暗譜が本番で飛ばないための4つの記憶

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

ピアノの暗譜を指の動きだけに任せず、耳、楽譜、曲の構造と結び付ける練習法。シューマンの実際の楽譜と出発点の図を使い、似た箇所の覚え分け、音を出さずに思い出す練習、止まった後の戻り方を確かめます。

暗譜で本番を迎えるときは、最初から通せるかに加えて、途中の区切りから、音を思い浮かべて弾き始められるかを確かめておきます。指の動きだけに任せず、耳で覚えた音、楽譜の目印、曲の構造、身体の動きを結び付けると、思い出すための手がかりを増やせます。

この4つは練習を考えるための見方で、脳の働きをきれいに4分割する分類ではありません。どんな準備も記憶の抜けを完全には防げませんが、「止まったら最初に戻る」以外の道は、普段の練習で用意できます。すでに楽譜を見てある程度弾ける曲を使い、短い範囲から試してみましょう。

鍵盤を横から見た、ピアノを弾く手元

手が覚えた流れに、音や楽譜からの手がかりを重ねていきます(参考写真)。

暗譜を「途中から始める力」で確かめる

曲の冒頭からは弾けても、先生に「その少し先から」と言われると出られない。そんな場合は、前の動きに次の動きが続く形で覚えていて、途中の音を取り出す準備がまだ十分でないのかもしれません。

まず、フレーズの始まりを1か所選びます。楽譜を閉じ、手を膝に置いて、そこからの旋律と左手の最初の音を思い浮かべます。それから鍵盤に手を運び、落ち着いた速さで短く弾いてみます。直前の小節を頭の中で何度も巻き戻さないと出られないなら、その場所を練習の対象にします。

下の図は、同じ出発点に4方向から近づくためのものです。得意な覚え方を捨てる必要はありません。いつも使う手がかりに、もう1つ確かめられることを加えます。

1つの出発点、4つの手がかり
01

続きの音を思い浮かべる

02

楽譜

違いのある記号を見つける

同じ出発点
03

構造

曲のどこかを確かめる

04

動き

使う指と移動を確かめる

例:「右手の5の指」+「高い音から下がる旋律」。1つの覚え方に、別の確かめ方を重ねます。

例えば「右手の5の指から」という情報だけでなく、「高い音から旋律が下がる」「ここから音を収める」と分かれば、出発点に音楽の意味が生まれます。すべての小節を同じ細かさで言葉にする必要はありません。

耳の記憶:弾く前に、続きを聴く

耳で覚えるとは、録音を聴いたことがある状態から、次の音の動きを自分で思い浮かべられる状態へ進むことです。短いフレーズを弾いたら手を離し、もう1度その旋律を小さく歌うか、頭の中でたどってみます。

歌の上手さを試す練習ではありません。正確な高さで歌いにくければ、上がる、下がる、同じ音を保つという動きとリズムから確認します。ただし、その輪郭だけで音が全部合っていると判断せず、最後に楽譜と鍵盤で確かめます。

旋律が分かってきたら、左手の低い音だけを拾って弾き、次はそれを思い浮かべます。右手の続きを覚えているのに左手が止まる場合、両手で何度も通す前に、低音の道筋を別に取り出すと、曖昧な場所を見つけやすくなります。

止まる直前までしか音が浮かばないなら、そこで答えを確認します。分からないまま想像を続けず、楽譜を開いて短く弾き、閉じて思い出す、という往復に戻りましょう。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

クラシックピアノ個人レッスン

弾きたい音楽を中心に、一人ひとりに合わせたレッスン。

初心者から上級者まで。オンラインで国内外から受講できます。

ウィーン育ちのコンサートピアニスト、Enea。

Enea

ウィーン育ちのコンサートピアニスト

無料体験レッスンを申し込む

体験30分 · 新宿の対面レッスンは2026年10月から

楽譜の記憶:似た場所の違いを残す

楽譜を写真のように丸ごと思い出せなくても、目印は使えます。臨時記号、休符、声部が増える場所、フレーズの終わりなど、音の違いと結び付くものを選びます。「ページの右下」という位置だけでなく、「同じ旋律に戻るが、終わり方が変わる」と覚えるのが役立ちます。

