る伴奏、最後の和声の変化まで追っていきます。

私はこの曲を扱うとき、伴奏をどこまで小さくするかを考える前に、旋律と低音だけで弾く方法があります。二つの声部の間に音楽の行き先が聞こえると、細かな音を何のために添えるのかも分かってきます。

難易度と準備

ゆったりした旋律と繰り返しの多い伴奏から、譜読みの見通しは立てやすい曲です。一方、長い音を保ちながら同じ手の別の指を動かすこと、和音の変化をペダルで濁らせないこと、長いフレーズを支えることには丁寧な準備が要ります。

中級の曲に取り組んでいる方なら、まず冒頭の二小節を短く試してみます。旋律と低音を合わせ、そこへ内声を一拍分だけ加えたとき、旋律を追い続けられるでしょうか。手が忙しくなった場所と、音が変わった場所を見つけます。

あわせて、第25〜26小節と第35〜36小節も早めに見てください。前者は低音の動きが増え、後者では流れる伴奏を左手が受け持ちます。冒頭だけを長く磨いてから進むより、曲全体の異なる弾き方に触れておくと、必要な練習を選べます。

曲の大きな流れは、次のように捉えられます。

  • 第1〜24小節:旋律と内声、低音が作る歌とその広がり。
  • 第25〜54小節:強い響き、静かな応答、伴奏の手の交代。
  • 第55〜74小節:冒頭の歌の帰りと、続く和声の変化。
  • 第75〜86小節:終わりへ向かいながら揺れる響き、最後の和音。

演奏を聴くときも、細かな音の速さだけでなく、長い旋律と低音の動きを追ってみてください。冒頭の静けさから中間部を通り、歌が戻ってくるまでを一つの流れとして聴きます。

ラドゥ・ルプー:即興曲Op.90-3

Decca。YouTubeで聴く。

変ト長調と大きな拍

この記事は、変ト長調、2分の4拍子の楽譜を使います。一小節に二分音符の大きな拍が四つあり、譜例では二つのアラ・ブレーヴェの記号を並べて示しています。調号には六つのフラットがあります。

この曲には、ト長調へ移され、拍子も変更された古い出版譜があります。Henleの序文でも最初の出版社による変更が説明されています。手元の楽譜と譜例で調や小節の長さが違う場合は、まずどの形の楽譜を使っているかを確かめましょう。以下の小節番号は、末尾に挙げたMutopia譜に基づきます。

六つのフラットを一音ずつ思い出しながら読むより、最初の内声に現れるシ♭・レ♭・ソ♭を、和音の形として見ます。次の小節でミ♭が入るときは、その変化を耳でも確かめます。同じ指の動きを繰り返しているつもりでも、響きは少しずつ動いています。

冒頭の三つの声部

第1〜2小節:旋律・内声・低音

楽譜は横にスクロールできます。

変ト長調。二つのアラ・ブレーヴェ記号が2分の4拍子を示す。旋律のシ♭は全音符、そのあと二つの二分音符。内声は休符から始まる細かな動き。第2小節の左手のミ♭のオクターブはタイで結ばれる。
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長い旋律を聴いたまま、内声の最初の休符を大きな拍の中に置きます。

一番上のシ♭が旋律です。その下で細かな音が動き、左手のソ♭とレ♭が低音の支えになります。右手の音をすべて同じ強さで弾くと、旋律と内声が一つの塊になり、長い歌が聞こえにくくなります。

最初のシ♭は全音符で、二分音符二拍分続きます。そのあと、同じシ♭が二分音符で二回現れます。長い音のあとにある二つの音には、スラーの下に点が付いています。一続きのフレーズの中で、音を穏やかに言い直すように弾いてみます。

内声は、大きな一拍の中を六つに分けて進みます。最初の一つは休符です。その位置で旋律と低音が鳴り、そのあとに内声が続きます。

最初の一拍を六つの場所で読む

二分音符一拍分。旋律と低音が鳴る位置にも、内声の時間はあります。

  1. 1休符
  2. 2シ♭
  3. 3レ♭
  4. 4ソ♭
  5. 5レ♭
  6. 6シ♭

旋律のシ♭と低音は「1」で始まり、この一拍を通して響きます。内声は「2」から動きます。

この休符を数に含めず、動く五音だけを一まとまりとして急いでしまうと、伴奏が旋律へ食い込んで聞こえます。ゆっくり読む段階では六つの場所を確かめ、慣れてきたら二分音符一つの大きな拍へまとめます。

