ピアノが弾けない日の練習:楽譜と頭の中の音を確かめる
ピアノに触れない時間には、知っている曲の短い部分を読み、リズムや旋律を頭の中で鳴らし、次に弾くときの課題を決める練習ができます。 音色や左右のバランス、ペダルの響きは、楽器に戻って耳で確かめます。楽譜を見て考えたことと、実際に出した音を行き来するのが、この練習の中心です。
私は「楽譜をよく見ておきましょう」と言うだけでは、何をすればよいのか伝わらないと思っています。「この音は、いつも弾いている長さで合っているか」「左手はどこへ動いているか」。問いを一つ選ぶと、数分でも譜面から発見があります。
今回は、モーツァルトの《きらきら星変奏曲》K.265の主題を使います。よく知っている旋律だからこそ、記憶の中の歌と、目の前の音符を取り違えることがあります。まずは録音を流さず、楽譜を眺めてみてください。
短い範囲と一つの問い
最初は、弾いたことがある曲の4〜8小節ほどを選びます。初めて見る長い曲では、音の高さ、リズム、調、声部を一度に読み取ることになります。旋律がある程度分かっている部分なら、普段見落としていた音符や休符に目を向けられます。
選ぶ場所は、現在の練習と関係のあるところにしましょう。フレーズの終わりで急ぐ、同じ旋律が戻ると続きが分からなくなる、左手を加えるとリズムが変わる。その箇所の楽譜を手元に置き、何を調べたいのか短く書きます。
楽器のない時間には、次の三つを意識すると、読む範囲が広がりすぎません。
- 楽譜には、どの音と長さが書かれているか。
- 旋律の下で、左手は何をしているか。
- 次にピアノを弾くとき、どこを耳で確かめるか。
音が曖昧になった場所には、小さな疑問符を付けます。分からないまま先へ進むと、記憶の旋律で隙間を埋めてしまいます。どこまで読めて、どこから迷ったのかを残しておくと、楽器に戻って調べる場所が決まります。
記憶の歌とモーツァルトの音符
下の譜例は、主題の第1〜8小節です。右手はド・ド、ソ・ソ、ラ・ラと始まります。第4小節を見てください。ここにはソの四分音符が二つあります。歌で覚えた「きらきら星」から、長いソを一つ想像していた人は、譜面との違いに気づくはずです。
同じ音を二つ弾くには、小節の途中でもう一度音を始めます。その二つ目を頭の中でも鳴らし、拍の流れに置いてみましょう。「知っている曲だ」と感じることと、書かれた音符を読んでいることは、ここで分かれます。
楽譜は横にスクロールできます。

第7小節の右手は、レの四分音符、レの付点8分音符、ミの16分音符です。次の第8小節では、ドの二分音符に到着します。拍子は4分の2拍子。第7小節の1拍目はレが一つ、2拍目は長めのレと短いミに分かれています。
まず音名を言いながら、ゆっくり拍を取ってみてください。最初のレで1拍、次のレで2拍目の大部分を使い、最後に短いミが入り、次の小節のドへ進みます。歌の記憶だけでたどると、このミを飛ばしてしまうかもしれません。
三つの細部を確認

第7小節の二つのレは、同じ長さですか?
最初は四分音符で1拍。次は付点8分音符で、四分音符の4分の3の長さです。最後のミは16分音符。短い二音が2拍目を分け合います。
第8小節のドは、何拍続きますか?
二分音符なので、四分音符2拍分です。この小節全体を使います。
第1小節の左手、二つ目のドはどこですか?
最初のドの1オクターブ上です。右手は同じドを繰り返しますが、左手は移動します。
この段階で分かったことは、「もっと集中する」よりも明確です。第4小節の二つ目のソと、第7小節の音の長さ。次に弾くとき、この二か所をそのまま聴けます。楽譜を読む時間が、演奏の中の一つの音に届きます。
第7小節後半から第8小節へかかるスラーにも目を向けます。小節線を越えて音がまとまっているので、ミを弾いて終わりにせず、次のドまで耳を向けます。音符を一つずつ読むところから、どこまでを一続きに聴くかへ、注意を広げてみましょう。
書き込みは、見つけたことの近くに短く残します。たとえば「次のドまで」と書けば、弾き直すときに何を聴きたいか思い出せます。指使いの候補を考える場合も、その番号で望むつながりを弾けるかは、あとで鍵盤に触れて試します。
頭の中でフレーズを聴く
落ち着いて追える速さを決め、旋律を目でたどります。声を出せる場所なら、小さく歌ってみましょう。声を出さないときも、同じ音の繰り返し、上への跳躍、高いところから下りてくる動きを思い浮かべます。長い音に来たら、次の音へすぐ飛ばず、その長さを感じます。
音程とリズムが読めたら、フレーズの向かう先を考えます。第8小節のドへ、どのように着きたいでしょうか。第7小節の最後のミを急いで弾く場合と、拍の中に収める場合を、頭の中で比べてみます。あとで楽器を弾いたとき、どちらの音になっていたかを聴きます。
音のイメージが途切れるなら、範囲を二小節ほどに戻します。確信のない音は、あとで鍵盤や録音で確認してから、もう一度楽譜だけでたどります。曖昧なまま長く続けるより、その音が聞こえるところまで戻る方が、今の課題に合っています。
音名を言うことも、練習の一部です。ただし、ドレミを読み続けるだけでは、フレーズの動きまで届きません。音の高さが分かったら、長さ、向かう先、終わり方へ注意を移します。音符の読み方そのものに迷う場合は、初心者のための楽譜の読み方も参考にしてください。
左手だけをたどる
次は下の段を見ます。第1小節の左手は、低いドと、その1オクターブ上のドを四分音符で弾きます。右手が同じ音を繰り返している間に、左手は移動しています。両手を合わせて何度も弾いていると、この違いを聴かずに通り過ぎることがあります。
続く数小節も、左手だけを目で追います。どこで上がり、どこで下がるか。音域が変わる場所はどこか。最初から両手の全ての音を頭の中で鳴らそうとせず、片方の線を選んでみます。旋律を歌いながら左手の拍を軽く指で取ると、二つの段が同時に進む感覚も確かめられます。
楽譜からは、どの音とどの音が同時になるかが分かります。実際の演奏で左手が旋律を隠しているかどうかは、ピアノの前で聴くことです。「左手が動いても、右手の旋律を追えるか」と譜面の横に書いておきます。静かな場所で考えたことを、次の演奏で試す問いにします。
自分の曲では、長く保つ低音、内声、休符が対象になるかもしれません。いつも耳が追っている旋律から、一度離れてみましょう。よく知っている一段を何度も思い返すより、聴き逃していた四小節から新しいことが見つかる場合があります。
主題が戻る場所
下は主題全体の楽譜です。繰り返しを数えずに、書かれている小節は24小節あります。冒頭の旋律が戻るのは第17小節。右手のド・ドと、左手のオクターブの動きを探してください。その一小節前へ目を戻し、どのように主題へ帰ってくるかをたどります。
楽譜は横にスクロールできます。

