ベートーヴェン《悲愴》第2楽章の練習:旋律・内声・主題の変化

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

冒頭の歌から、左手の返事、三連符を伴う主題の帰還へ。六つの譜例と全体の見取り図を使い、《悲愴》第2楽章の音域・和声・声部の変化を聴きながら練習します。

ベートーヴェン《悲愴》ソナタ Op.13の第2楽章は、冒頭の歌う旋律でよく知られています。ただ、一曲を弾き通すときの課題は、その旋律を美しく弾くことから先へ広がります。音域が上がり、左手が動き、途中では短い旋律を両手が受け渡す。そして主題が戻ると、伴奏の細かな刻みも変わっています。

私はこの楽章を聴くとき、主題が戻った瞬間に、それまでの音楽がどう残っているかに耳を向けます。同じ旋律でも、前と同じ響きには聞こえない。その変化を作るのは、大きなテンポの揺れだけでなく、伴奏の量、低音の方向、休符の間に続く声部です。

ここでは第2楽章全体を、六つの譜例と曲の見取り図でたどります。練習の軸は次の三つです。

  • 旋律と内声: 同じ右手の中で、歌う音と細かく動く音を聴き分ける。
  • 場面の変化: 音域、和声、両手の役割が変わる場所を読む。
  • 主題の帰還: 十六分音符から三連符へ変わっても、旋律の大きな拍を保つ。

第2楽章の流れ

この楽章は変イ長調、4分の2拍子、Adagio cantabileです。ゆっくりした二拍の中で、歌う線を長く聴きます。冒頭の主題が対照的な場面を挟んで戻る、A–B–A–C–Aのロンドとして流れをつかめます。

最初の主題は第1〜16小節。第9小節からは旋律が一オクターヴ上がり、左手の動きも増えます。第17小節から別の旋律へ進み、第29小節で主題が戻ります。第37小節からの新しい場面を経て、第51小節で再び主題へ。その後、第66小節の到着から終結へ向かいます。

主題が戻るたびに、何が変わるか

  1. 第1〜16小節

    A · 最初の主題

    変イ長調。第9小節から旋律が一オクターヴ上がり、左手の動きが増えます。

  2. 第17〜28小節

    B · 対照的な歌

    ハ短調の響きから、装飾と内声の動きを経て主題への帰り道へ。

  3. 第29〜36小節

    A · 主題の再登場

    八小節の主題。前の場面の緊張が収まる響きを聴きます。

  4. 第37〜50小節

    C · 三連符と声部の会話

    変イ短調の色からホ長調の領域へ。旋律の受け渡しと強弱の対比。

  5. 第51〜65小節

    A · 三連符を伴う主題

    旋律の大きな形は戻り、細かな伴奏は変化。第59小節から高い音域へ。

  6. 第66〜73小節

    終結

    第66小節の主題の到着から、短い歌と音域を変える返事を経て最後の和音へ。

最初に楽譜を最後まで見て、主題の始まりに印を付けてみてください。第1、第29、第51小節を続けて見比べると、同じ旋律の下で何が変わるかがわかります。曲を最初から順に仕上げる練習に加え、この三箇所を行き来する時間も持つと、全体の設計が耳に残ります。

冒頭の旋律と十六分音符

冒頭では、右手が旋律と細かな伴奏を同時に弾きます。譜例の上段もヘ音記号です。高い声部として書かれている旋律は、中音域のドからシ♭へ進み、その下で十六分音符が続きます。

第1〜4小節:右手の中の二つの役割

変イ長調、4分の2拍子。両段ともヘ音記号。上向きの符尾が旋律、下向きの細かな音が内側の伴奏です。

譜例は横にスクロールできます。

悲愴第2楽章冒頭。右手の旋律ド・シ♭の下で十六分音符が続き、左手が低音を進める。第3小節では旋律と低音が八分音符で動く。
譜例を大きく開く

まず旋律だけを、低音と合わせて弾いてみましょう。第1小節のドからシ♭、第2小節のミ♭へ。次の音を待つ間にも、二拍の幅を感じます。音符の間が長いからといって、そこで音楽が休んでいるわけではありません。第3小節では旋律も低音も動き、同じ二拍の中に違う密度が生まれます。