細かな音をすべて均等に目立たせると、歌の下で拍子を刻み続けるような響きになります。内声の流れは保ちながら、耳は長い旋律の先へ向けます。音の数が多い声部ほど重要、という読み方を離れるところが、この曲の面白さです。

右手の旋律と指使い

旋律だけを弾き、どこへ向かって歌いたいかを聴きます。次に、一拍分の内声を加えます。そのとき、旋律の音を保つ指につられて手全体を固めていないか、内声の高い音が急に飛び出していないかを確かめます。

冒頭では、内声のソ♭が旋律に近い音域へ上がります。ここが強く鳴ると、本来のシ♭よりも耳を引くことがあります。旋律をさらに強く叩いて取り戻そうとする前に、内声のソ♭へ入る動きと、その前後の音量を聴いてみてください。

指使いは、内声の弾きやすさと旋律の続きの両方から選びます。分散和音だけなら滑らかに弾けても、次の旋律音へ移るために長い音を早く離してしまうことがあります。一つの和音の形で止めず、次の旋律の到着まで試します。

私は、旋律だけで弾いたフレーズと、内声を加えたフレーズを同じ大きな拍で聴き比べます。両手になると毎回同じ場所で待ってしまうなら、その場所へ入る動きを扱います。音量だけを調整しても、フレーズを止めている原因が残る場合があるからです。

和音の中の旋律を弾き分ける基本的な練習は、メロディーが和音に埋もれるときのガイドでも紹介しています。この曲では、その違いを長い時間保ちながら、和声の変化に合わせて歌を動かします。

低音とペダル

第1小節の左手は、ソ♭とレ♭の響きを旋律とともに言い直します。一方、第2小節の低いミ♭のオクターブはタイで結ばれています。新しく鳴らす低音と、保たれている低音の違いを、右手の流れの下で聴きます。

まず旋律と低音を合わせ、その二つの声部で和声の進み方を感じます。そこへペダルを加え、新しい響きに移ったときに、前の低音が残りすぎていないかを聴きます。内声を戻したあとは、細かな音が加わった分だけ、ペダルの量も見直します。

グランドピアノの弦とフレームの細部

一小節が長いので、「小節ごとに一回踏み替える」と決めると、途中の和声の変化を聴き逃します。同じペダルの深さでも、低音域や強い部分では残る響きが変わります。足の動きを覚えることと、変わった和音を耳で確かめることを一緒に進めます。

短い範囲をペダルなしで弾くと、指が早く離れる場所や内声の不均等さが聞こえます。そのあとペダルを戻し、曲としての響きを作ります。歌を支える共鳴も、この音楽の大切な部分です。踏み替えの基本を整理したい方は、ペダルを初めて練習するときのガイドもご覧ください。

第25〜26小節:動き出す低音

第25小節では、旋律のシ♭にアクセントが付き、フォルテになります。内声の動きが続く中で、左手の低音にも短い上行が現れます。音楽の切実さは、旋律と低音が呼び合う関係からも生まれます。

第25〜26小節:旋律と動く低音

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第25小節はフォルテ。旋律のシ♭にアクセント。左手は長い付点音符のあとに上行する三連符。第26小節は旋律と低音が動き、デクレッシェンドが書かれる。
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低音の到着から次の到着までを聴き、強い響きから弱まるフレーズを作ります。

左手だけで、長い付点音符から上行へ進むリズムを弾いてみます。上る音を準備するために長い音を早く切り上げると、次の響きへ急いでしまいます。反対に、上行の一音ずつを探していると、次の到着が遅れます。低音の到着から次の到着までを、一つの時間として捉えます。

次に、内声を省いて旋律と低音を合わせます。旋律のシ♭を言い直すところで、低音がどんな動きをしているか。二つの声部のやり取りが聞こえたら、内声を加え、その流れを支えます。強い部分でも、すべての音を同じ強さにそろえる必要はありません。

第26小節では旋律も動き、デクレッシェンドが書かれています。第25小節の強さを保ち続けると、その応答が平らになります。前の静かな小節から入り、強い響きを経て弱まるところまでを一つのフレーズとして練習します。

第35〜36小節:伴奏が左手へ

第35小節では、右手の長いド♭の下で、左手が細かな動きを受け持ちます。強弱はピアニッシッシモ。左手は低音と流れる内声を一緒に扱うため、冒頭とは手の使い方も聴き方も変わります。

第35〜36小節:左手に移る内声

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第35小節はピアニッシッシモ。右手の長いド♭の下で左手が細かく動き、低音はド♭からラ♭♭へ移る。第36小節では膨らんだあと、アクセントからピアノへ戻る。
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右手のド♭を聴きながら、左手の低音と内声を別々の役割として扱います。