- 第1〜8小節
- 最初のまとまり。冒頭へ反復。
- 第9〜16小節
- ソ・ソから始まる部分。
- 第17〜24小節
- ド・ドが戻り、最後は第9小節へ反復。
反復記号も確認します。第8小節の終わりでは冒頭へ、最後の反復記号では第9小節へ戻ります。一度、目だけでその道筋を追ってみましょう。この版の2段目は第13小節から始まっています。紙面の行の区切りと、音楽の区切りは一致していません。
自分の楽譜にも、「2段目」だけではなく、「冒頭の旋律が戻る」「左手の音型が変わる」といった音楽の目印を付けます。その直前の音も一緒に覚えると、戻る場所だけを切り離さずに読めます。ピアノでは、目印の一、二小節前から弾き、そこへ入る流れを確かめます。
暗譜に取り組んでいる人も、こうした目印を使えます。ただし、今回は長い曲を全部覚える課題へ広げず、短い範囲を選んでください。音や構成から暗譜を支える考え方は、ピアノの暗譜を支える4つの記憶で扱っています。
録音で音を確かめる
下のギーゼキングの録音は、主題から第1・第2変奏へ続きます。まず主題を楽譜で追い、第4小節の繰り返すソ、第7〜8小節でドへ向かうリズムを聴きます。音がつかめたら録音を止め、その数小節をもう一度、自分の中で鳴らしてみてください。
ギーゼキング:K.265の主題と第1・第2変奏
Warner Classics / Parlophone. YouTubeで聴く.
次は左手に注意を向けます。聴き終えたあと、すぐ再生し直さず、気づいたことを一つ言葉にしてみます。「最初の小節でオクターブ上がる」「終わりに向かって低音が動く」。それを楽譜と照らし合わせます。録音は、分からなかった音を確かめるためにも使えます。
録音を流し続けていると、次の音も拍も演奏者が供給してくれます。いったん止めると、どこまで自分で音楽を追えているかが分かります。長い時間をかけるより、数小節を聴き、止めて思い出し、譜面を見るくらいの範囲で試しましょう。
ピアノに戻って聴くこと
次の練習では、調べた箇所から始めます。鍵盤に触れる前に、出したい音を思い浮かべ、その細部を聴ける速さで弾きます。今回なら第4小節の二つ目のソ、第7小節のリズム、そして第8小節のドまで続けて確かめます。
頭では分かっていても、指は以前の弾き方へ戻ることがあります。そのときは、問題の小節に前後を少し加えて、声で数える、弾く、聴く、という往復をします。譜読みの理解と、演奏で再現することの間に残っている課題を探します。
続いて、楽譜を見ているだけでは決められなかった点を聴きます。左手を加えても旋律が聞こえるか。フレーズの最後に、意図しないアクセントが付いていないか。選んだ指使いで、思い浮かべた音のつながりを作れるか。書き込みを増やす前に、自分の出した音を受け取ります。
短く録音し、一つの問いを持って聴き返すのもよい方法です。直したかったリズムが出ていれば、もう少し長い範囲に戻します。まだ変わるなら、場所を絞って取り組みます。楽器のない時間に作った音のイメージを、実際の響きで確かめるところまでが、一つの練習です。
レッスンに持っていく問い
読譜やリズム、頭の中で音を聴く練習は、鍵盤でのタッチや両手の動きとも照らし合わせます。調号や臨時記号で読む手が止まる方には、ピアノの調号と臨時記号の読み方も役立ちます。
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