シューマン《メロディー》Op.68-1の練習:短い曲で歌い方と左手を学ぶ
シューマン《メロディー》Op.68-1では、右手の歌と、左手の細かな動きを一緒に聴くことが練習の中心になります。音を順番に弾けたあとも、旋律が和声の上に浮かんで聞こえるか、休符の間も伴奏が流れているかを確かめると、この短い曲の表情が変わります。
《子供のためのアルバム》の第1曲ですが、大人が音色やフレーズを学ぶときにも、よい題材です。冒頭の4分音符と8分音符、途中で高くなる旋律、最後に左手だけが残す音。少ない材料の中に、両手の合わせ方から歌い方まで、聴くことが詰まっています。
私はこの曲をレッスンで扱うとき、最初に右手だけを弾いてもらい、どこまでを一息で歌いたいか聴きます。両手にすると、左手の音を探すたびに、その歌が止まることがあります。その違いを耳に残して練習すると、「間違えずに弾く」の先にある課題が見えてきます。
- 冒頭では、右手の長い音の間に左手が動きます。
- 第5小節からは、旋律の位置と表情が変わります。
- 右手の休符では、左手まで止めずに響きを聴きます。
- 最後は右手のドのあと、左手のドまでフレーズを続けます。
第1〜4小節
最初の歌
ミ・レ・ド・シから。第4小節のあと、冒頭へ反復します。
第5〜8小節
高い音へ
レ、ファ、ラへと、短い歌の始まりが上がります。
第9〜12小節
旋律の帰り
冒頭に似た歌が、右手の下の音を伴って戻ります。
第13〜20小節
もう一度、そして終わりへ
第5小節からの流れをたどり、最後のドへ向かいます。
難易度と取り組む目安
初級の曲を両手で弾く経験があり、4分音符と8分音符を同じ拍の中で数えられる人が、歌い方や伴奏のバランスを深めるために取り組める曲です。片手ずつ音を取れるだけでなく、一方の音を保持しながら、もう一方を動かすことが課題になります。
譜例はハ長調、4分の4拍子で、上下ともト音記号です。左手の最初の音は中央のド。下の段を見て、いつもの習慣でヘ音記号として読まないよう、冒頭の音部記号を確かめます。調号はありませんが、途中にはファ♯やド♯などの臨時記号が出てきます。
右手にも変化があります。冒頭は単音の旋律ですが、曲が進むと2音を同時に弾く箇所や、1つの音を伸ばしている間に同じ手の内側で別の音を弾く箇所が現れます。最初の4小節だけで曲全体の難しさを判断せず、後半の譜面にも目を通します。
まだ両手を合わせるたびに止まる段階なら、短い範囲を先生と一緒に読み、手の動きと拍を整えながら進めます。音符を追うことに余裕が出てきたら、右手の音色、左手の響き、休符の表情を聴く時間を増やします。曲を弾く速さより、何を聴きながら弾けるかが選曲の目安です。
冒頭の歌と左手
第1小節の右手は、ミ・レ・ド・シ。4つの音が下がります。まず右手だけを弾き、音が下がるたびに途切れるのではなく、次の音を待つように聴いてみます。最初のミを強く打ち、そのあとをただ弱くするだけでは、フレーズの途中で歌が消えることがあります。
第1〜4小節
譜例は横にスクロールできます。

第1小節では、右手の1音の間に左手が2音。第4小節の最後は、右手を離しながら左手のソを聴きます。
左手は8分音符で、ド・ソ・ファ・ソ・ミ・ソ・ド・ミと進みます。右手のミと左手のドが同時に始まり、そのミが伸びている間に左手のソが鳴ります。次の拍では、右手のレと左手のファが一緒になります。1拍ずつ、この関係を確かめてから続けます。
左手のソが出るたびに右手を離したり、右手まで弾き直したりしていないか聴いてください。右手は1拍の長さを保ち、左手はその中を2つに分けます。「1と、2と」と数え、右手は数字の位置、左手は数字と「と」の両方で音を出すと、重なりを追えます。
第2小節の前半では、右手も8分音符になります。ここは両手が同じ細かさで動きます。後半では右手が再び4分音符へ戻るため、第1小節の合わせ方をそのまま当てはめず、譜面に書かれた長さを読みます。両手を合わせる練習には、こうした関係の変化も含まれています。


左手の響きを軽くする
左手には細かな音が多いため、動くたびにアクセントが付くと、右手の歌が隠れます。左手だけを静かに弾き、同じ高さのソに戻るたびに音が急に大きくならないか聴きます。低い音へ下りる動きと、ソへ戻る動きを、一続きに試します。
このとき、左手の音をすべて同じ色に平らにする必要はありません。低い音の変化が和声を支え、その上を動く音が流れを作ります。どこが土台になっているかを聴きながら、各音を強く打ち直す癖を減らします。
次に右手を加え、ミ・レ・ド・シの線を追います。左手だけなら静かだったのに、両手にすると大きくなる場合は、最初の1拍へ戻ります。右手のミをよく聴き、その響きの中で左手のソを加える。ここで欲しい量を覚え、次の拍へ進みます。
私は、伴奏を加える前に旋律を歌ってもらうこともあります。声では自然につながるのに、鍵盤では左手の動きに合わせて細切れになる。その差を聞き分けると、強弱記号だけでは伝わらないフレーズの長さを共有できます。
第4小節の休符と反復
最初の4小節には反復記号があります。第4小節では、右手のソのあとに4分休符が来ます。その休符の位置で、左手は低いソを弾きます。右手が止まるから両手とも終わり、という弾き方では、左手が受け持つ最後の拍を落としてしまいます。
右手の最後の音を弾いてから、左手のソまで聴き、次の冒頭へ戻ります。右手を離す動きと、左手で新しい音を出す動きを、ゆっくり合わせてみてください。休符は曲の流れを止める場所ではなく、片方の声が息をする場所として感じられます。
反復するときは、最初のミへ急いで飛び込まないよう、4拍の長さを保ちます。いったん区切った歌をもう一度始めるとき、同じ音色で語り直すのか、少し違う響きにするのか。拍が安定したあとには、繰り返しの表情も聴いてみます。
第5〜8小節の高まり
反復のあと、第5小節ではレ・ド・シ、第6小節ではファ・ミ・レという短い歌が現れます。似た形が、少し高い場所へ移ります。どちらも右手の最後に休符があり、左手は8分音符の流れを続けます。
第5〜8小節
譜例は横にスクロールできます。

