手が小さい大人のピアノ:オクターブが届かない曲の選び方と弾き方
弾きたい曲にオクターブや広い和音が出てくると、「自分の手では、この曲は無理なのだろうか」と考えることがあります。大人になってピアノを始めた方も、久しぶりに再開した方も、楽譜の横幅が気になる場面はあるでしょう。
まず確かめたいのは、その音を同時に、どちらの手で弾く必要があるかです。両手に分ける、和音を順に鳴らす、重複した音を選んで省くなど、楽譜とフレーズによって検討できる方法があります。曲全体に広い形が続く場合は、今取り組む曲や編曲を選び直すことも音楽的な判断です。
私は、届かない和音だけを見る前に、その前後の旋律と低音を聴きます。歌の到着なのか、鋭いアクセントなのか、内声が動いていく途中なのか。その役割が分かると、何を残したいかが見えてきます。
同時に弾く幅と、動く距離
楽譜で上下に離れた音が見えても、それらを片手で一度に押さえるとは限りません。音が順に現れる分散和音、左右へ分けられた響き、一音を弾いてから次の場所へ移る動きなどがあります。
バッハの平均律第1巻、ハ長調前奏曲BWV846の冒頭を見てみましょう。響き全体は広い音域にまたがりますが、最初の音形は両手で受け持ちます。
Czerny校訂、G. Schirmer、1893年版。最初の音形を、両手の分担から読みます。
楽譜は横にスクロールできます。

左手のC4–E4は3度、右手のG4–E5は6度。響き全体の音域を、片手の幅と読み替えないことが大切です。
この譜例では、下段の中央のドと、上段に書かれた下向きの符尾のミを左手で扱います。右手は、その上のソ・ド・ミを受け持ちます。中央のドをC4とすると、左手はC4とE4、右手はG4・C5・E5です。
左手の二音の幅は3度、右手の音域は6度です。最も低いドから高いミまでの距離を、そのまま片手の広さとして考えると、この音形の弾き方を見失います。各手がどの音を受け持ち、どの順番で動くかを読むことが出発点です。
一方、同じ二音でも、ゆっくり一度弾く場合と、速く繰り返す場合では準備が変わります。鍵盤に指先が触れるかだけでなく、前の音から入り、次の音へ移るところまで試します。
オクターブが届くかを一つの基準にしない
オクターブの両端を弾けても、その中に二音が加わると、指の置き方が難しくなることがあります。白鍵だけの形と、黒鍵を含む形でも感触は変わります。
曲を選ぶときは、広い音程がどこに、どのくらい出てくるかを見ます。静かな終わりに一度だけ現れる和音と、速い部分で続くオクターブでは、考えたい選択肢が違います。冒頭を弾いてみたあと、曲の後半や盛り上がる部分にも目を通します。
また、手の幅に合う曲にも、音色やフレーズを深く学ぶ余地があります。届く音だけで構成された曲を「まだ簡単な段階」と捉えるより、その音楽をどこまで豊かに弾けるかを聴いてみてください。
三つの変更と、残したい音
広い和音を扱うときは、次の三つを区別します。
- 両手への振り分け:書かれた音とタイミングを保ち、担当する手を変える。
- 和音を広げて鳴らす:音を順に弾き、鳴る時刻を少しずつ変える。
- 音の省略:一部の音を取り除き、和音の厚さや配置を変える。
どの方法でも、旋律、低音、途中の声部を先に読みます。上の音が旋律、下の音が低音という関係はよくありますが、内側の音が前の小節から続く大切な線を作っている場合もあります。
私は、旋律と低音だけを弾き、そのあと内側の音を加えて聴くことがあります。和音を一つの塊として見ていたときより、残したい響きと動きがはっきりします。
ショパンOp.28-7の広い和音
ショパンの前奏曲イ長調Op.28-7には、短い曲の中に広い和音が現れます。第12小節の右手は、低い方からA♯4・C♯5・E5・A♯5・C♯6。両端の幅は短10度です。
右手の広い和音は第12小節の最初の二拍。三拍目から次のフレーズが始まります。
楽譜は横にスクロールできます。

右手の両端は短10度。低いA♯4を左手へ渡すと、左手の両端は長10度に広がります。
同じ場所の左手はF♯3・C♯4・E4・F♯4で、こちらは一オクターブの幅があります。両手を合わせた響きには、ファ♯・ラ♯・ド♯・ミが含まれます。
右手の一番低いラ♯を左手へ渡す案を考えると、左手はF♯3からA♯4まで、長10度に広がります。右手だけを見ると弾きやすくなっても、受け取る左手に新しい難しさが生まれます。両手の音と位置を一緒に読む理由が、ここにあります。
