ブルグミュラー《素直な心》Op.100-1の練習:レガート・強弱・左手のバランス
ブルグミュラー《素直な心》Op.100-1は、音を覚えてからが面白い曲です。冒頭の流れる旋律、途中から動き始める左手、長い音の下で揺れる内声、最後に低音へ渡される小さな音形。これらを同じ強さで弾くと、滑らかでも表情の少ない演奏になります。
練習では、右手のレガートだけでなく、いま動いている声部と、響きを支える声部を聴き分けることが大切です。私はこの曲で、最初の数小節を弾いたあとに第10小節も聴かせてもらいます。冒頭では旋律を支えていた左手が、そこでどんな流れを作るか。曲全体の音楽を考える入り口になります。
この記事では《素直な心》の全体を、譜例とともに見ていきます。小節番号は、繰り返しを数えず、1番括弧と2番括弧をそれぞれ一つの小節として数えています。
23小節の中で、耳を向ける場所が変わる
- 小節1〜8
右手の歌と、保つ和音
レガート、左手とのバランス、休符までのフレーズ。
- 小節9〜12
左手にも流れが生まれる
右手の長い音の下で、左手の八分音符を聴く。
- 小節13〜17
響きの変化と山場
長い音と内声、sfからpへの表情、繰り返しの分岐。
- 小節18〜23
響きを収める終わり
ラ♭の色、低音への受け渡し、最後のpp。
第1〜8小節を繰り返したあと、第9小節へ。第16小節が1番括弧、第17小節が2番括弧です。
冒頭の旋律と左手の和音
第1小節の右手は、ソ・ミ・レ・ドという四つの八分音符を二度弾きます。短い音形が二つ並び、それぞれにスラーがかかっています。まず右手だけで、最初のソから最後のドまでを一つの小さな歌として弾いてみます。
ソは小指、ミは中指です。小指だからと勢いを付けすぎると、最初のソだけが硬く飛び出します。一方、最後のドを親指で強く押すと、下がる音形がそこで急に止まって聞こえます。四つの音をゆっくり弾き、始まりから終わりまでの音量の移り方を聴きます。
《素直な心》第1〜4小節。ハ長調、4分の4拍子。上段はト音記号、下段はヘ音記号。
第1〜2小節:p、dolceの歌い出し
譜例は横にスクロールできます。

第3〜4小節:左手はタイで続く
譜例は横にスクロールできます。

第4小節の頭でも、左手の響きはそのまま。右手の旋律だけが次の小節へ進みます。
左手はド・ミ・ソの和音を全音符で保ちます。弾く回数は少なくても、右手と同じ強さで入ると、冒頭の歌を覆ってしまいます。左手の和音を鳴らし、その響きが残る中で右手の旋律が聞こえる音量を探してください。
pは弱く、dolceは柔らかく甘い表情を求める言葉です。私はここで、単に音を小さくするより、最初のソに歌い出す気配があるかを聴きます。左手を静かに置き、右手の線がその上を進むと、弱い音でも表情が生まれます。
第2小節では、右手が高いドからラ・ソ・ファへ下がります。音域が上がることで響きも明るく変わり、この版では最初の音形にディミヌエンドが付いています。第1小節と第2小節を交互に弾き、高さの変化と、下がるにつれて収まる音を聴き比べます。
レガートと指の交替
第3小節では、ソ・ミ・レ・ドと下がったあと、シ・ド・ミ・ファへ進みます。掲載譜では、シ・ド・ミに2・1・3の指番号があります。親指のドを通過して中指のミへ移るところで、旋律が切れたり、ドだけが強くなったりしやすい場所です。
最初はシ・ド・ミの三音を弾き、次にその前のドと後ろのファを加えます。指の交替だけを繰り返すより、そこへ入って出ていく動きまで含めて練習します。音が切れるなら、どの鍵盤をいつ離しているかを確かめます。音が濁るなら、前の指が次の音のあとまで残りすぎていないかを聴きます。
第3〜4小節の左手にはタイがあり、和音が小節線をまたいで続きます。第4小節の頭で弾き直すと、右手の歌の途中に余分なアクセントが入ります。左手の響きを保ちながら、右手だけが次の小節へ進む感覚を味わってください。
この区間をペダルなしで弾くと、指で保てている音と、途中で離している音がよく分かります。ペダルを使う場合も、指の交替が聞こえないほど響きを重ねるのではなく、和音の変化と旋律の輪郭を聴いて調整します。運指そのものが合わない場合は、フレーズと手の移動から指使いを選ぶ方法も参考にしてください。


