音大受験の副科ピアノ:声楽・他楽器専攻のための準備
音大受験の副科ピアノは、志望校・専攻・選抜方式の課題を確かめたうえで、譜読み、両手の動き、音階、曲の演奏を並行して育てていきます。声楽や管弦楽器の経験があれば、フレーズを聴く耳や拍の感覚はすでに持っています。その音楽を、二つの譜表と鍵盤の上で表すことが準備の中心です。
最初に揃えたいのは、次の4点です。
- 受験する課程と選抜方式:同じ大学でも、副科ピアノの有無や曲目が変わります。
- その年度の課題:曲の範囲、音階、暗譜、テンポなどを、該当専攻のページで確認します。
- 現在弾ける曲と読める譜表:以前習った曲名に加え、今の演奏を聴いて出発点を決めます。
- 主専攻とピアノの練習時間:試験までの日数と、普段鍵盤に触れられる日を合わせて考えます。
大学・専攻・選抜方式の課題
「副科だからこの程度」という全国共通の基準はありません。東京音楽大学の2027年度一般選抜では、声楽芸術と弦・管・打楽器の副科ピアノに、音階と自由曲が指定されています。自由曲はソナチネ、ソナタ、バッハのインヴェンション程度の楽曲で、ソナチネ・ソナタなら任意の楽章を一つ。すべて暗譜という条件もあります。
一方、同じ大学のオルガン志願者には、音階に加えてバッハ《平均律クラヴィーア曲集》から前奏曲とフーガが指定されています。曲の難度も、必要な声部の聴き分けも変わります。先輩が受けた試験を参考にするときも、専攻と選抜方式まで揃えて読みましょう。
東京音楽大学・2027年度一般選抜。以下はいずれも暗譜。
| 志望専攻 | 音階 | 曲 |
|---|---|---|
| 声楽芸術・弦楽器・管楽器・打楽器 | 音階同じ調号の長調と短調。ハノン第39番、または大学指定譜。 | 曲ソナチネ・ソナタ・バッハのインヴェンション程度の1曲。ソナチネ・ソナタは任意の1楽章。 |
| オルガン | 音階同じ調号の長調と短調。ハノン第39番、または大学指定譜。 | 曲バッハ《平均律クラヴィーア曲集》第1巻・第2巻から任意の1曲。前奏曲とフーガ。 |
音階の音域・リズム・速度・カデンツは、選ぶ楽譜と要項の指示に従います。総合型選抜の科目は別の要項で確認します。
東京音楽大学の2027年度総合型選抜の科目表には、声楽芸術・弦・管・打楽器について、一般選抜と同じ「副科実技(ピアノ)」の項目はありません。一般選抜の課題をそのまま総合型選抜に当てはめると、準備する科目を取り違えます。選抜方法を決める際は、主専攻実技や面接、楽典・聴音なども含めて全体を比較します。
東京藝術大学の2027年度選抜要項にも、声楽や管弦打楽器などの副科ピアノが示されています。ただし、2026年9月21日時点では、副科ピアノの詳しい課題は今後の公表を待つ段階です。秋に発表される当該年度の課題で、曲目と演奏条件を確認してください。出願や他科目との時間配分は、音大受験の12か月の準備計画でも扱っています。
主専攻の経験と鍵盤の現在地
私は、声楽や他の楽器を学んできた方のピアノを聴くとき、まず本人がどんなフレーズを思い描いているかを知りたいと思います。歌えば自然に流れる旋律が、鍵盤では指を探すたびに途切れることがあります。その場合、旋律の理解を一から説明するより、音の場所と指の動きを少しずつ揃える方が、本人の持っている音楽に近づきます。
最初のレッスンでは、用意した曲のほかに、短い初見の一節、片手ずつの音階、単純な低音と旋律の組み合わせも聴きます。暗譜した一曲だけでは、譜読みの速さや低音部記号への慣れが見えにくいためです。久しぶりにピアノへ戻る方なら、かつて弾いた曲と、今初めて読む曲の両方が手がかりになります。
例えば、音符はすぐ読めるのに、両手になると左手が止まる。音名を言うのは遅いけれど、聴いた旋律なら拍を保って弾ける。この二人に同じ練習量を渡しても、解決する問題は異なります。前者は二つの動作が重なる場所、後者は譜面と鍵盤の対応に時間を使います。
弦・管楽器の運指に慣れている人も、ピアノでは親指を含む左右の5本をそれぞれ使います。椅子の距離や高さが合わず、肘を引き込んだまま弾いている場合は、運指の練習に入る前に座り方を調整します。普段の楽器で身につけた身体感覚を尊重しながら、鍵盤に必要な動きを見つけていきます。


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大譜表とヘ音記号の読み方
声楽やフルート、ヴァイオリンでト音記号に慣れていると、ピアノ譜の下段だけ急に読みにくく感じることがあります。逆に、チェロやファゴットの経験者は低音の位置に親しんでいても、上段との同時進行に戸惑うかもしれません。得意な譜表を足場にして、もう一方の音域を鍵盤上で確かめます。
