音大ピアノ受験の課題曲選び:併願の条件と演奏範囲を比べる
音大のピアノ受験で複数校を考えるときは、候補曲の難しさだけでなく、各校が求める演奏範囲を先に揃えて見ます。同じベートーヴェンのソナタでも、全楽章を準備する課題と、時間内で楽章を選べる課題では、これから取り組む音楽の量が変わります。
私が選曲の相談で聴きたいのは、いちばん難しい箇所と、その前後です。そこをどう乗り越えるかに加え、緩徐楽章で旋律を保てるか、終楽章まで作品の性格を弾き分けられるかも見ます。要項に合う曲の中から、受験までに演奏を深められる組み合わせを選びましょう。
- 受験区分を揃える:大学名に加え、年度・専攻・選抜方式・日程を記入する。
- 演奏範囲を比べる:曲名、楽章、全曲か抜粋か、除外作品を確認する。
- 自分の演奏時間を測る:繰り返しの扱いも含め、本番用の形で確かめる。
- 残る練習を見積もる:共通で使う曲と、学校ごとに追加する曲を分けて考える。
年度・専攻・選抜方式
比較表の見出しを「A大学」「B大学」だけにすると、別の入試の条件が混ざります。「2027年度・音楽学部・ピアノ専攻・一般選抜」のように、出願する区分まで書いてください。同じ大学にも総合型選抜、一般選抜、編入学などがあり、実技の組み方や関連科目が変わることがあります。
最初に開くのは、大学が現在公開している募集要項です。課題曲のページだけでなく、その前の試験科目と、後ろの注意事項も読みます。別のページを参照するよう指示されていたら、その参照先まで確認します。検索結果に出てきた一節だけでは、どの選抜方式の説明か見落とすことがあります。
国立音楽大学の2027年度一般選抜A日程では、ピアノの曲目について総合型選抜のページを参照する形になっています。一方、一般選抜側には面接を行わないと書かれています。曲目が共通でも、試験全体まで同じだとは読めません。比較表には出典のページ番号も残しておきます。
ここで扱うのはピアノを主専攻とする学部受験の選曲です。声楽や他楽器専攻の副科ピアノ、大学院の実技、給費生などの特別な選抜には、それぞれの課題があります。自分が申し込む欄を確定してから、手元の曲と照らし合わせます。
課題曲の比較表
一つの表にまとめるときは、学校ごとに必要な情報を同じ順序で並べます。作曲家と曲名だけでは、ソナタのどの楽章か、前奏曲とフーガの両方か、何分の枠に入れるのかが残りません。作品番号、調性、楽章まで書いた候補曲を、要項の課題区分に対応させます。
書き込み用に課題曲比較表のCSVを用意しました。表計算ソフトで開き、学校A・B・Cの欄を出願先に置き換えて使えます。全曲・抜粋、時間、暗譜、版、繰り返し、予備審査と本試験、確認した要項の場所を記入する空欄があります。
まず要項の条件を記入し、その下に自分の候補を置きます。「自由曲」という見出しだけで可とせず、対象の作曲家や時代、編曲の扱い、演奏時間まで見ます。候補曲が複数あるときは、採用する前にそれぞれを同じ条件で比べます。
次の例は、2027年度の二つの受験区分について、ソナタの扱いに絞って比較したものです。桐朋学園大学は一般選抜・1年次入学のピアノ課題Ⅰ、国立音楽大学は一般選抜A日程・対面方式のピアノの自由曲欄を取り上げています。実技全体の課題一覧ではありません。
2027年度要項からの比較例。2026年9月25日確認。
| 確認項目 | 桐朋学園大学一般選抜・1年次 ピアノ課題Ⅰのソナタ | 国立音楽大学一般選抜A日程・対面 ピアノの自由曲 |
|---|---|---|
| 選曲の範囲 | ベートーヴェンのソナタ。指定の6作品を除く。 | 指定された作曲家の作品。ベートーヴェンも含まれる。 |
| 楽章・時間 | ソナタ1曲の全楽章を準備。 | 自由曲は5〜10分程度。楽章の抜粋や複数曲の組み合わせも可。 |
| 暗譜 | 暗譜で演奏。 | 暗譜で演奏。 |
| 繰り返し・D.C. | 繰り返しは省略、D.C.は行う。 | 繰り返しは省略、D.C.は任意。 |
除外作品と比較の範囲
桐朋の課題Ⅰで除かれるソナタはOp.14-1、14-2、49-1、49-2、79、106です。演奏箇所の発表は2027年2月9日15時。準備範囲は全楽章です。
