ツェルニー30番は何のため?第1番の譜例と曲に生かす練習

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

ツェルニー30番の目的を、第1番の実際の楽譜で解説。三連符の均等さ、指使い、左右のバランス、保続音を聴き分け、モーツァルトK.545の音階へ応用する練習を紹介します。番号を進める前に、今の曲の課題から教材を選びます。

ツェルニー30番を毎日弾いているのに、取り組んでいる曲では同じ場所につまずく。そんなときは、練習曲で何を聴いているかを見直してみます。「今日は第何番まで進んだか」に加えて、「指が替わっても拍を保てたか」「伴奏の上に旋律が聞こえたか」という問いを持つと、教材の使い方が変わります。

私がレッスンでツェルニーを取り上げるときは、先に今の曲の一節を聴きたいと思います。そこで起きていることを、繰り返しの多い音型の中で確かめる。そのあと曲へ戻り、同じ問題がどう聞こえるかを試します。練習曲と作品を行き来するところに、30番を使う大きな意味があります。

  • 第1番の三連符で、拍の長さと指ごとの音の出方を聴く。
  • 右手の細かい動きと、左手の拍・和声を合わせる。
  • 保続音では、伸ばす音と動く音を別々に追う。
  • 練習した課題を、取り組んでいる作品の短い一節で試す。
木目のあるピアノと斜めに並ぶ白鍵・黒鍵

ツェルニー30番の目的

日本で「ツェルニー30番」と呼ばれる曲集は、作品849の30曲の練習曲です。「30番」という一曲の名前ではなく、曲集全体を指します。楽譜の表紙や商品名を確かめるときは、Op.849という作品番号が目印になります。

同じ型が何度も現れるため、読む音の情報をある程度絞って、弾き方と響きに注意を向けられます。音階のように進む箇所、分散和音、左右の受け渡しなど、取り上げる課題は曲ごとに変わります。一冊の最初から最後までを、同じ「指を速く動かす練習」と考えると、その違いを聴き逃します。

均等さにも、音の間隔がそろうことと、音量の突出がないことの二つがあります。三連符の間隔が整っていても、親指の音だけ毎回飛び出せば、フレーズの途中に意図しないアクセントが並びます。反対に、すべてを同じ強さにして拍や和声の方向まで平らにすると、音楽のまとまりが消えます。

一曲を始める前に、楽譜を少し先まで眺めてみてください。似た形が続く中で、どこから左手の弾き方が変わるか、どこに長い音が重なるか。私はこうした変化を、練習の目的を選ぶ手がかりにします。

教材を選ぶ際は、短い範囲の音を読み、指定した指で弾きながら響きにも注意を向けられるかを見ます。譜読みだけで毎回止まる場合は、先に音域やリズムを整理します。読めるようになった範囲で、初めて音の粒や左右の関係を落ち着いて比べられます。

第1番の三連符

第1番の冒頭は、右手が「ソ・ド・レ、ミ・レ・ド」と進み、同じ形を繰り返します。下の譜例では四分音符一拍に三連符の八分音符が三つ入り、左手の動く音は四分音符で進みます。右手の三音と左手の一音の関係を聴ける、よい出発点です。

ツェルニー作品849第1番の冒頭、右手の三連符と左手の四分音符

冒頭の楽譜を拡大する

まず右手だけで、最初の六音をゆっくり弾いてみます。ソからドへ下がるところで間が空くのか、ミからレ・ドへ戻るところで急ぐのか。六音の終わりまで聴くと、「そろわない」という印象を、直したい一か所へ絞れます。

次に左手を加えます。左手の拍が進んでいる間に、右手の三音が収まるかを聴いてください。三連符を三つずつ大きく区切って毎回止まると、短い断片が並んで聞こえます。拍の位置を感じながら、その先へ音の線を運びます。

数えるなら、一拍の中を「ひ・と・つ」のような三つの等しい音節で確かめ、慣れたら四分音符の拍へ戻します。細かい数え方は、音が詰まる場所を見つけるための道具です。通して弾くときには、細分した音と大きな拍の両方を感じたいところです。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

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ウィーン育ちのコンサートピアニスト、Enea。

Enea

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指使いと音の粒

掲載譜の冒頭には、右手のソに5、ドに1、ミに3という指番号があります。ここはドからソの範囲に手を置いた音型です。最初のソからドへ音程が下がっても、それだけで手全体を大きく移動させる箇所ではありません。使う鍵盤の位置を先に確かめ、親指のドを急に押し込まないように聴きます。

