モーツァルト《ソナタ K.545》はどのくらいのレベル?必要な技術と練習順序
モーツァルトの《ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545》は、初歩の読譜を終え、両手で旋律と伴奏を弾き分けられるようになった方が、中級の課題として取り組みたい作品です。「やさしいソナタ」という呼び名がありますが、冒頭の旋律を弾けることと、一つの楽章を整えて弾けることには距離があります。
取り組む目安は、習ってきた年数よりも、音階の指替えで拍が乱れないこと、左手を静かに保てること、休符まで含めてフレーズを終えられることです。まずは第1楽章の冒頭と音階の部分を別々に試し、今の自分に必要な練習を見つけましょう。
「初心者のため」を、今の入門レベルと考えない
K.545は1788年の作品で、モーツァルト自身の作品目録には、初心者に向けた小さなクラヴィーア・ソナタという趣旨の記載があります。ただし、この呼び名を、鍵盤に初めて触れる方がすぐに弾けるという意味に置き換えることはできません。
第1楽章の出だしには、右手の単旋律と左手の分散和音が現れます。音が厚く重なりすぎないぶん、伴奏の一音が飛び出したり、指を替えるところだけ急いだりすると、その違いが聞こえます。必要なのは、難しい音を押さえる力だけでなく、少ない音の関係を整える耳と手のコントロールです。
ソナチネやブルグミュラーを学んできた方にとって、候補になることはあります。それでも「この教則本を終えたら必ず弾ける」という対応表にはできません。同じ曲を経験していても、読譜、音階、伴奏のバランスに残る課題は人によって違います。
また、第1楽章だけを練習するのか、全3楽章を仕上げるのかでも、準備する内容が変わります。楽譜や動画を探す際はK.545という作品番号に加え、楽章も確かめてください。第1楽章の華やかな音階だけで、作品全体の難しさを判断しないことが大切です。
取り組む前に確かめたい三つのこと
手元に楽譜を用意し、第1楽章の冒頭4小節と、その次の音階を片手ずつ見てみましょう。初めから速く弾く必要はありません。音を読み直せる程度のテンポで、次の三点を確かめます。
- 拍を保てるか。 音階を上がるときと下がるときで速さが変わらず、指を替えた直後の音だけ大きくなっていないかを聴きます。
- 左右の役割を変えられるか。 左手だけで弾く場合よりも音量を抑え、両手では右手の旋律を追えるかを確かめます。
- 途中から始められるか。 冒頭だけでなく、第2小節や音階の入り口からも、最初の音と指を自分で選んで始められるかを見ます。
この三つが完全でなければ取り組めない、という試験ではありません。一つの課題を意識すると他の二つが大きく崩れるなら、短い範囲で準備する時間を設けると進めやすくなります。たとえば、左手の音を探しながら右手も読む状態なら、先に伴奏の形を確認します。
反対に、ゆっくりなら両手で拍を保てて、直したい箇所を説明できるなら、この曲を通して技術を育てていく余地があります。現在弾ける曲と比較したい場合は、初心者向けのクラシック曲と選び方も参考にしてください。曲名の知名度より、今の課題と合うかどうかで選びます。


クラシックピアノ個人レッスン
初心者から上級者まで。オンラインで国内外から受講できます。

Enea
ウィーン育ちのコンサートピアニスト
体験30分 · 新宿の対面レッスンは2026年10月から
第1楽章の冒頭で、旋律と伴奏を分ける
冒頭の左手は、低い音、高い音、中ほどの音、高い音という順に和音を分けて弾く、アルベルティ・バスです。第1小節では、中央のドから「ド・ソ・ミ・ソ」を二度繰り返します。一方、右手はその一つ上のドを二拍保ち、ミ、ソと進みます。
ここで確かめたいのは、右手の長い音を聴き続けながら、左手を動かせるかという点です。左手の八分音符をすべて同じ強さで目立たせると、旋律が短い伴奏の音に埋もれやすくなります。
第1楽章・第1–2小節。音とリズムを抜粋。上下ともト音記号です。
第1小節:右手のドを二拍保つ間も、左手は八分音符で動きます。
第2小節:四拍目は右手だけが休み。左手のミ・ソは続きます。
音と長さを文字で確認
中央のドをC4とします。第1小節の右手はC5(二分音符)、E5・G5(四分音符)。左手はC4・G4・E4・G4を二回、すべて八分音符です。
第2小節の右手はB4(付点四分音符)、C5・D5(十六分音符)、C5(四分音符)、四分休符。左手はD4・G4・F4・G4・C4・G4・E4・G4、すべて八分音符です。
最初は左手のド・ミ・ソを和音としてそっと鳴らし、右手の旋律を重ねてみます。これは伴奏の響きをつかむための準備で、楽譜どおりの演奏ではありません。旋律と和音の関係を聴けたら、左手を元の「ド・ソ・ミ・ソ」に戻し、右手のドの長さを変えずに弾きます。