この表はソナタをどの範囲で使えるかを見るための抜粋です。バッハや練習曲など、各校の実技全体に必要な課題は要項の同じページで確認します。
たとえば、ベートーヴェンのソナタOp.10-1を学んでいる場合を考えます。桐朋の課題Ⅰに備えるなら、作品全体を練習計画に入れます。国立の自由曲候補としては、その中の楽章を時間条件と照らして検討できます。同じ楽譜を使っていても、「すでに一つの楽章を弾いた」ことと「この課題の準備が進んでいる」ことを、表の上で分けて見られます。


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全楽章と抜粋の準備
全楽章の指定があるときは、得意な第1楽章だけを中心に予定を立てないようにします。緩徐楽章には遅いテンポで旋律を支える耳が要り、終楽章には、前の楽章と異なるリズムや身軽さが求められます。速い音符の数だけでは、仕上げに必要な時間を比べられません。
私は、まだ十分に弾いていない楽章を早めに聴きます。緩徐楽章で伴奏が一音ずつ重くなり、旋律の長い線が切れているなら、そこは選曲段階から育てたい部分です。旋律とバスでフレーズを弾き、その動きを保って内声を加える練習には、楽譜を覚える作業とは別の時間が必要です。
Op.10-1なら、第1楽章の切り立った身振りから第2楽章の歌へ、そして終楽章の短い動機のやり取りへと、聴き方を変えます。全曲を用意する意味は、三つの楽章の音を順に覚えることだけではありません。休止の取り方や音の長さも含め、作品の中にある対照を演奏に出していきます。
抜粋できる課題では、その楽章を一つの演奏として届ける準備をします。前の楽章を弾かずに始めても、冒頭からテンポと響きの性格が伝わるか。終わりの和音まで集中が続くか。全曲の途中として慣れた箇所を、単独で弾くと印象が変わることがあります。
また、大学が当日に演奏を止める場合と、受験者が最初から途中を省いてよい場合は、別の条件です。桐朋の課題Ⅰのソナタは全楽章が準備範囲で、演奏箇所は指定日に発表されます。発表後に弾かれる部分だけを初めて学ぶ計画では、作品全体への準備が遅れます。
演奏時間と曲順
時間の条件は、自分が本番で弾く形で測ります。市販録音の長さには、その演奏家のテンポや繰り返しが含まれています。候補を探す目安にはなっても、自分の申告時間の代わりにはなりません。繰り返しやD.C.を要項に合わせ、最後の響きまで弾いて確かめます。
時間が長すぎたとき、最初にテンポを速めて枠に押し込むのは勧めません。歌の息が短くなったり、和声の変化を聴く間がなくなったりすると、その曲を選んだ良さが失われます。楽章の選択が認められているなら別の組み合わせを考え、全曲指定なら曲そのものの選び直しを検討します。
反対に、最低時間に足りないからと間を長く取っても、音楽の内容は増えません。複数曲が認められる枠では、すでに勉強している短い作品を加える方法があります。ただし、追加する曲にも暗譜、開始音、終止までの準備が生じます。分数だけを埋める選曲にはしないことです。
自由に曲順を決められる場合は、並べて一度弾いてみます。鋭い打鍵の多い練習曲の直後に静かな作品を置くと、最初の弱音に前の曲の勢いが残ることがあります。次の曲の冒頭を内側で聴く短い間を取り、その曲の響きに入ります。曲順が指定されていれば、その順序でこの切り替えを練習します。
表には規定の時間と実測した時間を別々に記入します。レッスンでテンポや曲の組み合わせが変わったら、演奏を測り直します。上限ぎりぎりの予定なら、演奏による揺れも含めて先生と確認し、時間超過を前提にしたプログラムを出さないようにします。
自分の音楽が伝わる曲
条件を満たす候補が並んだら、それぞれで何を聴いてもらえるかを考えます。音階や跳躍が鮮やかな曲、和音の中から旋律を歌わせる曲、複数の声部を追う曲では、演奏者の違う面が表れます。難曲を重ねることと、演奏の幅を示すことは同じではありません。
ショパンの練習曲を選ぶ場面でも、速く弾けるかだけでは決めません。伴奏が旋律を覆っていないか、和声が変わるところで音色が変わるか、終わりまで拍の感覚が保たれるかを聴きます。苦手な音型を克服するために学ぶ曲と、近い受験で自分の演奏を示す曲では、選ぶ理由が変わります。