私は音が一つ飛び出したとき、「弱く」とだけ言って繰り返すより、その前後の三音を弾いてもらうことがあります。たとえばソ・ド・レなら、ドに入る前に手が傾いていないか、ドを弾いたあとレへ移るまでに止まっていないか。その音が出るまでの流れを見ます。

指番号は、まとまりの途中で毎回迷わないように決めておきます。使っている版や手の大きさによって相談が必要な箇所はありますが、一回ごとに無意識に指が替わる状態では、同じ動きを比較できません。変更するなら楽譜へ書き込み、その運指で前後も弾いて確かめます。

練習の一時的な方法として、三音の最初に軽く重みを置き、拍の位置を確認することもできます。最後にはその強調を外し、長いフレーズの中で聴き直します。練習用に付けたアクセントが、そのまま演奏の癖として残っていないかを見るためです。

ここで「指を独立させる」を、使わない指を高く固めて持ち上げることだと捉えると、手全体が硬くなりがちです。鍵盤の近くで次の音へ移り、腕や手首の動きも含めて響きを整えます。痛みが出たら練習を止め、その動きを先生と見直してください。

左右のバランスと保続音

両手を合わせると、右手がそろっていても左手の一音ごとに音楽が重くなることがあります。冒頭なら、まず左手の四分音符だけを弾き、低い音から上の音へ進む形を聴きます。右手を戻したときにも、その拍と和声は残しつつ、三連符の流れが前に聞こえる音量を探します。

少し進むと、右手の高いソを二分音符で保ちながら、その下で短い音が動く箇所が現れます。ここでは、速い音だけを追う練習から、一つの手で二つの役割を受け持つ練習へ内容が変わっています。

第1番の右手、二分音符のソを保ちながら内側の音が動く箇所

保続音の楽譜を拡大する

譜例の上向きの符尾を持つ白い音符が、長く保つソです。同じ位置にある短い音符は、動く声部の出発点を示しています。最初のソを鳴らしたら、その鍵盤を二拍保ち、内側のド・レ・ミなどを続けます。二分音符が終わるところで、次のソを新しく鳴らします。

右手だけで弾き、長いソが途中で切れていないかを聴いてみます。続いて、ソを押さえている小指のために他の指まで固まっていないかを確かめます。小指をさらに強く押し続けても、すでに鳴った音を大きくすることはできません。鍵盤を保つことと、手全体を力ませることを分けて考えます。

この部分の左手も二つの役割を持ちます。低いドを全音符で保ち、その上の声部は一拍休んでから、スタッカートの和音を三つ弾きます。低音は続き、和音は軽く離れる。その違いまで聴くと、第1番の中にも表情の変化が生まれます。ペダルを外して確かめると、どの音を指で保っているかがはっきり聞こえます。

モーツァルトの音階への応用

練習曲で拍と指の動きを確かめたら、取り組んでいる作品へ戻ります。たとえばモーツァルトのソナタK.545、第1楽章の第5小節。右手が上がって下がる、よく知られた音階の箇所です。

モーツァルトK.545第1楽章第5小節、八分音符から十六分音符の音階へ進む右手

モーツァルトの楽譜を拡大する

この小節は、最初のラが八分音符で、そのあとに十六分音符が続きます。ツェルニー第1番の三連符とは、一拍を分ける数が違います。移して使うのは「同じリズム」ではなく、指が替わるところでも拍の長さを保つ聴き方です。

右手の二拍目はレ、三拍目は高いラ、四拍目はレから始まります。まずその拍頭の位置を楽譜で追い、音階を加えたあとも同じ間隔で届くかを聴きます。頂点へ近づくほど急ぎ、下降で一息ついて遅くなるなら、上りと下りを別々に速く弾けるだけでは解決しません。高いラの前後を続けて弾き、折り返しても拍が進むかを確かめます。

一方、ツェルニーの冒頭は一定の手の位置で始まり、モーツァルトの音階では親指の受け渡しと手の移動が必要です。30番で整えた音の間隔を手がかりにしながら、新しく必要になる動きはモーツァルトの楽譜で練習します。

左手にも違いがあります。掲載したモーツァルトの小節では、左手は一拍目を弾いたあと二拍目・三拍目を休み、四拍目に和音を置きます。左手の音がない二拍の間も、右手の拍は続きます。両手で弾いてから右手だけにし、さらに両手へ戻すと、伴奏に頼っていた場所が聞こえてきます。

K.545全体の譜読みや難しさについては、モーツァルトK.545の練習ガイドでも扱っています。ここでは、その一小節に限って、30番で聴いたことが演奏に残るかを比べてみてください。