中央のドは、ト音記号では五線の下の加線、ヘ音記号では五線の上の加線に書かれます。同じ鍵盤を上下から読める位置です。そこから毎回すべての音を数えるより、ヘ音記号の二つの点が挟むファ、その下のドなど、いくつかの位置を覚え、隣の音が2度進むのか、3度跳ぶのかも読み取ります。
下のクレメンティ《ソナチネ》Op.36-1では、最初の左手のドは中央のドより1オクターブ下にあります。右手の旋律を読んだあと、下段のドを同じ高さに持ってこないことが最初の確認です。次に、上下の音符の縦の位置を見ます。どの音が一緒に鳴り、どちらの手がその後動くでしょうか。
クレメンティ《ソナチネ》Op.36-1、第1楽章第1〜4小節。
譜例は横にスクロールできます。

第1〜2小節
低音のドを離したあとも、上段の旋律は続きます。
第3小節
右手の8分音符に対し、左手はドと休符を交互に置きます。
第4小節
右手が休む間も、左手の細かい動きが続きます。
譜例を言葉で確かめる
2分の2拍子、ハ長調。第1小節の右手はドの4分音符、ミ・ドの8分音符、ソ・ソの4分音符。左手は中央のドより1オクターブ下のドの4分音符、4分休符、2分休符です。第4小節の右手はレ・ド・シ・ラの8分音符、ソの4分音符、4分休符。左手は低いソの4分音符、4分休符、1オクターブ上のソからファ・ミ・レへ下りる8分音符です。
この譜例は2分の2拍子です。譜読みの段階では4分音符単位で細かく数えながら、最終的には2分音符二つの大きな拍を感じます。最初の小節では、左手は低いドを4分音符一つぶん弾いたあと休み、右手の旋律が続きます。左手の休符は、手を見失う空白ではなく、音を離して次を待つ時間です。
私はここで、両手の音を同時に「押す」場所だけでなく、片方の音が終わる場所にも耳を向けてもらいます。ピアノでは、左手のドを長く残したままでも右手の音は弾けます。しかし、それでは譜面の軽い伴奏が、長く居座る低音に変わってしまいます。音符と休符の両方を聴くことが、二段の譜面を読む練習になります。
両手の動きと音の受け渡し
片手ずつ弾けるところから両手へ進むときは、二つの動作の関係を短い範囲で確かめます。譜例の冒頭なら、まず左手のドと右手のドを合わせ、左手を離したあとも右手を続ける。一小節を終えたら、次の小節の最初まで弾きます。小節線で毎回止める癖をつけず、次の低音へ移る距離も覚えます。
第4小節では、右手が4分休符に入る間も、左手の8分音符が進みます。上段ばかり追っていると、旋律が休んだところで曲全体まで止まりがちです。左手の動きを一度声で歌い、その流れを聴きながら右手の終わりを重ねると、二つの役割がはっきりします。
両手を合わせた途端に崩れるなら、止まった直前の一音だけでなく、その音へ来るまでの指使いを見ます。右手の親指をくぐらせる場所と、左手の低音が跳ぶ場所が重なっていることもあります。片手の動きを毎回変えていると、合わせるたびに別の問題が生まれます。使う指を決め、短い範囲で試してから前後へ広げます。
旋律と伴奏の音量も、この段階から聴きます。片手だけで大きく弾けても、両手では旋律が伴奏に隠れることがあります。右手を歌いながら左手を静かに弾く練習は、声楽経験者にも楽器奏者にも使えます。その後、声を止めて同じ旋律を右手で弾き、今度は自分の歌の代わりを鍵盤に任せます。
音階・短調・カデンツ
音階の課題では、調号だけでなく、音域、指使い、音価、終わりの和音まで見ます。東京音楽大学の2027年度一般選抜の例では、同じ調号の長調と短調を選び、ハノン第39番か大学指定の音階楽譜を使います。ハノンでは4分音符=76程度以上、大学指定譜では2分音符=72程度以上と、基準になる音符が異なります。数字だけを比べて、後者の方が遅いと読むことはできません。
大学指定譜には、上行と下行の音階に続いてカデンツ、つまり終止の和音の進行が書かれています。スケールを往復して弾けたところで練習を終えると、和音へ移る部分が残ります。先に最後の低音と和音をゆっくり弾き、指の位置と響きが分かってから音階の終わりにつけてみましょう。
ハ長調のカデンツなら、低音のド・ファ・ソ・ドを先に弾き、その上に和音を重ねて響きの変化を聴きます。声楽や単旋律楽器では、普段は伴奏者が受け持つ部分です。自分で低音と和音を鳴らすと、旋律の終わりで感じていた緊張と落ち着きを、鍵盤でも確かめられます。
