音大受験のピアノ模擬試験:途中から弾く練習と講評の使い方

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

音大受験のピアノ模擬試験を、次の練習に生かすためのガイドです。募集要項に沿った演奏条件、途中からの開始、曲の切り替え、講評の聴き直しを解説。2027年度の試験例と、書き込める記録用紙を添えています。

音大受験のピアノ模擬試験では、志望校の条件に沿って一度演奏し、そこで聴こえたことを次の練習へ持ち帰ります。曲を最後まで通せたかだけでなく、最初の音、曲が変わったときのテンポ、指定された箇所からの出だしまで聴くと、普段の練習では見えなかった課題が残ります。

私は模擬試験を、合否の予想をもらう日よりも、自分の演奏を少し離れた耳で聴く日として使いたいと思います。本人には大きな失敗に感じられた一音より、その後に旋律が戻ったことの方が、音楽として大切な場合もあります。一方、いつも通れていると思っていた箇所で、左手の響きが旋律を隠していることにも気づきます。

  • 年度・専攻・選抜方式をそろえて、演奏範囲と順番を決める。
  • 途中から弾く練習は、曲の構造が分かる場所から始める。
  • 講評は、曲名・小節・聴こえた変化と一緒に残す。
  • 次の一週間で取り組む課題と、保ちたい長所を一つずつ選ぶ。
舞台に並ぶ2台のグランドピアノと椅子

募集要項と模擬試験の範囲

まず、受ける年度、大学、専攻、選抜方式を募集要項の表紙と該当ページで確認します。同じ大学でも、総合型選抜と一般選抜では試験内容が変わります。曲の条件に加え、暗譜、繰り返し、演奏順、時間、面接の有無が、模擬試験で再現する範囲を決めます。

たとえば国立音楽大学の2027年度募集要項では、一般選抜A日程のピアノについて、指定課題を1、2の順に演奏すること、暗譜、繰り返しを省くことが示されています。Da Capoは自由とされ、時間の都合で途中をカットする場合もあります。総合型選抜のピアノは面接を含みますが、一般選抜A日程は演奏実技のみで、面接を行わないと明記されています。

この違いを知ると、模擬試験に何を入れるかも変わります。一般選抜A日程を想定する模擬試験は、演奏実技で組み立てます。志望理由を話す練習をするなら、別の目的の時間として設けます。受験生自身の要項をもとに、先生と演奏の条件を合わせてください。

実際の入試で途中からの開始が指定されるか、試奏が認められるかは、その試験の案内に従います。途中から弾く練習そのものには、暗譜や曲の理解を確かめる価値がありますが、それを全大学共通の試験形式として扱うことはできません。選曲条件の比較は、音大ピアノ受験の課題曲選びで詳しく説明しています。

最初の一音と曲の切り替え

模擬試験では、弾く直前の数秒から聴いてもらいます。椅子に座ってすぐに指を動かすのではなく、出したい音の高さ、響き、テンポを思い浮かべてから始めます。冒頭が弱音なら、静かな音でも旋律の方向が伝わるか。和音なら、どの音を最も聴かせたいか。最初の一音にも、その曲の解釈が表れます。

一曲目を弾き終えたあとも、次の曲まで続けて試します。速いエチュードのあとに穏やかな曲を弾くと、前の曲の速さや身体の勢いが残ることがあります。手を置き直し、次の曲の冒頭を内側で歌ってから入ると、二つの作品の性格を切り替える時間が生まれます。

普段の練習では、気になる冒頭を何度も弾き直してから通し始めがちです。模擬試験では、その準備を済ませた後の一回を聴きます。直前に冒頭を十回繰り返してから弾いた演奏と、少し待ってから始めた演奏では、分かることが違います。待つ時間も含めて一度試し、最初にどんな音を想像していたかを振り返ります。

別のピアノを使える場合は、音の立ち上がりや残響の違いも聴きます。慣れた部屋での音量をそのまま再現しようとするより、今いる場所で旋律と伴奏がどう届くかを確かめます。本番で試奏の時間が設定されているなら、その範囲で確認する音やペダルを先生と選んでおきます。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