バッハなら、声部が増えたときに最初の主題を追えるか、左手に来た動きが急に弱くならないかを見ます。長い曲へ進む前に、現在の曲で内声を聴く力がどこまで育っているかを確かめます。曲の外見上の規模より、その音楽を耳で支えていることが大切です。
一方、本人が強く惹かれる作品には、繰り返し聴き直す力があります。憧れの曲が候補にあるなら、好きなところを実際に弾いてみてください。旋律の息や和音の色をすでに想像できている部分と、指の動きに追われる部分の差が分かります。その差を受験までに埋める見通しを、残りの課題曲と一緒に考えます。
複数校で共通に使える曲が多いと、同じ作品を深く掘り下げる時間を持てます。ただ、共通性だけを優先すると、どの学校にも形式上は合うけれど、自分の良さが聴こえにくい組み合わせになることもあります。共通の柱を決めたうえで、一校のために別の作品を用意する価値があるかを聴いて判断します。
版・暗譜・曲目の申告
版や編曲に指定がある課題では、実際に使う楽譜を手元に置いて確認します。出版社名だけでなく、校訂者、編曲者、作品番号を見ます。同じ題名の易しい編曲を、原曲の課題として選んでしまうと、準備の出発点が変わってしまいます。
版の指定がない場合でも、先生と小節番号や音の違いを共有しておくと、レッスン中に同じ場所を見られます。原典版の考え方や校訂者の書き込みについては、ピアノ楽譜の版を選ぶときの基本で扱っています。入試の指定と、学習に使いやすい版の選択を、それぞれ確かめます。
暗譜の指定は、曲全体に対して準備します。ある楽章だけ楽譜なしで弾けても、全楽章の課題なら残りの楽章にも時間を配ります。特に似た主題が別の調で戻る場所では、前と同じ指の動きに流れないよう、バスと和声の違いを聴きます。途中から弾く練習にも、その前後の音楽を含めてください。
曲目票には、作品番号と楽章が実際の演奏と一致するように書きます。「ソナタ第1番」のように番号だけを書くと、作曲家や曲集によって別の作品を指すことがあります。要項や所定用紙の書式に従い、楽譜の表題と照合します。提出後の変更を考えるときは、変更の可否と期限を先に確認します。
読み方が決まらない条件は、該当箇所と候補曲を添えて大学に質問します。たとえば「この編曲者による版は対象に含まれるか」「この楽章の選択でよいか」と、判断してもらう点を絞ります。回答は比較表の同じ欄に残し、先生とも共有します。
併願の練習配分
共通曲が決まったら、各校にだけ必要な曲を加え、まだ学んでいない部分を見ます。曲数が一つ増えるだけでも、長いソナタを全楽章学ぶ場合と、以前弾いた短い作品を戻す場合では負担が違います。譜読み、音作り、暗譜、人前での演奏を、それぞれどこまで進めるかで見積もります。
私は、新しい曲ばかりを同時に増やすより、プログラムの中心となる作品を早く持ちたいと考えます。その曲で長いフレーズや声部の聴き方を育てながら、残りの曲を加えます。先に仕上げた曲も、難所だけを弾いて維持するのではなく、時々全体を聴き直して解釈を更新します。
学校ごとに曲順や演奏範囲が違うなら、それぞれの形で通す日を設けます。ある学校ではソナタ全曲、別の学校では一つの楽章を単独で弾く場合、出だしに必要な集中が違います。前日の曲順を思い出しながら弾く状態から離れ、その日に出す音楽を最初から聴きます。
予備審査の動画と本試験がある出願先では、二つの欄を作ります。動画で提出する範囲が短くても、本試験用の課題を並行して準備します。撮影が終わった時点で未着手の楽章がいくつ残るのかを見れば、出願先を増やす前に練習量を判断できます。
ソルフェージュや学科試験も含めた全体の時期は、音大受験の12か月の準備計画と合わせて考えてください。この選曲表では、今ある曲をどの課題に使い、何を追加するかを決めます。練習時間の多くを、実際に音を聴いて直すことに残したいところです。
課題曲をレッスンで相談する
相談には、出願先の最新要項と、候補曲の楽譜を持ってきてください。すでに弾いた曲と、これから学ぶ曲を一緒に見ながら、課題への適合、演奏の持ち味、残りの準備を考えます。私は演奏を聴き、たとえば旋律が伴奏に隠れる箇所や、テンポが変わる移行部から、次に取り組む練習を提案します。
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