大人のピアノ教本:バイエルからブルグミュラーへ、全部弾くべき?
「バイエルを全部終えてからブルグミュラーへ。その次はツェルニー、ソナチネ」。大人になってピアノを始めるとき、この順番を長い通過点のように感じる方がいます。子どもの頃に使った教本を開き、途中から再開するか、最初へ戻るか迷うこともあるでしょう。
教本の進め方は、今の演奏と弾きたい音楽に合わせて選べます。一冊を順に進める良さもありますが、すでに身についている課題は確認して先へ進み、必要な曲を選んで取り組む方法もあります。大切なのは、飛ばしたページの数ではなく、次の曲で使う力が育っているかどうかです。
私は教本を選ぶとき、何番まで終わったかに加えて、短い曲をどう読んで、どんな音で弾いているかを聴きます。同じ「バイエルの途中」でも、両手を合わせることが課題の人と、読める音を歌としてまとめたい人では、次に扱う内容が変わります。
ここでは、バイエル第7番、ブルグミュラー《素直な心》《アラベスク》の譜例を使って、教本を進める判断を考えます。
教本を進める三つの見方
曲が最後まで弾けたあとにも、確かめたいことがあります。
- 読む力:別の短い曲でも、音の高さやリズムを読めるか。
- 動きと拍:手を合わせても、音楽の拍が続いているか。
- 聴く力:旋律、伴奏、音のつながりを耳で追えているか。
この三つは、いつも同じ速さで育つわけではありません。音符は読めても、左手の和音が変わるたびに止まることがあります。反対に、覚えた曲はよく弾けるのに、初めて見る二小節で手が止まることもあります。
その違いを見て、曲を選びます。読譜が課題なら短く初見に近い曲、左右の違いが課題なら片方が動き、もう片方が保つ曲。教本の番号だけでは見えない部分です。
バイエル第7番:両手の同じ動き
この第7番では、両手が一オクターブ離れて、同じ音の並びを弾きます。上下の段はどちらもト音記号です。左手の段だからヘ音記号、と決めずに楽譜を見ます。
4分の4拍子。上下の段は、どちらもト音記号です。
楽譜は横にスクロールできます。

同じ音の並びを、異なる指の順番で弾きます。両手を合わせたあとも、大きな流れを聴きます。
最初の二小節は、ド・レ・ミ・ファと上がり、ソ・ファ・ミ・レと下がります。四分音符が一拍ずつ進み、次の二小節でも同じ形が繰り返されます。
右手は親指、左手は小指から始まるので、同じ音へ進んでも使う指の順番は左右で違います。片手ずつ音の並びを読み、そのあと両手を合わせると、どちらかの指につられる場所が見つかります。
両手で止まらず弾けたら、上がって下がる一つの流れとして聴いてみます。一音ずつ正しく置く段階から、フレーズを続ける段階へ進みます。次の小節へ入るたびに手を持ち上げ直していないか、同じ指だけ強く鳴っていないかも耳を向けたい点です。
この課題が安定していれば、似た動きを何曲も同じ目的で続けるより、別の課題へ進む判断ができます。ただし、この四小節で確認できるのは、同じリズムと音の並びを両手で扱う力です。ヘ音記号の読譜や、左右で異なるリズムは、ほかの曲で確かめます。
一音ずつ読むところから音程やまとまりを読む方法は、譜読みが止まるときのガイドで詳しく扱っています。
《素直な心》:動く手と保つ手
ブルグミュラー25の練習曲の第1番《素直な心》では、旋律の流れと伴奏の響きを聴き分けます。次の第3〜4小節には、右手が動く間、左手の和音を保つ場面があります。
ハ長調、4分の4拍子。上段はト音記号、下段はヘ音記号の続きです。
楽譜は横にスクロールできます。

左手の和音を保ちながら、右手の旋律を続けます。小節線で左手を弾き直しません。
右手は八分音符で進み、左手のド・ミ・ソは小節線を越えてタイで結ばれています。第4小節の頭で、左手をもう一度鳴らさずに、右手の旋律を続けます。
バイエル第7番のように両手が同時に動く曲とは、役割が変わります。片手が動くともう片方も動いてしまう人にとって、ここには新しい練習の意味があります。左手の和音を鳴らし、その響きを聴きながら右手の短い部分を加えてみます。
左手を保つことに気を取られ、右手の歌まで固くなる場合は、右手だけのフレーズへ一度戻ります。そこで聴いた流れを、左手の響きの上にも置きます。和音を押さえる作業と旋律を弾く作業を別々に終わらせるのではなく、二つの声部が一緒になった音を聴きます。
また、右手の指使いは、五本の指を一つの場所に並べたままでは収まりません。譜例にある2・1・3の指番号の前後を見て、次の音へ移る動きを考えます。指番号を守れたかだけでなく、その場所で旋律が途切れたり、音が飛び出したりしていないかが判断の材料です。
ここまでの譜例を見たら、《素直な心》を一曲通して聴いてみてください。動く旋律の下にある響きと、フレーズの行き先を追います。練習曲にも、音楽として聴きたい表情があります。
クリストフ・エッシェンバッハ:《素直な心》Op.100-1
Deutsche Grammophon。YouTubeで聴く。
《素直な心》をすでに練習している方は、レガート・強弱・左手のバランスを扱うガイドもご覧ください。
《アラベスク》:同じ曲集でも別の課題
次の第2番《アラベスク》では、右手の細かな動きに対して、左手が短い和音で拍を示します。《素直な心》の次の番号でも、必要な動きはそのまま延長したものではありません。
イ短調、4分の2拍子。右手は第3小節から入ります。
楽譜は横にスクロールできます。