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途中から弾く練習

途中から始める場所は、適当に小節を選ぶより、音楽の節目から決めます。主題が戻るところ、転調したあとの新しい部分、左手に旋律が移るところなどです。小節番号と一緒に「何が始まる場所か」を言えると、曲の中の位置が見えてきます。

たとえば再現部の始まりなら、最初の音だけでなく、調、和音、両手の位置、最初の一拍の音型まで思い出します。右手の旋律は浮かぶのに左手の和音が曖昧なら、その響きを楽譜で確かめます。指の順番だけに頼っていた箇所と、響きや構造から取り出せる箇所を分けて聴く練習です。

弱起から始まる旋律では、その前に拍を感じる時間も含めます。先生が「ここから」と指した瞬間に慌てて音を出すと、最初の短い音が重くなったり、次の強拍へ急いだりします。開始位置を確認し、必要な拍を内側で数え、旋律がどこへ向かうかを感じてから弾きます。

途中の一音が出せたら、その先の一つのまとまりまで続けます。始められる場所を増やすだけでは、音楽が小さな切れ端になってしまいます。節目から次の節目へ進む練習と、前の部分から自然に入る練習を組み合わせてください。暗譜を支える聴覚・譜面・構造などの手がかりは、暗譜の四つの記憶でも扱っています。

演奏を止められたとき

要項に途中カットの可能性がある場合は、先生の合図で止まり、次の指示を聴くところも一度試しておきます。止める合図のあとに気になる小節を弾き直したり、続きを説明したりせず、手を離して指示を待ちます。次の曲なのか、同じ曲の別の箇所なのかを聞き分けてから動きます。

開始位置が聞き取れなければ、「再現部の最初からでしょうか」「右手がこの旋律に戻るところでしょうか」と短く確かめます。小節番号だけでは版や数え方が一致しないこともあるため、音楽上の目印を共有しておくと、同じ場所を指しているか判断できます。

途中で止まったこと自体を、演奏の評価と結びつけることはできません。先ほどの国立音楽大学の例では、時間の都合によるカットが示されています。模擬試験でも、止めた理由と、その前までに聴こえた演奏の内容を分けて振り返ります。

このやり取りを一度試したら、音楽を長く保って演奏する時間へ戻ります。試験への対応だけを練習し続けると、曲全体をどう聴かせるかという本来の課題が薄くなります。

講評で聴き直す場所

講評を受ける前に、自分がどう感じたかを短く話します。「冒頭は落ち着いていた」「中間部で急いだ気がする」などです。そのあと先生の聴いたことと比べると、演奏中の感覚と、外に届いた音の違いが分かります。本人が失敗だけを覚えていても、旋律の流れが保たれていた箇所は残しておきたい長所です。

「もっと歌って」「音が硬い」といった言葉は、どこで何が聴こえたのかまで尋ねます。たとえば旋律の頂点の前で音が弱くなったのか、伴奏が大きくて旋律が隠れたのかでは、練習する内容が変わります。講評の言葉を、その場で曲の音に戻すことが大切です。

講評の言葉から、聴く場所へ

「もっと歌って」

聴こえたこと
右手の旋律が上がるところで、伴奏の和音が大きくなり、頂点の音が隠れた。
次に試すこと
旋律だけで頂点まで弾き、響きの方向を覚える。伴奏を加えたあとも、同じ旋律が聴こえるか確かめる。
保ちたいこと
冒頭の静かな音色は保つ。

「テンポが揺れる」

聴こえたこと
左手が低音へ跳ぶ直前で、右手の最後の二音が短くなった。着地のあとに間ができた。
次に試すこと
跳躍の前から着地後までを取り出す。左手の移動を確かめ、両手に戻したときの拍を聴く。
保ちたいこと
着地した低音の響きは保つ。
講評を聞くときの短い質問