第5〜8小節のふくらみ
第5小節からはクレッシェンドが現れます。少しずつ音楽を前へ進めたいところですが、右手の音数はそれまでと同じです。音量を増やすつもりでテンポまで速めると、八分音符が詰まり、フレーズが落ち着かなくなります。
まず左手の和音と右手の各小節の最初の音を弾き、和声の移り変わりを聴きます。それから右手の八分音符を戻し、同じ拍の幅の中で響きを育てます。第7小節では左手にファ♯が現れ、次のソの響きへ向かう力が強くなります。
第8小節の右手は、ソ・シ・ド・レの八分音符から高いソの四分音符へ進み、最後の1拍が休符です。左手も最後の1拍を休みます。高いソを弾いた瞬間で練習を止めず、両手が音を離すところまで聴いてください。その静けさが、繰り返しの冒頭を新しく聞かせます。
八分音符の速さは、第7小節の音の並びと第8小節の休符まで保てるところから選びます。冒頭だけを速く弾けても、この着地で拍が伸びるなら、全体のテンポを少し落としてフレーズを整えます。
第9〜12小節の左手
第9小節からは、左手も八分音符で動き始めます。右手はファ・レ・ド・シと下がり、左手はソ・シ・ド・レと上がる。両手が反対の方向へ進むので、片手の指の動きをもう片方へ写そうとすると混乱します。各手の出発点と音の向きを先に読みます。
第9〜10小節。上段はト音記号、下段はヘ音記号、4分の4拍子。
譜例は横にスクロールできます。

