ピアノを一曲だけ習いたい大人へ:好きな曲から始めるレッスン
「この曲を一曲だけ弾けるようになりたい」という目標から、ピアノのレッスンを始めることはできます。憧れの曲があるなら、その気持ちを選曲の中心に置いてみましょう。最初に決めたいのは、どの楽譜を使い、どんな演奏を目指すかです。
同じ曲名でも、原曲と初心者向けの編曲では、両手の動きも曲の長さも違います。また、初めて鍵盤に触れる人と、途中まで弾ける人では、最初のレッスンで扱う内容が変わります。
- 原曲を最後まで弾きたい: 冒頭だけでなく、中間部や終わり方まで楽譜を見ます。
- 好きな旋律を両手で楽しみたい: 音域や伴奏が合う編曲を選びます。
- すでに弾いている曲を仕上げたい: 止まる箇所や、音色に納得できない箇所を持っていきます。
私は、まずその曲のどこに惹かれたのかを聞きたいと思います。旋律を自分で歌わせたいのか、深い和音の響きが好きなのか。それによって、編曲で残したい音や、原曲に向けて準備することも変わるからです。
一曲の目標と楽譜選び
「一曲を習う」という希望には、いくつかの形があります。家で自分のために弾く、人前で一度披露する、以前習った曲をもう一度仕上げる。同じ曲でも、何をもって完成とするかは少しずつ違います。
たとえば、好きな旋律を両手で味わいたい人には、伴奏を整理した編曲が合うことがあります。右手の旋律に長い音が多く、左手が複雑に動く原曲なら、伴奏を小さな和音に置き換えた版で、旋律を最後まで歌う経験を作れます。
一方、原曲の内声や和声の変化に惹かれている場合、その部分を省いた編曲では物足りなく感じるかもしれません。楽譜の難しさだけで決めず、何を聴きたいのか、何を自分の手で弾きたいのかを選曲に含めます。
楽譜を選ぶときは、最初のページに加えて、中間と最後も開いてみてください。音が急に細かくなる、和音が広くなる、左右が別々のリズムになる。その変化を先生と見ながら、原曲に取り組むか、編曲から始めるかを決めます。中級の曲を探している方は、伸ばしたい力で選ぶクラシックの選曲ガイドも参考になります。
初めて弾く人の始め方
初めてピアノを弾く人なら、まず旋律の短いまとまりを鍵盤で探し、拍に乗せて弾いてみます。指の順番を覚えるだけでなく、音が上がる場所、下がる場所、少し長く留まる場所を、耳と楽譜の両方で確かめます。
ここで、知っている曲の強みが生きます。次の音を頭の中で思い浮かべられると、鍵盤で出た音との違いに気づけます。ただし、聴き覚えだけでは休符や細かなリズムを曖昧にしやすいため、楽譜にも戻ります。耳と読譜を同じ曲の中で育てていく考え方です。
両手を合わせる段階では、伴奏の役割を絞ります。旋律を止めずに、決めた場所で低い音を入れる。そこまで弾けたら、次の伴奏の音を加える。このように音を増やす練習では、今どの音を省いているかを理解し、使っている編曲の完成形も確かめておきます。
最初の到達点は、数音を何度も弾くことより、短くても終わりのある一節です。出だしから終わりまで拍を保ち、最後の音を聴いて手を離す。その小さな完成が、次のフレーズに取り組む土台になります。
家で使える楽器や練習場所も、選曲と一緒に考えます。自宅にピアノがない場合は、東京で練習場所を確保する方法を参考に、実際に鍵盤に触れられる機会を見つけておきましょう。
再開した人・途中まで弾ける人
以前習っていた人や、動画を見ながら途中まで覚えた人は、弾けるところを一度聴かせてください。冒頭から通した演奏と、気になる一節をゆっくり弾いた演奏では、見えてくることが違います。
たとえば、右手だけなら流れるのに、左手を入れると毎回同じ場所で止まるとします。そのときは、難しい音型の手前から弾き、どの音で手の準備が遅れるのかを見ます。指使いを一つ変えるのか、移動するタイミングを変えるのか、左右が合う音を読み直すのか。原因に合わせて練習箇所を選びます。
音は最後まで並んでいても、「自分が好きな演奏のように歌わない」という悩みもあります。旋律だけを弾くとフレーズが聞こえるのに、伴奏を加えると埋もれるなら、音量の関係を扱います。旋律だけでも途中で気持ちが切れるなら、どの音に向かっているのか、どこで息をつくのかを先に考えます。
同じ一曲のレッスンでも、前者は両手の組み合わせ、後者は音の聴き分けが中心になります。曲名や最後に終えた教本だけでは決められない部分です。ブランクが長い場合の再開の見通しは、ピアノを再開する最初の練習計画で詳しく扱っています。