シューマン《ユーゲントアルバム》Op.68の第1曲「メロディー」で見てみましょう。下は19世紀の楽譜を切り出したものです。冒頭の4小節と最後の4小節には、似た下降する旋律が現れます。しかし、第4小節にはファのシャープと反復記号があり、第20小節の旋律や曲の閉じ方とは異なります。

似た出だしでも、行き先は違う

シューマン「メロディー」Op.68-1。画像を押すと拡大できます。

冒頭 · 第1〜4小節

シューマン「メロディー」第1〜4小節。下降する旋律から始まり、第4小節に臨時記号と反復記号がある

第4小節:ファ♯のある和音を経てソへ。反復記号から冒頭へ戻ります。

最後 · 第17〜20小節

同曲の第17〜20小節。冒頭に似た旋律が戻り、異なる終わり方で曲を閉じる

第20小節:旋律も伴奏も冒頭の終わり方と異なり、曲を閉じます。

似た旋律終わりの音と低音を確認それぞれの続きへ
全ページと、楽譜の読み取りを見る

冒頭は4分の4拍子で、調号はありません。第1小節の右手はミ、レ、ド、シと4分音符で下がり、左手は8分音符の伴奏を続けます。第4小節の右手はシ、ファ♯とラの和音、ソ、4分休符で、その後に反復記号があります。第20小節では右手がレ、ファ、シ、レと8分音符で進み、ドの4分音符と4分休符で終わります。ここでは似た始まりと異なる終わりを比較しています。

第17小節からの切り出しには、段の途中なので音部記号が含まれません。全体の記号、運指、スラーは下の原譜で確認できます。小節番号は反復を数え直さず、書かれた順に数えています。

印刷ページ3の全曲スキャンを開く(新しいタブ)

楽譜を見ながら、まず2つの終わり方を聴き比べます。次に楽譜を閉じ、「最初のまとまりは繰り返しへ」「最後は曲を閉じる」と言って、それぞれの終わりを思い浮かべてみます。同じ出だしにつられて別の続きへ入る癖があるときは、共通する部分より、分かれる直前とその先を確かめます。

自分の曲でも、似ている2か所を並べ、違う音や低音を鉛筆で印します。手元の版では運指や段の割り方が異なる場合があるので、場所はページ位置より小節番号で共有すると確実です。書き込みは、次に見たとき何を思い出したいかが分かる量にとどめます。楽譜を閉じた後、白紙に区切りの名前だけを書いてみるのも1つの方法です。音符を全部書き写す必要はなく、どこで何が変わるかを自分の言葉で確認します。

構造の記憶:曲の中に出発点を置く

曲の構造を覚える練習では、和声や形式の名前を全部言える必要はありません。「最初の旋律」「違う音域へ動くところ」「旋律が戻るところ」のように、聴いて確かめられる区切りから始めます。和音が分かるなら、低音や和声が変わる場所も目印にできます。

「メロディー」なら、まず冒頭、中ほど、最後のまとまりから1か所ずつ選べます。下の道順では第1、第5、第17小節を出発点にしています。これは全曲の形式分析ではなく、途中から取り出す練習のために選んだ3地点です。間の小節を省いて演奏する指示でもありません。

冒頭以外にも、出発点を作る

A、B、Cは練習用の目印です。全曲の演奏では、間の小節と反復も弾きます。

  1. A第1小節

    最初の旋律

  2. B第5小節

    次のまとまり

    Cまでは第9〜16小節も通ります

  3. C第17小節

    最後のまとまり

取り出す練習: C → A → Bの順で、毎回手を離してから始めてみます。

A第1小節から何を確かめる?

右手の下降する旋律を思い浮かべ、左手の出だしも確かめます。第4小節の終わりまでを1つの範囲にします。

B第5小節から何を確かめる?

冒頭の反復を終えた後の場所です。右手の新しいフレーズとその切れ目、左手の動きを楽譜で確かめてから、ここだけで出てみます。

C第17小節から何を確かめる?