左手の二つの拍の上に、右手の細かな動きと休符を置きます。
冒頭二小節は左手だけで始まり、第3小節から右手が入ります。右手は一拍目に四つの十六分音符、二拍目に八分音符と八分休符。左手は各拍で和音を弾きます。
右手の音の数に気を取られると、二拍目の音まで急ぎ、そのあとの休符が短くなりがちです。左手の二つの拍を感じ、その上で右手の動きと休符を置きます。速さを上げる前から、曲の軽い表情に関わる練習ができます。
《素直な心》で長い音を保つことに時間がかかる人が、《アラベスク》の短い音形には興味を持つこともあります。反対に、旋律をゆったり弾くことは得意でも、十六分音符と休符の切り替えに準備が要る人もいます。
こうした違いを見て、曲の順番や並行して弾く曲を選びます。一曲で苦労したから、その後の曲もすべて難しいと決める必要はありません。取り組む曲ごとに、今ある力と新しく学ぶことを分けて考えます。
飛ばす曲、戻る曲
曲を飛ばす判断には、その課題を別の場所でも使えるかという確認が伴います。たとえば、いつも練習している曲では付点のリズムを弾けても、別の旋律になると均等な長さに戻ることがあります。曲の記憶と、リズムの理解がどのくらい重なっているかを見ます。
私は、よく弾けた曲のあとに、似た課題を含む短い部分を見てもらうことがあります。新しい楽譜でも読み方や拍が保たれていれば、次へ進む手がかりになります。迷う場所があれば、そこに必要な材料を選びます。
戻るときも、以前と同じ目的とは限りません。昔は音を間違えず弾くことで精いっぱいだった曲を、今度は旋律と伴奏の音量差のために使えます。曲を読めている分、耳を響きへ向けられます。
反対に、新しい課題がほとんどなく、弾いていても聴きたいことが見つからない曲を、合格印のためだけに長く続ける理由は薄くなります。何を聴き、何を変えるためにその曲を弾くのか。レッスンでその目的を言葉にします。
好きな曲と基礎を並行する
憧れの曲があるなら、その曲を聴き、楽譜を見る時間も作ります。旋律の一部、弾きやすい編曲、今の段階に合う別の小品など、音楽に近づく入口を選べます。
たとえば、歌う旋律と分散和音の伴奏が好きな人なら、左手の和音の形を読む練習と、短い旋律を歌わせる練習を組み合わせます。教本で扱う内容が、好きな音楽のどこに現れるかを一緒に見ます。
好きな曲だけでは、よく使う調や動きに練習が偏ることもあります。そこで教本や短い練習曲から、まだ経験の少ない読み方やリズムを補います。一冊の教本と一曲の楽しみが、互いに役割を持つ組み合わせです。
ツェルニーを加える場合も、「ブルグミュラーの次だから」から一歩進めて、どんな動きや聴き方を扱うかを決めます。ツェルニー30番の練習目的では、第1番の譜例から曲への生かし方を紹介しています。
再開する大人と、昔の教本
昔の書き込みには、当時の指使いや苦手だった場所が残っています。再開するときは、その本と、今弾いてみたい曲を一緒に開いてみます。
指が覚えている曲を弾いたあと、少し離れたページの短い部分を読んでみると、覚えている動きと今の読譜の両方が見えてきます。そこで見つかった課題に合わせ、復習する曲と新しく取り組む曲を選びます。
楽譜を読めること、手が動くこと、音楽を聴き分けることには、それぞれの戻り方があります。最初の番号へ戻るか、以前止めた番号から続けるかという二択にせず、実際の演奏から教材を組み合わせます。
バイエルを続ける場合も、ブルグミュラーへ進む場合も、その曲を選ぶ理由が分かると、自宅で聴くポイントが定まります。レッスンで扱った内容を家で試す方法は、同じ注意を受けるときの練習ガイドにもまとめています。
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