ピアノ初心者が最初にやってはいけない練習方法、5つ
ピアノを始めて数か月が経つと、多くの初心者の方が「練習しているのに、なんとなく前に進んでいない気がする」と感じ始めます。これは、練習の量が足りないからではないことが多いです。むしろ、最初の数か月でつい身についてしまう「練習の癖」が、後で大きな遠回りを作っています。
この記事では、初心者の方に特に多い、五つの「やってはいけない練習」を整理します。どれも、本人にとっては自然な反応です。だからこそ、最初に気づいておく価値があります。一つずつ、なぜ良くないのか、どう変えればよいのかを書きます。
この記事の要点
- いつも曲の最初から弾き直すと、難しい部分の練習量が足りなくなる。
- 速く弾くことを急ぐと、間違いを「速い指」で覚えてしまう。
- 間違いを分析せずに繰り返すと、悪い癖を強化する練習になる。
- 音を聴かずに指を動かす練習は、何時間続けても効果が薄い。
- 「練習した気分」で終わるパターンに気づくと、質が一段上がる。
1. いつも曲の最初から弾き直す
初心者の方の練習で、もっとも多く見るパターンです。途中で間違えると、また最初に戻って弾き直す。気持ちは分かります。「最初から通して弾ける」感覚は、安心感があります。けれど、これを繰り返していると、曲の前半ばかりが上手になり、後半や難しい部分の練習量が圧倒的に足りなくなります。
結果として、曲の前半は何度も弾けたのに、後半は本番でいつも崩れる、というアンバランスな仕上がりになります。多くの方が「弾けていたつもり」で本番に臨み、終盤で止まってしまうのは、この練習癖が原因です。
代わりにできること:難しい部分から練習を始める。あるいは、曲を二、三のセクションに分け、苦手なセクションに先に時間を使う。最後に一度だけ最初から通す。これだけで、仕上がりの均衡が大きく変わります。両手で崩れる場所の直し方は、ピアノ初心者が両手で弾けない理由と、練習で直す順番でも詳しく書いています。
2. 速く弾くことを急ぎすぎる
「ゆっくり弾けたから、本来の速さで弾いてみよう」というのは、多くの初心者がやりがちな判断です。けれど、現場で見ていると、ほとんどの場合、「ゆっくり弾けた」段階がまだ不十分です。一回だけ通せた、ぐらいでテンポを上げてしまっています。
テンポを早く上げると、間違ったまま速い指の動きを覚えてしまいます。これは、覚え直しに時間がかかる、もっとも厄介な癖の一つです。「速く弾く」ことに集中している間は、音色、拍の安定、音と音のつなぎを観察する余裕がなくなります。
代わりにできること:今のテンポで、止まらず、間違えず、音色と拍を意識して、3回連続で弾けるようになってから、メトロノームで2〜3ノッチだけテンポを上げる。退屈に感じるくらいで、ちょうどよい速さです。練習時間の組み立て方は、ピアノ初心者の練習時間はどれくらい?毎日何分から始めるべきかもあわせてご覧ください。
3. 間違えた場所だけを、分析せずに繰り返す
間違えた箇所を集中的に練習すること自体は、よい方法です。問題は、何が原因で間違えているかを考えずに、ただ繰り返してしまうことです。「弾けるようになるまで、もう一回」を5回、10回と続けるうちに、間違ったまま体が覚えていきます。
初心者の方の場合、同じ場所で崩れる原因はおおまかに次のどれかです。指づかいが不自然になっている、リズムを取りこぼしている、片手の精度が足りないまま両手にしている、テンポが速すぎる、前の小節からの流れに無理がある。これらは、原因によって直し方が違います。原因を分けずに繰り返すと、悪い癖だけが強化されます。
代わりにできること:間違えたら、まず止まって、「今、何が原因か」を一文で言葉にする。原因が分からなければ、その小節をテンポ半分に落とし、片手ずつから組み直す。一回一回の繰り返しに「気づき」が伴うように、間に観察を挟みます。
4. 音を聴かずに、指だけ動かす
これは、初心者の段階で見つけるのが、もっとも難しい癖です。本人は「弾いている」つもりですが、実際には「指を動かしている」だけで、音を聴いていません。確認しているのは、「正しい鍵盤を押せたか」だけで、音そのものの質、長さ、つなぎは、頭に入っていない状態です。
この練習の問題は、時間をかけても変化が起きにくいことです。指の動きは少しずつ覚えますが、音楽として育つ部分(音色、フレーズ、リズムの流れ)は、聴いていないので育ちません。何か月続けても、演奏は機械的なまま残ります。
代わりにできること:練習を始める前に、「今日は音の何に注目するか」を一つ決める。立ち上がりの音、音の余韻、二音のつなぎ目、左右のバランスなど、観点を一つだけに絞る。短い練習でも、聴く対象を持って弾くと、音が変わり始めます。音色の聴き方は、ピアノ初心者がきれいな音を出すには?強く弾くだけではない音の作り方に詳しく書いています。