この前奏曲の旋律と和声を、アルフレッド・コルトーの録音でも聴いてみてください。広い和音を単独の課題として見る前に、歌の流れの中に置いて聴きます。
アルフレッド・コルトー:前奏曲Op.28-7
Warner Classics。YouTubeで聴く。
重複した音を省く案
第12小節では、右手の低いA♯4を省くと、C♯5・E5・A♯5・C♯6が残ります。高いA♯5があるため、和音の構成音としてのラ♯は残り、右手の両端は一オクターブになります。
右手の五音と、一音を省く案
色の付いた鍵盤が右手の音です。C4を中央のドとして示しています。
原譜:両端は短10度
下のA♯4を省く案:両端は1オクターブ
高いA♯5は残ります。低い位置の響きが減ることと、四音を含むオクターブの形が手に合うかを、前後のフレーズで確かめます。
この変更では、低い位置にあったラ♯の響きが減ります。同じ種類の音がほかの高さに残っていても、和音の厚さや音域ごとの重みは変わります。その変化を、前後のフレーズで聴いて判断します。
音数を減らしたあと、失った厚さを補おうとして残る音をすべて強く弾くと、旋律の性格まで変わります。まず上のド♯の歌い方を保ち、その下の音がどう支えるかを聴きます。
また、この案は一オクターブの中に四音を含む形です。オクターブ自体が手に合わない場合は、さらに別の配置や鳴らし方を考えます。「一音省けば解決」と決めず、実際の形と動きを試します。
省略する音を選ぶときは、「真ん中の音だから」という理由だけで決めません。ここで低いラ♯を候補にできるのは、高いラ♯が残ることを確認しているからです。もし和音の中に一つしかない大切な音を取り除けば、和声そのものや声部の進み方が変わります。
和音を順に鳴らす案
和音を少しずつ広げて弾くと、手を移動させながら音を鳴らせます。その際は、低音と旋律のどちらを拍の位置に置きたいかを聴きます。
旋律の到着を拍に合わせるなら、その前に下の音を置く考え方があります。低音が拍を示す場面なら、低音から上の音へ進む形も考えられます。曲の性格、前後のリズム、旋律の入り方によって選びます。
ショパンの第12小節では、広い和音が最初の二拍を占め、三拍目から次のフレーズが始まります。和音を上まで弾くことに時間を使いすぎると、その次の歌へ入る時間が狭くなります。前の小節から弾き、三拍目と第13小節まで続けて聴きます。
ペダルを使う場合は、移動の間に残したい響きを受け止め、次の和声へ移るときに濁りを聴きます。踏み続けることで音をつなぐだけでは、曲の響きが重くなることがあります。基本の動きは、ペダルの練習ガイドも参考にしてください。
両手への振り分けと指使い
もう片方の手が近くの音を弾いている場面では、内声の一音を受け持つ方法を検討できます。受け取った音だけが強くならないか、その音を必要な長さ保てるか、次の音へ動けるかを確かめます。
楽譜の上段と下段は、読むための大切な情報ですが、担当する手を考えるときは音の位置も見ます。先ほどのバッハの譜例のように、左手で扱う音が上段に書かれることもあります。
選んだ分担は、楽譜へ短く書き込みます。左手へ移す音に印を付け、両手で前後を弾いてみます。和音を止まった状態で押さえられることに加えて、曲の中でその形へ入れることが重要です。指使いとフレーズのガイドでも、次の音を含めて選ぶ方法を扱っています。
原曲、編曲、今取り組む曲
一か所の広い和音を調整すれば、曲の流れを保てる場合があります。広い形が速いテンポで続き、ほかの課題を聴く余裕がなくなる場合には、別の曲や適切な編曲を選ぶ価値があります。
編曲を選ぶときは、音数の少なさだけでなく、その曲の何が好きなのかを考えます。旋律、低音の動き、和声の色、伴奏の揺れ。楽しみにしていた特徴が残っているかを、楽譜と音で確かめます。
原曲へ戻ることを目標にしながら、今の手の動きに合う音楽で歌い方や拍を育てることもできます。教本と好きな曲を組み合わせる考え方は、大人のピアノ教本の進め方にまとめています。
試験やオーディションに使う曲では、音の変更や編曲について、その試験の規定を確認します。普段のレッスンで選んだ弾き方を、すべての試験へそのまま適用できるとは限りません。
痛みが出た場合は、その練習を止めてください。
届かない箇所をレッスンへ
一つの指使いを全員へ当てはめるより、その方の手で、どんな響きと動きを作れるかを確かめます。広い和音を越えた先で、旋律やフレーズへ耳を向けられる弾き方を探します。
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