細かな音を戻したら、旋律の長い音の途中で、どの伴奏音が目立つかを聴きます。最初のドを強く弾くだけでは、あとから鳴る十六分音符が線を隠すことがあります。右手の伴奏だけを小さく弾き、その上に旋律を重ねるつもりで、音量の関係を探してください。

旋律を弾く指と、内側の音を弾く指には、違う役割があります。手全体を一緒に押し込むと、その差が消えます。一つの拍を取り出し、旋律の音が残っている間に伴奏をそっと続け、次の旋律音へ移る。この短い範囲で音を聴いてから、二小節、四小節へ広げます。

和音や同じ手の中で旋律を浮かせる練習は、ピアノの和音の中でメロディーを聴かせる方法でも扱っています。この曲では、その音量差を一音ごとに作り直すより、長い旋律の下で伴奏が続く状態を保つことが課題です。

第9小節の音域と左手

第9小節では、主題が一オクターヴ上に現れます。左手にも細かな動きが加わり、冒頭より響きの面積が広がります。右手だけを冒頭と同じ感覚で弾いても、全体の釣り合いは変わります。

旋律が高くなると、その音が自然に耳へ届くこともあれば、両手の伴奏が厚くなって埋もれることもあります。ここでは低音の進み方を残しつつ、その間の音を軽くします。左手の各音を同じ強さで並べると、低音の線と伴奏の区別が薄れます。

第1〜8小節と第9〜16小節を録音して、旋律が上がったときに何が変わったかを聴いてみましょう。高い音域へ移ったこと、伴奏が活発になったこと、その両方を聞き取れるか。二回目のほうが一律に大きい、あるいは速い、という変化だけになっていないかを確かめます。

第16小節の終わりには、次の旋律へ入る短い音があります。そこで一度曲を閉じてから新しく始めると、続きが離れて聞こえます。主題の終わりを収めながら、その短い音が第17小節のドへ向かうように弾いてください。

木製のピアノの鍵盤を斜めから見た近景

第17小節からの別の歌

第17小節からは、ハ短調の響きを持つ旋律が始まります。長いドがタイで保たれ、そのあとにラ♭・ソ・ファが続きます。次の小節ではドが一オクターヴ上がります。短い音の連なりだけでなく、その前の長い音が作る時間を聴きたいところです。

第17〜20小節:長いドから続く歌

タイで保つ旋律と、繰り返す左手の和音。第18小節では、旋律のドが一オクターヴ上がります。

譜例は横にスクロールできます。

第17〜20小節。右手のドがタイで保たれたあとラ♭・ソ・ファへ下がる。左手は十六分音符の音や和音を繰り返し、和声と音域が変わる。
譜例を大きく開く

左手は同じ高さの音や和音を繰り返します。毎回の打鍵が重いと、右手の長い音の下で伴奏だけがせわしく聞こえます。左手を弾きながら旋律を歌い、タイの間にも線が続くかを試してください。伴奏の一音ごとに身体の動きが止まる場合は、まず一拍分を小さな動きでまとめて弾きます。

第18小節の高いドへは、前の小節の短い音から向かいます。高音を目標にしすぎて、直前のラ♭・ソ・ファを急ぐと、長い音と短い音の関係が崩れます。ゆっくりした拍の中で細かな位置を確かめ、そのあとで一息の旋律として歌ってみましょう。

続く第21〜22小節には装飾音や細かな音型があり、譜読みの密度が上がります。先に到着する音と低音を合わせ、途中の音がどの拍を使うかを読みます。音数が多い場所を全部速く通り過ぎると、次の和音だけが突然現れます。装飾の前後まで含めて、歌の続きとして弾くことが大切です。