第2小節では、左手の前半が「レ・ソ・ファ・ソ」、後半が「ド・ソ・ミ・ソ」に変わります。右手だけに集中して左手を同じ形のまま続けていないか、ここで一度確かめてください。最も低い音を先に見つけると、和音の変化を読み取りやすくなります。
もう一つの要点は、第2小節の最後です。右手には四拍目の休符がありますが、左手の伴奏は続きます。右手を離すことにつられて左手も止まったり、両手で休んだりしないようにします。右手の短い「ド・レ」も、隣の音と同じ長さではなく十六分音符です。音名だけで覚えず、長さと休みまで一緒に読みましょう。
最初の2小節が整ったら、第3・第4小節までつなぎ、旋律の続きとして聴きます。練習で区切った位置と、演奏で音楽が途切れる位置は同じではありません。部分練習で覚えた小さな停止を、毎回のフレーズに持ち込まないようにします。
音階は、入り口と折り返しをそろえる
第5小節からは、右手の音階が大きな課題になります。冒頭が弾けるからと同じ速さで進むと、ここで急に手が追いつかなくなることがあります。まず第5小節の最初のラと、一番高いラ、その後に下り始めるソの位置を楽譜で見つけましょう。
第1楽章・第5小節の右手。指番号や表情記号は省略しています。
- 1拍目ラ・シ・ドラは八分音符
- 2拍目レ・ミ・ファ・ソ上りを続ける
- 3拍目ラ・ソ・ファ・ミ高いラで折り返す
- 4拍目レ・ド・シ・ラ拍を保って下りる
音と長さを文字で確認
A4(八分音符)、B4・C5・D5・E5・F5・G5・A5・G5・F5・E5・D5・C5・B4・A4(以降はすべて十六分音符)。四分の四拍子、一小節です。
最初のラは八分音符で、続くシからは十六分音符になります。すべてを同じ長さで並べると、音の数が合っていても拍がずれます。最初の一音を短くしすぎず、二拍目に入るレ、三拍目の高いラ、四拍目のレを目印にすると、一小節の中でどこを弾いているかが分かります。
指使いは、その場で毎回変えず、使う楽譜を確認して決めます。指替えの直前で手を急に準備しようとするより、次の数音まで見てから短く弾いてみてください。同じ二音の間でいつも詰まるなら、その二音だけでなく、直前の音から次の着地点までを取り出します。
折り返しでは、高いラを弾いた勢いで下りを急がないようにします。上りだけ、下りだけを確認したあと、高い音の前後を続けて弾きます。頂点で長く止まる練習をした場合は、最後に止まらず通す確認も必要です。目標は速い音を一瞬出すことではなく、方向が変わっても拍が続くことです。
左手を合わせるときは、まず鳴らす位置と休む位置を把握します。第5小節では、左手は一拍目にファを鳴らし、二拍目と三拍目は休み、四拍目に低いファとドを重ねます。右手が細かく動いていても、左手が毎拍埋めるわけではありません。右手だけで保てていた拍が、左手の入りで伸びていないかを聴きます。
第6小節以降も、見た目が似ているからと指を自動的に動かさず、最初の音、折り返す音、左手の響きを確認します。一つの音階を弾けたことと、位置を変えて続けられることは、分けて練習したい課題です。
第2・第3楽章は、それぞれ違う聴き方をする
第2楽章はト長調、四分の三拍子のAndanteです。速さを抑えやすい一方、長い旋律の音を聴きながら、左手の細かな伴奏を保つ必要があります。旋律が長く伸びるところで拍の感覚が薄れたり、左手が音楽をせかしたりしていないかに注意します。
右手を歌ってみて、どの音からどの音へ向かうかを考えたうえで、左手を足してみましょう。旋律を追いやすくするために、右手をさらに強くするより、伴奏の出方を調整したほうがよい場合があります。第1楽章の速い部分が苦手でも、第2楽章なら何も準備せず弾けるとは限りません。
第2楽章の途中には、ト短調に移る部分もあります。出だしの明るい響きだけを予想していると、臨時記号を読み落としやすくなります。指だけで前の形を繰り返さず、変わった音と響きを確かめてから進みます。ペダルは、指でつなぐ位置と音を離す位置が分かったあとに、濁りを聴きながら加えます。
第3楽章はハ長調、四分の二拍子のロンドです。冒頭から三度の重音が現れ、右手と左手のやり取りが音楽を動かします。短い音を軽くそろえること、二つの音を同時に鳴らすこと、休みの間も拍を感じることが課題になります。
二音を鳴らすたびに腕全体を固めるのではなく、まず短いまとまりの中で、重音の始まりと終わりをそろえてみます。右手が話したあとに左手が応じる場所では、片方を弾き終えてからもう片方の準備を始めると間に合いません。次に入る手の場所を先に見ておきます。
全楽章を学ぶなら、「第1楽章は音階と拍、第2楽章は旋律の持続、第3楽章は重音と応答」のように、最初に聴く点を分けると練習しやすくなります。これは各楽章の課題を一つに限定するものではなく、注意を向ける入り口です。
練習は、難所を見つけてから短く分ける
