MUKのCoPとモーツァルテウムのPGL:オーストリアでピアノを学び続ける
音大を卒業したあと、オーストリアでもう一度じっくりピアノを学びたい。そう考えたときに候補となるのが、MUKのCertificate of Performance(CoP)と、モーツァルテウム音楽大学のポストグラデュエート大学講習課程(PGL)です。どちらも演奏を深めるための課程ですが、出願資格と修了時の資格は別々に読む必要があります。
MUKのCoPは、修士入学相当の演奏能力を求める一方、大学の学位取得を必須としていません。モーツァルテウムのピアノPGLは、該当する演奏分野の修士または同等のディプローム課程の修了が前提です。「学部を卒業したので、次はポストグラデュエートへ」と名前だけで選ぶと、この違いを見落とします。
私はMUKでピアノ演奏の修士課程を優等で修了しました。留学を考える方と話すときには、学校名と同じくらい、そこでどんな演奏を育てたいのかを聞きたいと思っています。長い作品を通して弾く力、音色の幅、自分で解釈を組み立てる力。次の学びの目的は、人によって違います。
最初に見比べたいのは、次の4点です。
- 現在の学位・専攻と、希望課程の出願資格
- 修了時に得られる学位または修了証
- 主科レッスンと、それ以外の学習内容
- 留学中に取り組む演奏上の課題と、時間・費用
課程名と修了証
修士課程では、定められた学習と審査を経て修士号を取得します。CoPやPGLは高度な演奏を扱いますが、ここで紹介する2課程が授与するのは修了証です。履歴書でも、課程の正式名称を使って学修歴を記します。
「Postgraduate」は、先行する高等教育のあとに学ぶという位置づけを示す言葉です。英語の名称にこの語があるだけで、日本の大学院修士課程と同じ資格になるわけではありません。将来の就職、奨学金、博士課程への出願で修士号が求められるなら、その条件を先に確かめます。
演奏のための学習と、必要な学位の取得。その両方が目的なら、希望する修士課程の内容と比べてみてください。すでに修士号を持ち、特定の教授のもとで演奏に集中したい場合には、ここで紹介する課程を検討する理由が生まれます。
MUK:CoP
- 出願資格
- 学位取得は必須ではありません。修士入学相当の演奏能力と受け入れ枠が必要です。
- 学習の構成
- 2学期・60 ECTS。主科、芸術活動、ポートフォリオ、メンタリング、修了審査。
- 修了時の資格
- Certificate of Performanceの修了証。修士号を授与する課程ではありません。
- 申請の時期
- 随時申請し、試験日程を個別に調整します。
モーツァルテウム:ピアノPGL
- 出願資格
- 該当する演奏分野の修士または同等のディプローム課程の修了。教育系資格による入学は認められていません。
- 学習の構成
- 2学期・20 ECTS。主科の個人授業を中心に、選択科目を追加できます。
- 修了時の資格
- 大学講習課程の修了証。出願前に必要な修士・ディプロームとは別の資格です。
- 申請の時期
- 年1回の入学審査。掲載中の2026年回は終了済みで、次年度の専用案内を確認します。
修了後、別の学位課程へ進む場合
次の大学が出願資格と単位認定を判断します。自動的な進学を前提にせず、将来必要な学位がある方は、その課程の条件も先に確認してください。
MUKのCoP
MUKのCoPは、主に音楽大学や音楽院で学んだ人が、個々の演奏上の関心を深めるための課程です。ただし、専用の出願案内は学位取得を必須条件としていません。必要なのは、入学試験で示す修士入学相当の芸術的能力と、受け入れ枠があることです。ピアノCoPには年齢の上限も設けられていません。
たとえば、日本で別の分野を学びながらピアノの専門的な指導を長く受けてきた方には、経歴を伝えて検討する余地があります。その場合も、準備の中心は演奏です。難曲の題名が並ぶことより、声部を聴き分け、様式に応じた音を作り、作品全体を保てるかが問われる段階です。
カリキュラムは2学期・60 ECTS。主科の芸術実技に加え、芸術活動、ポートフォリオ、メンタリング、修了審査を含みます。主科の授業は課程全体で50分の単位を30回と定めており、合意によりまとめて実施する形も認めています。
ここでは、レッスン以外の活動も含めて学習の方向を相談したいところです。独奏曲を深めたいのか、室内楽の経験を増やしたいのか、演奏会のプログラムを一つ育てたいのか。追加の芸術活動は学習の重点や利用できる環境に応じるので、希望する活動が実際に組み込めるかを確かめます。