右手のド♭と左手の低音だけを弾くと、低音がド♭からラ♭♭へ移る響きを聴けます。ラ♭♭は、ピアノではソと同じ鍵盤です。ここでは楽譜の綴りを見ながら、同じ旋律音の下で和声がどう変わるかを感じます。

左手の細かな音を加えるときは、低音を弾いた勢いで、その後の内声まで強くならないかを聴きます。低音を保とうとして手を固めるより、書かれた長さとペダルによる響きを確かめながら、内声の次の位置へ動きます。

右手のド♭が戻ってきたら、左手の練習で作った音が、その旋律の下に収まるかを聴きます。左手だけで弾けることに加え、両手での響きの関係を確かめる時間が必要です。

第36小節には、膨らんでアクセントへ向かい、ピアノへ戻る動きがあります。静かな部分にも表情の山があります。ずっと消えそうな音で弾くことを目標にすると、この小さな変化まで失われます。弱い音の中にも、方向を持たせます。

再現と終盤の和声

第54小節のフェルマータを経て、第55小節で冒頭の歌が戻ります。ここを練習するときは、再現の最初から弾くだけでなく、その直前の響きから入ってみます。音が止まっている時間にも次の歌を思い描き、内声の大きな拍を取り戻します。

終盤に入っても、響きはすぐには落ち着きません。第79〜80小節には、調号や臨時記号の変化が目立つ場所があります。

第79〜80小節:終盤の色の変化

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第79小節には調号のフラットがなく、旋律はファ♯。第80小節途中で六つのフラットが戻り、旋律のドにナチュラル、強いffzの指示と左手の内声が現れる。
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同じ鍵盤の音でも、低音と内声が変わると響きの意味が変わります。

第79小節の旋律はファ♯です。先ほどまでのソ♭と同じ鍵盤ですが、低音と内声が変わることで、その音を囲む響きも変わっています。旋律の鍵盤だけが同じだからといって、前と同じ和音の感覚で弾くと、ここでの色の変化を捉えにくくなります。

第80小節の途中で六つのフラットの調号が戻り、旋律はナチュラルのドへ移ります。参照譜にはffzの強いアクセントが書かれ、伴奏も左手へ移ります。記号を一つずつ処理するだけでなく、その直前から音量と和声の動きを聴き、この響きの変化へ向かいます。

ここでも、低音と旋律を取り出す練習が役立ちます。変化する和音をゆっくり聴き、内声を戻して、ペダルで前の響きが混ざりすぎないかを確かめます。臨時記号の読み方が曖昧な場所は、調号と臨時記号の整理も参照してください。

最後の二小節

第85小節では、右手の和音の下で左手の音形が下り、最後の響きへ向かいます。右手の長い音、そのあとの二つの言い直しには、冒頭の旋律と通じるリズムがあります。

第85〜86小節:下降と最後の和音

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第85小節の右手は長い和音と二つの二分音符、左手は流れる音形から下降。第86小節の両手の全音符の和音はタイで結ばれ、終わりにフェルマータ。
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最後の和音の打鍵は一回。タイで続く響きと、その終わりまで耳を向けます。

左手の下降を最後の和音への助走のように急ぐと、小さな音が詰まりやすくなります。下降する音にも時間を与え、その先の和音へ進めます。右手を加えたあとも、左手の流れが聞こえているかを確かめます。

第86小節の二つの全音符の和音はタイで結ばれているので、打鍵は一回です。その響きがフェルマータまで続きます。最後の和音を弾いたあとも耳を離さず、響きの行方を聴いてからペダルを戻します。終わりの静けさまでが、ここまで続けてきた歌の一部です。

曲全体の練習とレッスン

冒頭のバランス、力強い低音、左手の伴奏、終盤の和声。これらを練習の中で行き来すると、曲の後半にも早い段階から音楽の見通しが生まれます。毎回最初のページだけがよく弾ける、という偏りを避けられます。

短い部分では、問題に合わせて声部を減らします。旋律と低音なら歌の行き先、内声だけなら動きと拍、すべてを合わせれば響きのバランスを聴けます。そのあと前後のフレーズへ戻り、部分練習で選んだ音が曲の中でも働くかを確かめます。

極端に遅い練習では、次の旋律音までに響きが長く減衰します。音の位置を理解するための速さと、フレーズを感じるための速さを使い分けてください。短い範囲が読めたら、少し流れるテンポでも試し、その速さで必要になるバランスを聴きます。

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