毎回、冒頭から弾き始めて止まった場所を繰り返すだけでは、出だしに練習が偏りがちです。最初に楽章全体を見渡し、音階、分散和音、装飾音、左右の役割が変わる部分に目印を付けます。すぐに全部を弾こうとせず、似た形と、個別に読む必要がある形を分けておきましょう。
- 練習する範囲と課題を決めます。 「第5小節の折り返しで急がない」「第2小節の右手の休符で左手を止めない」など、弾いたあとに確かめられる言葉にします。
- 音とリズムを片手で確認します。 難所の手だけでなく、もう一方の手がどこで鳴り、どこで休むかも読みます。指番号を決める必要がある場所は、この段階で確かめます。
- 短い範囲で両手を合わせます。 一拍だけで始めても構いません。音を探すための停止と、楽譜に書かれた休符を区別します。
- 前後を付けて弾きます。 難所の直前から入り、次の音に着くまでを練習します。取り出した場所だけ成功しても、前から入れなければつながっていません。
- 一度通して、次の課題を選びます。 確認のための通奏では、小さな失敗のたびに冒頭へ戻らず、止まる場所や崩れる条件を記録します。次の練習では、その記録から一つを選びます。
練習を終える前に、今日取り出した部分をもう一度、前後とつないでおきます。翌日は最初から長く弾くより、その場所から始められるかを確かめると、前日の理解が残っているかを見やすくなります。長く弾く日と短く直す日が混ざっても、毎回の目的が分かれば練習を続けやすくなります。
つまずいたときは、原因に合う練習へ戻る
同じ場所で止まっていても、必要な練習は同じとは限りません。譜読みが曖昧なままなら、テンポを上げ下げする前に、音と指を確かめます。片手では弾けて両手で崩れるなら、同時に鳴る場所だけを見つけ、短い範囲で合わせるところへ戻ります。
音階の特定の一音だけが強くなるなら、その直前の指替えや準備を観察します。全体を弱くするだけでは、同じ場所の不均衡が残ることがあります。左手が大きすぎる場合も、右手を常に強くするのではなく、左手だけで静かな伴奏を作り、同じ音量感で両手に戻してみます。
また、ペダルを踏むと弾きやすく感じる場合は、ペダルを外したときに何が変わるかを確かめます。指のつなぎ目が聞こえやすくなったのか、和音の変化が明確になったのかで、直す点は違います。常にペダルなしで演奏するという規則ではなく、今の音を聞き分けるための比較です。
何度弾いたかだけで進み具合を測らず、「止まらず入れた」「左手を静かにしても音が抜けなかった」のように、変化を短く記しておきましょう。反復しても変わらないときは、上達が止まったと感じるときの練習の見直し方のように、問題を分けるところから考えると整理しやすくなります。
仕上がりの目標を決めて取り組む
「K.545はどれくらいで弾けるか」は、取り組む楽章と、どこまで仕上げたいかで変わります。冒頭を楽しめるようにすること、楽章を止まらず通すこと、人前で音楽として届けることを、同じ到達点にしないようにしましょう。
最初の目標には、「冒頭4小節で旋律と伴奏を分ける」「音階の折り返しを含めて拍を保つ」などが向いています。そのあと、少し長い区切りでフレーズや和音の変化を整え、楽章全体へ広げます。速さだけを完成の条件にせず、休符、音の終わり、左右の受け渡しまで聴けているかを確かめます。
指使いやスラー、強弱には、版による違いがある場合もあります。複数の楽譜を見比べることは役立ちますが、練習のたびに指示を入れ替えると判断が曖昧になります。まず一つの楽譜を使い、迷った箇所を具体的にしてから確認しましょう。ここに載せた譜例は、音とリズムを読むために演奏上の指示を省いたものです。仕上げには、全曲の楽譜を用意してください。
今のレベルで取り組むか迷う場合は、30分の無料体験レッスンで相談できます。現在弾いている曲と、K.545の試してみた箇所を一緒に用意すると、先に整えたい技術や取り組む範囲を考えやすくなります。憧れの曲を急いで通すことより、短い部分で身に付けたことを、次のフレーズへ運んでいきましょう。
この記事をシェア
関連記事
練習法
初めてのペダル:濁らせずに踏み替えるための練習
ピアノの右ペダルで音が濁るときは、足だけでなく、和音が変わる瞬間の響きを聴き直すことが大切です。ペダルなしの確認から、打鍵後に踏み直す基本、曲に戻すまでの練習を順番に解説します。
練習法
20年ぶりにピアノを再開するには?最初の8週間の練習計画
昔習っていたピアノを10年、20年ぶりに再開する方へ。読譜、両手の連携、音色、無理なく弾ける時間を確かめながら、8週間で練習の土台を組み直す方法を紹介します。
練習法
ピアノ初心者におすすめの簡単なクラシック曲と、選び方
ピアノ初心者に向けて、クラシックで本当に取り組みやすい曲と、その選び方を整理しました。難易度を判断する基準、見た目より難しい有名曲、定番のおすすめ曲、無料で楽譜を入手する方法までを、現役講師の視点で解説します。