冒頭に似た旋律が戻ります。第4小節の終わり方に戻らず、第20小節で曲を閉じる音を思い浮かべます。

自分の楽譜にA、B、Cと書き、各地点について、最初の旋律、低音、そこから向かう区切りを確かめます。Aから順に弾く日だけでなく、C、A、Bの順でも出てみましょう。始める前に前の部分を弾かず、その地点から次のフレーズまでつなげます。

出発点を増やしすぎると、覚える目印ばかり多くなります。最初は3か所ほどで十分です。滑らかに出られるようになったら、迷いやすい似た箇所や長い部分の中にも足していきます。

熟練ピアニスト1人の練習を追った研究でも、曲の構造や演奏中の手がかりが記憶の取り出しと関係する様子が調べられています。ただし、特定の奏者と曲を扱った事例です。ここで紹介する3地点の練習や4つの見方の効果を、その研究がすべての学習者に保証しているわけではありません。

動きの記憶:同じ指から、同じ音楽へ入る

運指や手の移動がなじむことも、暗譜の大切な支えです。弾くたびに迷って指を替えている場所があれば、まず楽譜を見て使う指と移動を確かめます。理由があって運指を変えたときは、その1音だけでなく、前後のつながりもゆっくり試します。

途中から始めるときには、最初の鍵盤に触れられるだけでは足りません。その指から次の数音へ進めるか、左手も同時に準備できるかを見ます。速く通すと偶然うまくいく場所でも、いったん手を離して置き直すと、入り方の曖昧さに気付くことがあります。

一方で、本番中に全指の番号を逐一読み上げるように考える必要はありません。練習では細部を確認し、通すときは旋律の行き先や出発点など、使いやすい少数の手がかりに戻します。動きの確認が目的になり、聴きたいフレーズを忘れないようにしましょう。

鍵盤の奥に手を置き、ピアノの前で休止している人

鍵盤を弾く時間と、音を出さずに確かめる時間を分けてみます(参考写真)。

音を出さずに思い出し、戻る練習をする

静かな確認では、曲全体を頭の中で再生しようとせず、決めた出発点から短くたどります。楽譜を閉じ、旋律、低音、次の区切りを思い浮かべてから弾き、合っていたか確認します。最初に読んだ直後だけでなく、別の部分を練習した後や翌日にも、同じ場所から試します。

1回で思い出せなかったことを、暗譜に向いていない証拠にしないでください。「旋律は分かるが低音が出ない」「音は分かるが指が定まらない」と、足りない手がかりを具体的にすると、次の練習を選べます。繰り返し方全般は、ピアノ練習で見直したい習慣も参考になります。

戻る練習では、普段の練習中に区切りで意図的に止まり、手を離します。次に、用意した出発点を1つ選び、最初の音と拍を思い出して弾き直します。間違えた音を探して行き来し続ける代わりに、どこへ戻れば続けられるかを試す練習です。

聴き手のいる試演でも、止まった後に続ける経験を少しずつ作ります。演奏後は「飛んだかどうか」だけでなく、戻る場所を選べたか、選んだ後に音が浮かんだかを振り返ります。人前での準備は、本番で手が震えるときの練習と対処で扱っています。

楽譜を使える本番なら、譜面を置く選択もあります。譜面を使う場合にも、目を上げた後にどこを見るか、ページをめくった先から出られるかを練習しておきます。暗譜にするかを含む発表会全体の段取りは、大人の初めての発表会の準備で確認できます。

今日の練習では、1つの出発点を作る

今日は、いつも冒頭に戻ってしまう場所を1か所選んでみてください。旋律を思い浮かべ、楽譜の目印と低音を確認し、使う指を決めてから短く弾きます。少し時間を置いて同じ地点から出られるかを試せば、通した回数とは違う形で準備を確かめられます。

どの手がかりを選べばよいか迷うときは、今弾いている曲の短い箇所をレッスンで一緒に確認できます。現在はオンラインで受講でき、東京・新宿での対面レッスンは2026年10月からの予定です。30分の無料体験レッスンでは、暗譜で困る場所や本番の予定をお知らせください。

この記事をシェア

関連記事