ポートフォリオも、実績を並べるだけで終わらせずに活用できます。同じ曲の録音を時期を分けて残し、テンポや音色の選択がどう変わったかを言葉にする。演奏会でうまくいかなかった箇所を、その後のレッスンでどう扱ったかを記す。記録が演奏を聴き直すきっかけになります。学士・修士の正規課程を希望する方は、MUKのピアノ留学ガイドも参照してください。


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モーツァルテウムのPGL
モーツァルテウムのピアノPGLでは、主科に該当する演奏分野の修士、または同等のディプローム課程の修了が求められます。学士号のみでは、この出願資格を満たしません。教職や器楽・声楽教育などの教育系の資格による入学は認めないと、公式案内に明記されています。
日本の修士課程で学んでいても、名称だけで判断せず、何を主専攻として修了するのかを示します。演奏と教育をともに含む経歴なら、主科、授業内容、学位の位置づけが分かる資料を大学に送り、該当するか確認するのが先です。担当教授との会話に加えて、大学側の資格審査が必要になります。
課程は2学期・20 ECTSで、中心となるのは主科の個人授業です。開講状況に応じて選択科目も履修できます。修了は主科授業の継続的な評価に基づき、別の最終審査会を受ける方式ではありません。
MUKの60 ECTSとモーツァルテウムの20 ECTSは、それぞれの学習構成を表しています。単位数だけでレッスンの価値を比較するより、主科に集中する時間、追加の学習、演奏する機会を見てください。すでに演奏の修士を終えた方なら、次の期間に何を更新したいのかが、教授と話す出発点になります。
学士・修士の課程を含めた学校全体の受験については、モーツァルテウムのピアノ受験ガイドで扱っています。PGLの出願では、PGL専用の資格と試験情報を使います。
日本の学位と出願書類
日本からの出願では、卒業・修了証明書の英語名だけでなく、専攻を伝える書類が大切です。モーツァルテウムは、学士・修士の証明書と成績一覧、ほかの書類で主科が読み取れない場合は主科・楽器を確認できる正式な資料を求めています。日本語の書類には、ドイツ語または英語の正式な翻訳を添えます。
卒業証明書に「音楽」としか書かれていない場合、相手がそこからピアノ専攻と推測するとは限りません。成績証明書の主科名や、大学が発行する専攻の証明に何が載るか、母校の窓口で確認しておきます。学位が同等かどうかの判断は、出願先が行います。
修士を修了する前に申し込む場合、モーツァルテウムの案内では在学証明を提出し、修了証明を入学手続きまでに補う形が示されています。日本の3月修了と現地の入学時期を合わせて、どの書類をいつ用意できるかを見ます。「卒業見込み」と「取得済み」を分けて伝えてください。
MUKのCoPでは、これまでの経歴、語学能力、志望動機、レパートリー一覧、試験用の演奏プログラムを準備します。志望動機には、留学後の演奏を想像できる内容が欲しいところです。「もっと上達したい」から一歩進めて、長いソナタで緊張感を保ちたい、伴奏の響きを薄くしながら旋律を歌わせたい、と今聴こえている課題を言葉にします。
経歴書では、学位、私的に受けたレッスン、講習会、演奏会の経験をそれぞれ正確に記します。講習会への参加を大学への在籍と同じように書くと、学修歴が伝わりません。各経験で取り組んだ曲や学んだ内容を、必要な範囲で添えます。
課題曲と試験日程
MUKのCoPは、入学試験の日程を個別に調整する課程です。登録案内では随時の申請が認められています。ピアノ学士・修士の一般日程を、そのままCoPの締切として予定に入れないようにします。
専用案内では、提出書類、演奏、志望目的などについて話す審査が示されています。動画による出願方法もありますが、対面審査を大学が指定する場合があります。日本から申し込むときは、希望する時期と経歴を伝え、自分の申請で必要な形式を確認します。
モーツァルテウムのPGLは、書類確認のあとに動画提出へ進み、通過者がザルツブルクの実技試験を受けます。現在掲載されているのは、2026年2月の出願と6月の実技試験を含む終了済みの回です。次の出願を考える方は、新しい年度の専用案内で日程を確定してください。
課題曲の規模も、先に見ておきたい点です。現在の要項では、バッハ、指定されたベートーヴェンまたはシューベルトのソナタ、ショパンのエチュードを含む技巧的作品、ロマン派、20世紀初頭、1945年以降の作品などを準備します。対面審査ではソナタ全曲と、20分以上のロマン派作品または曲集が含まれます。
また、現地で渡される短い曲を、後の対面ラウンドまでに準備する課題があります。長く練習した曲の完成度とともに、初めての楽譜から拍、声部、性格を読み取る力も磨いておきたいところです。許可されるソナタ、動画と対面の演奏範囲、暗譜の例外は、公式のピアノPGL一覧で曲ごとに照合します。