5. 「練習した気分」で終わってしまう
もっとも気づきにくく、もっとも一般的な癖です。30分なり1時間なり、ピアノの前に座って、何かを弾いた。気分としては「練習した」感覚があります。けれど、終わった後に「今日、何が変わったか」を一文で言えない場合、それは練習ではなく「音出しの時間」だった可能性があります。
これは、本人を責めるための話ではありません。むしろ、ピアノの前に座る習慣を作れている時点で、すでに大切な土台はできています。問題は、その時間の中に「変化を作る作業」が入っていないことです。同じ場所を、同じテンポで、同じ崩れ方で、なんとなく繰り返している。これでは、量を増やしても進みません。
代わりにできること:練習を始める前に、「今日の目的」を一文で書く。「右手の三拍目の指づかいを直す」「左手の付点リズムを声で数えながら弾く」「最初の四小節だけ、止まらずに通す」。練習を終えるときに、「今日変わったこと」を一文で書く。これを続けるだけで、「練習した気分」と「実際の練習」が分けられるようになります。
今日からの小さな変更点
- 難しい部分から練習を始める。最初に戻る回数を減らす。
- テンポを上げる前に「3回連続で安定したか」を確認する。
- 間違えたら、まず原因を一文で言葉にしてから繰り返す。
- 今日の練習で聴く対象を、一つだけ決めて弾く。
- 練習の最初と最後に、目的と変化を一文ずつ書き残す。
悪い癖の自覚から、練習の質はすぐに変わる
ここで挙げた五つの癖は、ほぼ全員の初心者が、最初の数か月で一度は通る道です。完璧に避ける必要はありません。むしろ、自分の練習に当てはまるものに気づいた瞬間から、練習の質は変わり始めます。
そして、自分では気づきにくい癖もあります。手首の落ち方、肩の力み、息の止め方、間違えた直後の反応など、本人の意識の外で起きていることは、ほとんど自覚できません。半年以上独学で進んでいて、同じ場所で止まっている感覚がある場合、上達しない理由の方も併せてご覧いただくと、もう少し深い原因の整理がしやすくなります。
練習の癖は、文章で読むより、実際の演奏を聴いてもらう方が、ずっと早く見えてきます。初回体験レッスンでは、現在の練習の中で何を最初に変えると一番効くかを、一緒に整理します。継続を前提にしたものではないので、いまの練習を見直す機会として使っていただいて構いません。講師の背景は、講師プロフィールもあわせてご覧ください。
よくある質問
悪い癖が自分にあるか、どう気づけばいいですか?
五つの癖をリストとして手元に置いて、練習の終わりに「今日、どれをやっていたか」を振り返ってみてください。最初は二つや三つ当てはまることが多いですが、それで構いません。気づくこと自体が、最大の一歩です。完璧に避けようとせず、徐々に減らしていくぐらいで十分です。
癖を直そうとすると、練習が楽しくなくなりそうです。
最初は少し堅苦しく感じることがあります。でも、目的を持って弾いた練習の後の達成感は、なんとなく弾いていた頃よりも、はるかに大きいです。「練習中の自分」だけでなく、「練習の前と後の自分」を見て、変化を確認するようにすると、楽しさの種類が変わっていきます。
独学だと、どれを直すべきか判断が難しいです。
優先順位は、おおまかに次のとおりです。「練習した気分で終わる」を直す>「音を聴かずに指だけ動かす」を直す>「速く弾きすぎる」を直す>「分析せずに繰り返す」を直す>「いつも最初から弾き直す」を直す。上の二つは、毎日の練習の枠組みを変えるだけで、すぐ取り組めます。下の三つは、具体的な曲の中で意識する形になります。
レッスンを受けていないと、悪い癖は気づけませんか?
完全に独学でも、気づくことはできます。録音、動画撮影、上手な演奏との聴き比べを習慣にすると、自分でも見えてくることが増えます。ただ、姿勢や手首の癖など、本人が見えにくい部分は、第三者に一度見てもらうのが圧倒的に早いです。月に一回や数か月に一回の点検レッスンでも、その役割は果たせます。独学とレッスンの組み合わせ方は、ピアノは独学でも上達できる?に詳しく書いています。
五つ全部を一度に直すべきですか?
一度に直そうとしない方が、結果として早く直ります。一週間に一つずつ、意識する対象を変えていく形がおすすめです。「今週は、テンポを上げないことだけ意識する」「来週は、音を一つ聴きながら弾くことだけ意識する」。一つに絞ると、体に入りやすく、定着しやすくなります。
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