《エリーゼのために》で見る全曲の違い
ベートーヴェンの《エリーゼのために》は、冒頭と、その後に出てくる部分の違いが分かりやすい例です。最初は「ミ・レ♯」の動きから始まり、旋律と分散和音が両手の間を受け渡されます。ここでは、手が交代するときにも音楽が続いているかを聴きます。
楽譜は横にスクロールできます。

旋律と分散和音が両手の間を受け渡されます。手が交代する場所でも、フレーズの続きを聴きます。
楽譜を大きく表示後に出てくる第31小節では、右手に細かな音が連続し、左手は別のリズムで伴奏を弾きます。この楽譜では、右手の三十二分音符四つが八分音符一つ分です。冒頭の旋律を覚えることに加えて、音のまとまり、指使い、左手との位置関係を読む力が必要になります。

右手の四音で八分音符一つ分。左手の休符と和音が入る位置も確かめます。
楽譜を大きく表示さらに、曲の後半には低い音を繰り返す部分や、上行する音型もあります。原曲を一曲として仕上げるなら、こうした部分も目標に含めます。冒頭だけを繰り返していると、弾き慣れた場所と手つかずの場所の差が大きくなってしまいます。
下の演奏では、よく知っている主題が戻ってくる場所と、その間で響きが変わる場所に耳を向けてみてください。演奏家と同じ速さを目指す前に、自分が弾きたい「一曲」にどんな場面があるかを聴く時間です。
ヴィルヘルム・ケンプ:ベートーヴェン《エリーゼのために》
Decca. YouTubeで聴く。
この曲そのものの練習については、《エリーゼのために》を最後まで仕上げるための練習順序に、細かな音型と主題への戻り方をまとめています。
基礎練習と好きな曲
一曲を目標にしていても、短い準備練習を挟むことがあります。そのとき大切なのは、練習の目的が好きな曲の中に戻ってくることです。
分散和音で手が固まるなら、まず和音の音を確かめ、指を広げたまま固定せずに移動する練習をします。旋律が伴奏に埋もれるなら、伴奏を小さな音で弾きながら、右手の長い音を聴き続けます。練習のあとに元のフレーズへ戻り、響きや動きが変わったかを確かめます。
短い別の曲が役立つ場合もあります。目標曲では譜読みと両手の動きで精いっぱいなら、読みやすい曲で音量のバランスを経験してから戻る、という順序です。その短い曲にも歌い方や終わり方があり、単なる指の作業にはしません。
私は「この練習をすると、目標曲のどこが変わるか」を説明したいと思っています。伴奏の音が減り、旋律の終わりまで耳が届くようになった。その変化が聞こえると、基礎練習と好きな曲が別々の宿題にならず、一つの音楽のための時間になります。
家での練習と仕上がり
レッスンで変化が出た箇所は、その前後を含めて家でも弾きます。たとえば手の移動を直したなら、移動先の音だけを繰り返すのではなく、直前の音から練習します。伴奏を静かにしたなら、その音量のまま一つ先の和音まで進みます。
短い箇所が弾けたら、少し長いまとまりの中でも試します。取り出した一小節ではできたことが、曲の流れの中で消えてしまう場合、前からの準備や次への意識がまだ必要です。同じ場所を何回弾いたかより、戻したときに何が残ったかを聴きます。
また、曲の最初以外からも始めてみてください。中間部、主題が戻る場所、最後のフレーズ。途中から弾き始められると、短い練習時間でも後半に手が届き、間違えたときに毎回最初へ戻る習慣も減らせます。
仕上がりの目安は、音を並べ終えたことだけではありません。旋律と伴奏が聴き分けられるか、場面が変わっても拍が崩れないか、最後の響きを聴いて終われるか。一曲をゆっくりでも音楽として弾く経験には、次の曲にも使える力が含まれています。
期限があるときの選曲
人前で弾く予定があるなら、日付と場所も早めに伝えてください。仕上げるまでに何回のレッスンが必要かは、曲名だけでは決まりません。今弾ける部分、初めて学ぶ動き、家で練習できる機会を見て、到達点を考えます。
期限によっては、原曲の全体に取り組むより、まとまりのある編曲を選ぶほうが、その日の演奏を楽しめることがあります。原曲の一部分を弾く場合も、どこで終わるかを先生と決め、最後まで一つの演奏として整えます。
期限がないなら、完成を急ぐより、好きな響きを少しずつ増やしていく目標もあります。途中まで覚えた曲を最後まで弾く、伴奏を静かにする、同じ旋律が戻るときの表情を変える。一曲を深く知ることも、大人のピアノの楽しみです。
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