第24〜28小節では、内側の半音の動きが主題への帰り道を作ります。特に第27〜28小節は、長く保つ上の音の下で内声が変わります。ここをひと塊の和音として聞くと、変化が見えにくくなります。保つ音と動く音を別々に弾いたあとで合わせ、第29小節の主題まで続けてみてください。

第37小節の三連符と受け渡し

第29〜36小節で主題を聴いたあと、第37小節から変イ短調の色を持つ新しい場面へ入ります。旋律はラ♭・ド♭・シ♭・ラ♭と進み、その下では十六分音符の三連符が続きます。一拍に六つの細かな音が入り、冒頭の一拍四つとは流れが変わります。

第37〜38小節:右手から左手へ

上段はト音記号、下段はヘ音記号。三連符の伴奏が続く中で、右手の旋律が休み、左手が返事をします。

譜例は横にスクロールできます。

第37小節の右手ラ♭・ド♭・シ♭・ラ♭と十六分三連符の伴奏。第38小節では右手の旋律に四分休符があり、左手に動く旋律が現れる。
譜例を大きく開く

最初は右手の旋律を歌いながら、伴奏を抜いて弾いてください。次に同じ二拍の幅で、三連符の伴奏だけを弾きます。音数が増えた勢いで拍を速くすると、歌の性格まで変わります。細かな音の数と、大きな拍の速さを分けて感じます。

第38小節では右手の旋律に休符が入り、左手の線が動きます。右手の伴奏はその間も続いています。「右手を弱く、左手を強く」と手ごとに決めるだけでは、この重なりを捉えきれません。右手の旋律が収まり、内側の伴奏が残り、その下から左手の返事が聞こえるように、声部ごとの役割を聴きます。

私はこうした箇所では、受け渡す二つの旋律を先に続けて弾きます。右手が歌い終わってから左手を探すと、返事が遅れます。左手の入りを耳で待ちながら、右手の最後の音を収めてください。そのあとで、途切れずに続く伴奏を戻します。

第42小節からの音域と強弱

第42〜43小節では、旋律がオクターヴの音から高く伸び、臨時記号も増えます。ホ長調の響きへ向かう色の変化と、sfの強調が、この部分の緊張を作ります。

第42〜43小節:高く伸びる音と強調

オクターヴの音から三連符へ。臨時記号による和声の変化と、sfのあとに続く音の強さを聴きます。

譜例は横にスクロールできます。

第42〜43小節。右手の高いオクターヴにsfがあり、タイのあとに三連符の下降が続く。左手の和音も三連符で動き、シャープとナチュラルが増える。
譜例を大きく開く

ここは細かな三連符の動きに加え、上の音域へ移る準備が必要です。まず、オクターヴの到着点と左手の和音だけを合わせてみましょう。どの響きへ進むのかを聴いたうえで、間の三連符を入れます。移動の直前に毎回止まる場合は、前の音を鳴らしたあと、次の位置へ向かう動きをゆっくり確かめます。

sfのある音と、そのあとに続く音には違う重さがあります。全部を同じ強さで押し続けると、高く向かう線も和声の変化も平らになります。強調したあとに響きをほどき、次の強調へ進む。その音量の起伏を、左手の和音にも反映させます。

第44小節ではfp、第45小節ではppが現れます。高い音域の強い場面から、別の距離で話すような響きへ移ります。音量を落としても三連符の流れは残るので、弱くなった瞬間に拍まで止めないように聴いてください。

第48〜50小節では、左手の上がる動きや和声の変化が主題への帰りを準備します。第51小節だけを何度も始める練習に加え、この三小節から入る練習も行います。前の緊張がどう収まり、主題のドがどう現れるかで、帰ってきた感じが変わります。

第51小節の主題と伴奏の変化

第51小節の旋律は、冒頭で聴いた主題です。ただし、下の伴奏には三連符の動きが残っています。冒頭では一拍に四つだった十六分音符が、ここでは一拍に六つ。旋律と低音の大きな形を保ちながら、間を流れる音が変わります。

