ピアノのトリルが続かないときの練習:始まり・終わり・拍を確かめる
トリルの二つの音だけなら交互に弾けるのに、曲に入れると急に詰まる。速くしようとすると、最後の音が増えて次の小節に間に合わない。そんなとき、私はまず「そのトリルのあと、どの音を聴かせたいですか」と尋ねます。出口が決まると、短い装飾の中にも旋律の行き先が見えてきます。
ピアノのトリルは、主音とその一つ上の音を交互に鳴らす装飾です。ここでいう主音は、調の主音ではなく、トリル記号が付いた音符の音。弾き方を考えるときは、次の三点を楽譜で確かめます。
- 始まりの音:記された音からか、その一つ上からか。作曲家、時代、その前の旋律も読みます。
- 使える時間:トリルの付いた音符の長さと、伴奏の拍を確認します。
- 終わりの音形:小さな音符が添えられているか、次の旋律音は何かを見ます。
この三点を、バッハの装飾音表、ベートーヴェンのソナタ、クレメンティのソナチネで考えてみましょう。指の練習も、実際に弾きたい曲の音とリズムから始めます。
開始音:上の音からか、主音からか
バッハが息子ヴィルヘルム・フリーデマンのためのクラヴィーア小曲集に記した装飾音表には、記号とその弾き方が並んでいます。最初の「Trillo」は、主音より一つ上の音から始まる例です。下段の最初の音符が、上段の主音より高い位置にあるのが見えます。

バッハの作品で開始音を考える際には、この表が大切な手がかりになります。さらに、直前に何の音を弾いているか、トリルの最初の音が低音とどんな響きを作るかまで聴きます。上の音を拍の頭で鳴らすと、一瞬の緊張が生まれ、主音に戻る意味がはっきりすることがあります。
一方、ベートーヴェンのソナタ第19番ト短調Op.49-1、第1楽章の第34小節へ入るアウフタクトからは、短いトリルが続きます。ヘンレ版の校訂者ノルベルト・ゲルチュとマレイ・ペライアは、この箇所では主音から始め、後打音を加えない弾き方を支持しています。小太鼓のロールのような効果を理由に挙げています。
ソナタOp.49-1、第1楽章。第34小節へのアウフタクトと第34〜35小節。4分の2拍子。
譜例は横にスクロールできます。

ヘンレ版の校訂者は、この箇所を主音から始めると解釈しています。掲載譜例は別のMutopia版で、最初の左手にもtrがある点はヘンレ版と異なります。
この二例だけでも、「トリルはいつも上から」「いつも書いてある音から」という一律の決め方では曲の違いを捉えられません。レッスンでは、手元の版の注釈を読み、前後を含めて二つの響きを比べます。開始音を選ぶことは、単に最初の指を決めることよりも、旋律の性格に深く関わっています。
上の音の高さも、調号と臨時記号を確かめて決めます。白鍵の隣だから次も白鍵、とは考えません。トリル記号のそばに♯や♭が添えられている場合には、その記号がどの補助音に関わるかを版の説明と照らし合わせます。
終わり方:クレメンティのソナチネ
クレメンティ《ソナチネ》Op.36-1の第2楽章は、4分の3拍子のアンダンテです。第3小節の右手はファの二分音符に続き、3拍目のソにトリルが付きます。次のラの前には、小さなファ・ソの音符があります。ここではソの装飾を終え、ファ・ソを通って、次の小節のラへ進むという旋律の輪郭を先に歌います。
クレメンティOp.36-1、第2楽章、第3〜4小節。ヘ長調、4分の3拍子。両図とも上段はト音記号、下段はヘ音記号です。
次の小節の1拍目はラ。トリルの反復と小さなファ・ソを弾き終えて、このラへ進みます。
最初はトリルの反復を外し、ファを2拍、ソを1拍、次のラを新しい小節の1拍目に弾きます。この骨格だけで伴奏と合わせると、ソに使える時間が耳に残ります。続いて、小さなファ・ソをラの直前に加え、ラの入る位置を保ったまま弾きます。
そのあとでソと上のラの交替を入れます。始めからたくさんの音を詰め込むと、後打音のファ・ソにたどり着く前に次の拍が来てしまいます。反復の部分を短くして、終わりの音形まで一息で弾くほうが、このフレーズの動きは伝わります。
この版では、小さなファ・ソが段の変わった第4小節の頭側に印刷されています。譜面の見た目だけで「新しい小節に入ってから装飾を始める」と受け取ると、ラが遅れがちです。改行をまたいで、トリルから次の旋律音までを読んでください。
ソナチネの装飾を弾けるようになっても、前後の拍や音色が落ち着かない場合は、ソナチネの練習で拍・音色・フレーズを見直す方法も参考になります。装飾の一音だけを仕上げるより、短いフレーズとして弾く力を育てたいところです。