短調では、和声的短音階と旋律的短音階の違いを鍵盤でも聴きます。イ短調なら、和声的短音階はソをソ♯にして上り下りします。旋律的短音階は、上行でファ♯・ソ♯、下行でファ・ソに戻る形です。主専攻で吹いたり歌ったりした感覚を使い、音を口で確かめてから指に渡します。
速さを上げる前には、親指が通る場所、折り返し、左右の指替えが異なる場所を聴きます。右手だけなら均等でも、左手の指替えに合わせて右手まで強くなることがあります。その音の前後を取り出し、どちらの手の動作がアクセントを作ったのかを確かめます。指定テンポは到達条件として読み、練習の出発点は音と動きを保てる速さに置きます。
自由曲の選曲と暗譜
自由曲を選ぶときは、要項の範囲に入ることに加えて、曲全体を準備できるかを見ます。最初のページが弾きやすいソナチネでも、後半に調の変化や速い音型、左手の移動が現れることがあります。候補曲の最後まで譜面を開き、難しい部分を実際に試してから決めます。
バッハのインヴェンションなら、左右それぞれの旋律を保つ力が必要です。古典派のソナチネなら、旋律と伴奏のバランス、音型の変化、フレーズの区切りが演奏を支えます。片方を一律に「副科向けで簡単」と決めるより、今の読譜と両手の状態を聴き、どの課題なら試験までに音楽として育てられるかを選びます。
普段の楽器で歌える人ほど、ピアノでもフレーズの行き先はよく分かっていることがあります。それでも、細かい音型の直前で急に遅くなったり、和音を置くたびに流れが切れたりすると、思い描く音楽が届きません。私は選曲の段階で、その曲のいちばん美しく聴かせたいところと、いちばん準備に時間がかかりそうなところの両方を一緒に見ます。
暗譜は、音を間違えずに通せた日から急に始めるのではなく、譜読みと一緒に進めます。冒頭の調、低音の進み方、同じ旋律が戻る場所、似ているけれど終わりが違う箇所を押さえます。途中のフレーズから左手だけで弾いたり、両手の最初の和音を思い出したりすると、指の勢いに頼っている場所が分かります。
本番を想定するときは、曲の途中で小さな誤りが出ても拍とフレーズを保つ練習もします。一度通したあとに譜面へ戻り、修正する箇所を選びます。表現の掘り下げはソナチネの練習、記憶の支え方はピアノの暗譜を支える4つの記憶で詳しく扱っています。
主専攻と副科の練習配分
主専攻のレッスン、合奏、学校の課題がある中で、副科ピアノは後回しになりやすい科目です。まず一週間の予定に、鍵盤を使う時間を置きます。譜面を眺めるだけでは、両手の動きや打鍵後の音を確かめられません。自宅でピアノを使えない場合は、学校や練習室で使える曜日も準備の条件に入ります。
例えば25分取れる日なら、音階とカデンツに5分、曲の難しいつなぎ目に12分、前後を含めた演奏と聴き直しに8分を使う、という配分が考えられます。毎日同じ割合に固定せず、読譜が進んでいない週は新しい小節を読む時間を増やし、本番が近づいたら通し演奏も加えます。短い初見の曲は、受験曲より読みやすいものを選び、覚えた一曲だけに鍵盤の経験が偏らないようにします。
主専攻の本番直前など、練習時間が少ない日は、翌週に持ち越したくない一箇所を決めます。昨日決めた運指、短調の変化する音、暗譜の不安な曲の中ほど。短い時間でも対象を選べば、その日何を確かめたかが残ります。疲れて注意が途切れる時間に、速い音階を繰り返して量だけ補うことは避けます。
試験前のレッスンでは、いつも使う鍵盤以外でも演奏する機会を持ちます。アコースティックピアノでは、音を出す手応えや響きの残り方をその場で聴きます。椅子に座り、曲を思い浮かべ、最初の拍から弾き始めるところまで含めて一度経験しておくと、普段の部分練習で見落とした準備も見えてきます。
副科ピアノのレッスン相談
副科ピアノの準備は、主専攻で持っている音楽を生かしながら、鍵盤でまだ不安定なところを育てる時間です。募集要項と演奏を並べると、取り組むべきことはかなりはっきりします。音階の条件は満たしているが暗譜を支えたい人、耳はよく働くが下段の譜読みから始めたい人。それぞれの出発点に合わせて、曲と基礎の配分を決めます。
Vienna Piano Schoolでは、中学生以上の方を対象に、オンラインでピアノの受験準備を相談できます。2026年10月からは、池袋・新宿のピアノスタジオで対面レッスンも始まります。30分の無料体験レッスンでは、志望校・専攻・選抜方式、最新の課題、現在練習している曲をお知らせください。主専攻の予定も伺いながら、副科ピアノで最初に取り組む音と動きを一緒に見ていきます。
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