「どの小節でそう聴こえましたか」「旋律の音量でしょうか、それとも音のつながりでしょうか」と、曲の場所と聴く内容を確かめます。

録音があれば前後を含めて聴き、楽譜にも同じ場所を記します。次の練習では、選んだ変化を一つ確かめます。

録音がある場合は、指摘された前後を含む短い範囲を聴きます。一音だけ切り離すより、そこへ来るまでの音量やテンポを含めると、変化が起きた理由を探せます。録音のタイムスタンプに加えて小節や音楽の目印を残しておけば、次に楽譜を開いたときにも同じ場所へ戻れます。

私は講評で、直すところだけを並べないようにしたいと思います。低音がよく響いていた、静かな再現部でも拍が続いていたなど、良かった音を言葉にしておくと、修正の途中でその長所まで失うことを防げます。音を柔らかくしようとして旋律が届かなくなったら、最初の演奏で保てていた方向も聴き直します。

模擬試験の記録

記録には、演奏した条件、聴こえたこと、次に試すことを残します。「緊張した」「暗譜が不安」という感想だけで終わらず、どの場所で何が起きたかを書きます。自分の感覚と聴き手の観察は欄を分け、後から違いを読み返せる形にします。

演奏条件、自分の感覚、聴き手の観察、次の課題を書き込む模擬試験の記録用紙

模擬試験の記録用紙をダウンロードする(A4・PDF)。

聴き手には、すべての音を採点するより、旋律と伴奏の関係、拍が変わった場所、曲の性格が伝わった場面を記してもらいます。練習を振り返るための音の記録として使います。

保護者が同席する場合も、演奏の専門的な判断をすべて引き受ける必要はありません。本人が話し終わるまで待ち、先生と決めた次の課題を確認する役割があります。帰宅後に指摘を一つずつ繰り返すより、次の練習でどこを聴くのかを共有しておく方が、模擬試験の続きになります。

次の一週間の練習

講評が多かったときは、演奏全体への影響が大きい課題から選びます。暗譜が止まった箇所を確かめる、テンポが崩れるつなぎ目を直す、旋律が隠れた部分のバランスを聴く。試験までの日数と今の曲の状態を踏まえ、最初に取り組むものを先生と決めます。

たとえば左手の跳躍のあとに拍が遅れたなら、その直前から着地後の和音までを取り出します。左手だけで移動と響きを確かめ、右手を戻したときも同じ時間で進めるかを聴きます。そのあと前後のフレーズをつなぎ、模擬試験と同じ流れの中でも変化が残るかを試します。

再び通す日は、前回の録音との違いを一つ選んで聴きます。すべてを同時に評価すると、小さな改善が見えにくくなります。前回は隠れていた旋律が聴こえるか、同じつなぎ目で拍が続くかを確かめたうえで、曲全体の方向も聴きます。繰り返し通す回数より、前の講評が演奏のどこに表れたかが大切です。

受験直前に課題が見つかった場合は、大きな指使いの変更や解釈の作り直しを急いで決めず、残りの日数で確かめられる内容を選びます。早い時期の模擬試験なら、選曲や練習の配分を見直す余地もあります。同じ一回の通しでも、受験までの時期によって、その結果の使い方が変わります。

音大受験の準備を相談する

レッスンで受験準備を相談する際は、志望校の最新の募集要項、演奏予定の曲、受験時期をお知らせください。準備中の曲を聴きながら、通しで確かめたいことと、普段の練習で扱うことを選びます。模擬試験だけで曲を仕上げようとせず、その前後のレッスンで音楽を育てていきます。

Vienna Piano Schoolでは、2026年10月から池袋・新宿のピアノスタジオで、中学生以上の方に対面レッスンを行います。通常レッスンは55分・4,800円、初回体験は55分・無料です。音大受験対策の内容と料金は、体験レッスン後にご案内します。体験レッスンのお申し込みに、受験予定と現在の曲をお書きください。18歳未満の方は保護者の同意のもと、保護者からご連絡ください。

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