拍と音数:次の音が入る場所
「トリルは何回弾けばよいですか」という質問には、音符の長さとテンポを見ながら答えます。ゆったりした四分音符と、速い曲の八分音符では、同じ回数を入れようとしても音楽の身振りが変わります。まず次の音の入る場所を決め、その間にどれだけの交替が収まるかを試します。
練習の初期には、交替を規則的な細かい音符として数える方法が役立ちます。例えば主音から始める一拍分なら、主音・上の音・主音・上の音の四音を均等に置き、次の拍で目的の音へ進む。これは時間の幅を覚えるための練習形です。実際の作品で必要な開始音や後打音を確かめてから、曲に戻します。
音数を増やすときも、最初と最後の位置を聴きます。「前半は速いが最後だけ急ぐ」「途中で手が止まり、終わりの二音だけ飛び出す」という場合には、均等に弾ける短い形へ戻ります。メトロノームはトリルの一音ずつではなく、まず曲の拍を示す速さにして、出口が拍に合っているかを確かめましょう。
ただし、数えた四音や六音のまとまりが、そのまま演奏のアクセントとして残ると、長いトリルが細切れに聞こえます。弾ける速さになったら、細分した数え方を離れ、旋律の音量と方向を聴きます。クレッシェンドの途中なら少しずつ響きを育て、静かな終止なら収まりを作る。装飾にもフレーズがあります。
指使いと鍵盤の位置
右手の2・3で弾いているトリルが毎回引っかかるなら、同じ音で1・3や2・4も比べてみます。白鍵同士、白鍵と黒鍵、黒鍵同士では、指を置く位置や手の向きが変わります。前後の旋律から入れること、終わったあとに次の音へ進めることも、運指を選ぶ条件です。
比較するときは、二つの音を小さなまとまりにして、同じ速さと音量で弾きます。交替のたびに一方だけが強くなるのか、音が抜けるのか、それとも次の音へ移るところで詰まるのか。聴こえる違いを一つに絞ると、指使いを変えた効果を判断できます。
二本の指を高く持ち上げ続けたり、手首を固めて鍵盤の底を押し続けたりすると、短い動きを何度も繰り返すことが難しくなります。鍵盤が戻る感触を確かめながら、小さな動きで二音を交替させます。私はここで、速さを上げるよりも、数音を弾いたあとに手が次の動作へ移れるかをよく見ます。
長いトリルを限界まで続ける練習より、前の音から入り、短く反復して、次の音に着地する練習を重ねます。運指を変える判断については、フレーズと手の移動から指使いを選ぶ記事で、別の短い譜例も紹介しています。
両手で崩れるとき
片手では弾けるのに両手で乱れる場合、トリルの一音ごとに左手を合わせようとしていることがあります。伴奏が八分音符や三連符で進む曲では、二つの手がそれぞれの音の間隔を持っています。どこで拍を共有するのかを先に聴きます。
クレメンティの例なら、左手は三連符で動き、右手のトリルは第3小節の3拍目に現れます。まず左手の各拍の最初の音だけを弾き、右手のファ、トリルの始まり、次の小節のラを合わせます。その後、左手の三連符を戻し、右手は選んだ短い装飾の形を保ちます。
左手の三つの音に合わせるためだけに、トリルを必ず三音や六音に固定する必要はありません。両手の細かい音をすべて縦に揃えるより、3拍目に入り、次の1拍目へ進む大きな流れを共有します。伴奏が速くなるなら、一度トリルを主音だけに戻して、左手の拍を聴き直します。
ペダルを使う曲では、最初に短い区間をペダルなしで弾くと、音の抜けや重なりを聴き取れます。そのあと曲に必要なペダルを戻して、トリルの輪郭と低音の響きを一緒に調整します。装飾だけが大きく飛び出さず、前後の旋律と同じ音色で続くかも聴いてください。
曲の中で聴き直す
練習を終える前に、トリルのある小節だけでなく、その前から次のフレーズまで弾きます。短く録音して聴くなら、「何回弾けたか」よりも、開始音が聞こえるか、伴奏の拍が動いていないか、最後の旋律音が自然に続くかを確かめます。
私がトリルに求めたいのは、細かい音が均等に並ぶことに加えて、その場所の表情が伝わることです。軽い呼びかけなのか、終止を引き延ばす緊張なのか、ベートーヴェンの例のような勢いなのか。二音の交替が何をしているかを聴くと、速さと音量にも選ぶ理由が生まれます。
池袋・新宿でトリルを相談する
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トリルを練習中の曲と、使っている版の楽譜をお持ちください。前後のフレーズを聴き、開始音、後打音、指使い、伴奏との合わせ方を一緒に考えます。無料体験レッスンのお申し込みには、作曲家・曲名と、困っている小節を添えていただければ十分です。
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