留学で深めたい演奏
ここからは、課程を選ぶための演奏上の目的を考えてみます。私なら、まず現在弾いている曲を通して聴き、部分練習では見えにくい課題を探します。速いパッセージが整っていても、長い時間をどう組み立てるかには、まだ学ぶ余地があるかもしれません。
たとえばソナタで、主題は自然に歌えているのに、移行部がただ先を急ぐ音楽になってしまう場合です。転調がどこへ向かうか、低音の動きがどのように緊張を作るか、次の主題の前にどれほど余白を置くかを聴きます。移行部だけでなく、その前後も続けて弾くと、時間の配分が演奏全体に与える影響を確かめられます。
緩徐楽章と終楽章を含めて学ぶことにも意味があります。緩徐楽章では、一音のあとに残る響きを聴く時間が長くなります。終楽章では、軽さを保ちながら大きな流れを作る必要があるかもしれません。同じ作曲家の別の顔に触れることで、得意な一つの弾き方から離れて作品に向き合えます。
音色を課題にするなら、「柔らかく弾く」だけでは範囲が広すぎます。ブラームスの間奏曲で、内声にある旋律を追いながら、上声の和音と低音をどう響かせるか。旋律だけを取り出して歌わせたあと、周りの音を戻しても同じ線が残るかを聴きます。ペダルを加えた瞬間に旋律が消えるなら、踏み方と各声部の重さを合わせて考えます。
もう一つの目的は、解釈を自分で選ぶ力です。先生に決めてもらったテンポを再現するだけでなく、なぜその速度で弾きたいのかを説明してみる。別の提案を受けたら、曲のどこで違いが聴こえるかを試す。意見が一致することより、楽譜と音を根拠に会話できることが、次の演奏を育てます。
留学前の計画には、こうした主題を少数選びます。リサイタル一つを育てる、室内楽で相手の呼吸を聴く、苦手な時代の作品に取り組む。入学後の発見も受け止められるように、曲目を増やすことと、演奏を深めることの両方に時間を残します。
語学と費用
モーツァルテウムのPGLでは、ドイツ語の語学証明は求められていません。ただし、希望する教授との授業が何語で行われるかは別に相談します。主科以外の授業や学内の連絡も含めて、実際の学習で使う言語を見ておきます。MUKのCoPについても、学位課程の語学条件を流用せず、事務窓口と担当予定の先生に確認してください。
ピアノの会話では、長い自己紹介より短い音楽の説明が役に立ちます。「ペダルを入れると内声が聴こえなくなります」「この休符のあともフレーズを続けたいです」と言ってから、その場所を弾く。日本語で説明できる内容を、ドイツ語や英語でも少しずつ言えるようにしていきます。
2026/27年度の掲載料金では、MUKのCoPは1学期3,760ユーロ、モーツァルテウムの鍵盤楽器PGLは1学期1,000ユーロです。いずれも別途、学生組合費ÖH-Beitragが必要で、2026/27年度は1学期26.20ユーロと案内されています。
この料金なら、2学期分の受講料はそれぞれ7,520ユーロと2,000ユーロです。住居費、渡航費、楽器を使う環境の費用は別に見積もり、将来の入学年度には料金表を読み直します。一般の学士・修士に表示される授業料と、これらの講習課程の料金を取り違えないことが大切です。
生活の計画では、練習する時間も確保したいところです。費用を賄う予定だけで一週間を埋めてしまうと、レッスンで得たことを試す時間が削られます。授業の実施時期やまとめて受ける可能性、演奏の予定などを相談し、通える日程と練習時間を合わせて考えます。
日本での準備
最初の相談には、現在の学位と専攻、最近のレパートリー、代表的な演奏、次に学びたいことを持ち寄ります。資格について答えを出すのは大学ですが、演奏を聴きながら、その課程で取り組む目的を考えることは日本でも始められます。
教授に演奏を聴いてもらう機会が決まったら、履歴の説明だけでなく、曲を通して質問できる準備をします。気になっている和声、弾きにくさが残る箇所、解釈を迷っている場面を楽譜に残しておきます。海外の教授の体験レッスン準備では、その時間の使い方を詳しく紹介しています。
私のレッスンでは、課程に向けた曲目の検討、長い作品の構成や音作り、音楽の話をするドイツ語・英語を扱えます。教授との連絡や出願の進め方も相談できます。現在の演奏から何を深めたいかを聴き、一人ひとりの学習計画を考えます。
Vienna Piano Schoolでは、2026年10月から池袋・新宿のピアノスタジオで対面レッスンを行います。対象は中学生以上と大人で、通常レッスンは55分・4,800円です。無料30分の体験レッスンでは、これまでの学修歴と現在の曲をもとに、留学に向けた演奏準備をご相談ください。
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