右手を保っている間も、左手の線は進みます。両手の役割が冒頭から変わったことを聴きます。
第10小節では、右手のドとミが全音符になり、左手がソ・ラ・シ・ド・レ・ド・ミ・ドと動きます。右手の音を保つ間にも、音楽は左手で進んでいます。ここで左手をいつまでも冒頭と同じ「目立たせない伴奏」と考えていると、動きが聞こえなくなります。
左手だけで第9〜10小節を弾き、第10小節の上がる流れを歌ってみます。そのあと右手を加え、長いドとミの響きの下で左手が聞こえるかを確かめます。右手を押し込み続けるより、音を鳴らしたあと鍵盤を保ち、左手の音の移り変わりへ耳を向けます。
第11〜12小節には、同じ組み合わせが戻ります。クレッシェンドも加わり、その先の第13小節へ向かって緊張が高まります。同じ音形を二度弾く部分でも、行き先を含めて聴くと、単純な繰り返しから長いフレーズへ変わります。
第13小節の長い音と内声
第13小節では、右手の書かれ方が変わります。上にはソ、続いてファ♯の二分音符。その下で、八分休符のあとにミ♭・レ・ドが動きます。一つの手で、保つ音と動く音を弾き分ける小さな二声です。
上段はト音記号、下段はヘ音記号、4分の4拍子。上向きの符尾と下向きの符尾を見分けます。
第13小節を大きく表示上のソとファ♯は、それぞれ2拍。内声のミ♭・レ・ドが入っても、その長い音を保ちます。
最初は上のソとファ♯だけを、二拍ずつ保って弾きます。次に内側のミ♭・レ・ドだけを、休符も含めて弾きます。合わせるときは、上の音が途中で消えず、その下に短い音が入るように聴きます。長い音を保つために、内声まで強く弾いてしまうと、二つの線の違いが薄れます。
ソからファ♯への半音の動きと、内声のミ♭が、この小節の響きを変えています。臨時記号を覚えるだけで終えず、左手の音も加え、冒頭のハ長調とは違う緊張を感じてみてください。同じ手の中での音量の整理は、和音に埋もれるメロディーを弾き分ける練習でも扱っています。
第14小節のsfを一つの山場として聴くと、そこへ向かう第12〜13小節と、第15小節のp、dolce e poco rit.の表情がつかめます。sfの音を強調したあとも、その強さを引きずらず、柔らかい歌い方へ戻します。poco rit.は少しずつ速さをゆるめる指示で、直前から急停止するように遅くする必要はありません。
繰り返しと終わりへの道筋
1番括弧の第16小節を弾いたら、第9小節へ戻ります。二度目は第16小節を飛ばして2番括弧の第17小節へ進み、その先へ続きます。第15小節から「どちらの続きに入るか」をそれぞれ弾いてみると、通したときにも旋律の行き先を聴けます。
第17小節からは、ド付近から上がる音形と、ファから下がる音形が交互に現れます。第18・20小節では、左手の和音にラ♭が入り、響きが少し陰ります。明るい和音とこの和音を並べて弾き、その色の変化を右手のフレーズにも映します。
この部分で何度も出てくるディミヌエンドは、音を弱くする方向を示しています。ひとまとまりが終わるたびに手も耳も止めてしまわず、次の音形がどの響きで始まるかを聴きます。最後へ向かう長い流れの中に、短いふくらみと収まりがあります。
第21〜23小節の静かな終わり
第21小節では、右手のドと左手の和音を弾いたあとに休みが入り、後半から左手がド・ミ・ファ・ソと上がります。それまで右手に多かった細かい動きが、低い音域へ渡されます。最後まで右手だけを追っていると、この小さな受け渡しを聴き逃します。
第21〜23小節。上段はト音記号。下段はト音記号で始まり、第21小節の後半でヘ音記号へ変わります。
譜例は横にスクロールできます。

右手が休む間も、左手で音楽が続きます。最後のタイのソを打ち直さず、残る響きを聴きます。
第22小節の右手は二分音符の和音を弾き、そのあとは休符です。左手は低いドを二拍保ち、後半でもう一度ド・ミ・ファ・ソと上がります。最後のソは次の小節へタイで続くので、終わりの和音で同じソを打ち直しません。
dim. e poco rit.に沿って音量と速さを少しずつ収め、最後はppへ進みます。小さくしようとして途中の音が抜ける場合は、音量をいったん戻し、すべての音が聞こえる速さで弾きます。そのあと、低音から次の音へ向かう流れを保ちながら、響きを薄くしていきます。
私は最後の和音に着いたあとも、少し耳を残してほしいと思います。手を早く離して終わりを告げるより、残っている響きがどう消えるかを聴く。この曲で練習してきた弱い音の質が、最後の数秒にも表れます。
一曲として仕上げる練習
通して弾く前には、役割が変わるところをつなげます。第8小節の休符から第9小節、第12小節から第13小節、第20小節から左手が歌い始める第21小節へ。各区間の最初だけを練習するより、前の音楽が次へ変わる瞬間を聴きます。
短く録音するなら、音の間違いに加えて、冒頭の旋律、第10小節の左手、第13小節の長い音、終わりの低音が、それぞれ聞こえるかを確かめてみてください。どこも同じ音量に聞こえる場合は、強弱記号を大げさに増やす前に、耳を向ける声部を替えます。
《素直な心》を仕上げることは、八分音符を速く均等に並べることだけではありません。保つ音を保ち、休符で離し、動きのある声部を歌わせる。その違いを一曲の中で経験できるところに、この最初の練習曲の豊かさがあります。
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