今の曲から選ぶ練習課題

練習曲を使う順序を逆にすることもできます。先に作品の一節を弾き、何が崩れるかを言葉にしてから、30番の中で似た課題を探します。「速くなると弾けない」だけでは広すぎるので、拍が縮むのか、音が抜けるのか、伴奏が強くなるのかまで聴き分けます。

今、聞こえている問題から選ぶ

親指の音だけ強くなる

30番の第1番で
第1番のソ・ド・レを聴く。ドの前後を含めて弾き、意図しない突出を整える。
取り組んでいる曲で
曲の中で親指が入る前後を弾く。旋律で強調したい音と、指の都合で強くなる音を聴き分ける。

音型の境目で急ぐ

30番の第1番で
六音の終わりから次のソまで続ける。繰り返しの境目でも、左手の拍と三連符の関係を保つ。
取り組んでいる曲で
上りから下りへ折り返すところを聴く。細かい音の数を楽譜で確かめ、次の拍頭へ急がずに届く。

伴奏が前に出る

30番の第1番で
左手だけで拍と和声を聴き、右手を加える。左手の一音ごとに三連符が隠れない音量を探す。
取り組んでいる曲で
旋律を歌ってから両手で弾く。伴奏の形が変わったあとも、その旋律を耳で追えるか確かめる。
短い練習メモの例

今日聴いたこと:モーツァルトの音階で、頂点のラのあとに急ぐ。

30番で試すこと:第1番の六音を繰り返し、次のソへ入るときも一拍の長さを保つ。

曲へ戻ったら:第5小節の高いラの前後を弾く。三拍目から四拍目までの間隔を聴く。

同じ日に三つとも直そうとすると、何を変えた演奏なのか分からなくなります。その日は一つを選び、作品の短い範囲と練習曲を行き来します。たとえば伴奏の音量が課題なら、速さを変える前に、同じテンポで左右の聞こえ方を比べます。

ゆっくりなら狙った響きになり、少し速くすると左手が強くなる場合は、その速さで両手をまとめることが次の課題です。反対に、ゆっくりでも右手の音の順が曖昧なら、まず譜読みと運指へ戻ります。テンポを上げる練習そのものは、ゆっくり練習から速いテンポへ進む方法を参考にしてください。

一曲を仕上げる目安

私は、練習曲の仕上がりを聴くとき、冒頭だけでなく途中の変化や終わり方も聴きます。第1番なら、三連符の間隔、左手とのバランス、長い音を保つ箇所の響きが、一曲の流れの中で続いているか。速く弾けた一回より、その曲で選んだ課題が演奏に表れていることを大切にします。

「均等に」という目標から始めても、仕上げる段階では強弱、スラー、和声の変化を戻していきます。長い音へ到着するところに重みがあり、そのあとに動く音が自然に続く。細かい音の粒とフレーズの方向が両立して、練習曲も一つの演奏になります。

楽譜のメトロノーム表示を見るときは、数字の前の音符も読みます。今回のPeters版第1番では二分音符を単位にしています。四分音符を一回のクリックにする設定とは、同じ数字でも実際の速さが違います。数字を写す前に単位を確認し、自分の演奏で選んだ課題を保てる速さから取り組みます。

練習が止まったときは、一曲全部を最初から弾き直す前に、最後に変化を感じた場所を思い出します。右手だけなら整う、両手で保続音が短くなる、最後の一段で急ぐ。こうした違いが残っていれば、次に聴く範囲を選べます。

次の曲へ進む判断には、今の作品や練習時間も関わります。一度仕上げた番号へ、数か月後に別の目的で戻ることもあります。以前は音をそろえるのに集中していた一曲を、今度は伴奏の軽さや長い音の響きから弾き直す。経験が増えると、同じ楽譜から聴き取れることも変わります。

教材と曲をレッスンへ

ツェルニー30番と今取り組んでいる曲の両方があると、レッスンでは二つの楽譜を見ながら練習課題を選べます。「第何番まで終えたか」に加え、今の曲で気になっている一節を示してください。音の間隔、運指、左右のバランスのうち、どこから取り組むかを一緒に聴きます。

Vienna Piano Schoolでは、2026年10月から池袋・新宿のピアノスタジオで、中学生以上の方を対象に対面レッスンを行います。通常レッスンは55分・4,800円、初回は30分の無料体験です。体験レッスンのお申し込みに、使用中の教材と曲名をお書き添えください。18歳未満の方は保護者の同意のもと、保護者からご連絡ください。

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