短い歌を毎回同じ調子で始めず、高くなる流れを聴きます。第8小節の長いファは、内声を戻したあとも耳に残します。
第7小節では、旋律が高いラから始まります。前のレ、ファ、そしてラへと、始まりの音が高くなる流れを聴くと、第5小節からのまとまりが見えてきます。1小節ごとに同じ強さで始め直すより、次の高さへ向かう気持ちを持って弾きます。
第8小節の後半には、右手でファを伸ばし、その下で別の音を動かす箇所があります。まず上の旋律だけを弾き、ファがどこまで続くか確かめます。そのあと内側の音を静かに戻します。長いファを持つ指に力を足すより、新しく鳴る音が歌を隠していないか聴きます。
ここで手が固まる場合は、保持する音と動く音を譜面で分け、前後を含めた指使いを先生と試します。版に記された指番号も手がかりになりますが、音の長さと移動を見ながら使います。同じ手の中で旋律と和声を聴き分ける練習は、和音の中のメロディーを響かせる方法でも扱っています。
戻ってくる旋律
第9小節からは、冒頭のミ・レ・ド・シが戻ります。ただし最初のミには、その下のドが重なります。最初の単音と同じ感覚で歌うつもりでも、2音を一緒につかむことで、出だしが急に硬くなることがあります。
上のミだけで歌い、次に下のドを加えて聴き比べます。ミの音色を保ち、ドが和声を支える量を探します。この曲では、同じ旋律が戻ってきたときに、響きが少し豊かになります。その変化を、単に「前と同じところ」と読み飛ばさず味わいます。
続く第11小節でも、右手の中に下の音が加わります。旋律を1本の線として追いながら、下の音の出だしを整えます。和音になった音だけが強く飛び出すと、フレーズの途中に思わぬアクセントが生まれます。
第13小節からは、第5小節に似た流れをもう一度たどり、最後のまとまりへ進みます。似ている部分を見つけることは譜読みに役立ちますが、終わり方まで同じとは限りません。とくに最初の4小節の終わりと、曲全体の終わりを弾き比べてみます。
最後のドまで聴く
第17小節から最後までは、旋律をよく聴きながら、伴奏の動きを整える仕上げになります。第19小節の高い音から下り、最後の小節では右手がドへ着きます。そのあと右手は休符になり、左手のドが最後の拍を受け持ちます。
第17〜20小節
譜例は横にスクロールできます。

右手の最後の音で聴くことを終えず、左手が受け持つ最後の拍までフレーズを続けます。
右手のドに着いた瞬間に気持ちまで終えてしまうと、その後の左手が付け足しのように聞こえます。左手の流れを最後のドへ向けて聴き、音を離したあとの余韻まで待ちます。逆に、終わりだからと急に極端な減速を加えると、短いフレーズの形が崩れることがあります。
最初の第4小節ではソ、曲の最後ではドが響きます。2つを続けて弾くと、途中の区切りと、曲が終わる落ち着きの違いを耳で捉えられます。和声の名前を覚える前にも、響きの行き先として感じられる違いです。
ペダルと練習の仕上げ
まずペダルを外して、右手の音が指でどこまでつながっているか、休符で離せているか、左手の音が重なりすぎていないかを聴きます。ペダルで全体を包む前に、この曲の2つの声を確かめます。
ペダルを加える場合は、和声と音域、楽器の響きに合わせます。1小節をずっと踏んだままにすると、左手の動く音が重なり、旋律との輪郭がぼやけることがあります。冒頭にあるpと、譜例のpas vite(速くなく)を、単に小さく遅くする指示として終わらせず、静かな音の中にも歌が続く速さと響きを探します。
仕上げでは、初めから通すだけでなく、第5小節や第17小節から始めてみます。それぞれの最初の音に、どんな音色と方向を持たせたいか考えます。録音を聴くときは、音の間違いを探す回と、旋律だけを追う回を分けると、伴奏の中で歌が消える場所にも耳が向きます。
音色の作り方をさらに試したい方には、ピアノできれいな音を作る練習もあります。この曲で聴いた左手とのバランスは、ほかの短い作品にも持ち帰れる課題です。
レッスンで深めること
レッスンでは、いま弾ける範囲から、歌が途切れる場所、左手が目立つ音、指使いに迷う箇所を一緒に聴きます。同じ短いフレーズを弾き比べ、音の違いを耳に残したうえで、ご自宅の練習へ持ち帰っていただきます。
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