第51〜52小節:主題の下に残る三連符

両段ともヘ音記号、調号はフラット四つ。伴奏は一拍に六つの十六分三連符。旋律の二拍の幅と比べて聴きます。

譜例は横にスクロールできます。

第51〜52小節の主題再登場。右手の旋律ド・シ♭、ミ♭・レ♭の下で三音ずつの伴奏が続き、短いスラーとスタッカートが付く。左手には低音の線がある。
譜例を大きく開く

第1小節と第51小節を、同じ四分音符の拍で交互に弾いてみてください。初めは旋律と低音だけで比べ、次に伴奏を入れます。三連符になったあとも、旋律のドからシ♭へ進む時間を同じ幅で感じます。伴奏だけが忙しくなって聞こえるなら、音量と細かな音の均等さを確かめましょう。

三連符には短いスラーやスタッカートもあります。長い旋律のスラーと、伴奏の小さなまとまりを、それぞれの声部で読みます。右手全体を一緒に離すと、歌う線まで短く切れてしまいます。旋律を保ったまま内側の音を離す練習を、一拍の中で試してください。

第59小節からは主題が高い音域へ移り、両手の細かな動きが重なります。第62〜63小節では左手が上へ向かい、右手の音域へ近づきます。ここで左手をすべて遠くへ引っ込めると、その上昇が聞こえません。旋律を主役に保ちながら、低音から上がってくる線にも方向を持たせます。

同じ主題が続く部分ほど、どの声部を聴くかが演奏の違いになります。最初の主題を思い出させる落ち着きと、途中の場面から受け継いだ動き。その両方を残せると、終わりへ向かう長い流れが生まれます。

第66小節から最後の響きへ

第66小節の到着で、主題の歌はいったん収まります。右手に休符があり、その下で左手の三連符が続きます。その後、短い旋律がもう一度広がり、第70〜72小節では小さな音型が音域を変えながら現れます。

第71〜73小節:音域を変える返事と終止

右手の短い音型が低い音域へ移り、最後はpp。短い休符を経て、フェルマータの和音へ到着します。

譜例は横にスクロールできます。

最後の三小節。第71小節と第72小節で装飾音と三連符の音型が音域を変えて現れ、左手の長い音が支える。最終小節には十六分休符とフェルマータの和音がある。
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第71小節と第72小節では、似た動きが違う高さで聞こえます。最後だからと各音を一様に遅くするより、短い音型をひとつずつ歌い、その返事が低い音域へ移ることを聴きます。左手の長い音は、右手の細かな動きの下に残る支えです。

最終小節には短い休符と、フェルマータの付いた最後の和音があります。休符のある音を指で離し、次の響きがどう現れるかを、まずペダルなしで確かめてください。ペダルを戻したら、短い間隔を全部同じ響きで埋めず、終わりの形が聞こえる量を探します。

最後の和音を弾いたあとも、音が減っていくところまで聴きます。手を離す動きやペダルを上げる瞬間が急だと、直前まで歌っていた音楽が途中で切れたように感じられます。フェルマータの長さを秒数で決めるより、その日の楽器と部屋に残る音を聴いて終えてください。

一曲として仕上げる練習

冒頭が弾ける段階でも、第37小節の声部の受け渡し、第42小節からの移動、第51小節以降の三連符には、別の準備が必要です。この楽章に取り組めるかを考えるときは、冒頭の速さだけで判断せず、この三つの場面もゆっくり試してみてください。

通して弾く練習では、細部を全部同時に聴こうとせず、回ごとに耳の向け先を選びます。一度は主題が戻る三箇所の音色を、次は左手の旋律が現れる場所を聴く。録音を使う場合も、気になった一節から前後へ範囲を広げ、どこで流れが変わったかを確かめます。

譜読みや声部の整理をしたあと、私は最後に旋律を声で歌ってみることがあります。細かな伴奏に気を取られて、最初に好きだった歌の形を忘れていないかを聴くためです。鍵盤へ戻ったとき、その歌の下に低音と内声がどんな景色を作るかを楽しんでください。

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