ピアノ初心者におすすめの簡単なクラシック曲と、選び方
「ピアノを始めたばかりですが、おすすめのクラシック曲は何ですか」という質問は、初心者の方からよく受けます。多くの方が、まずは「エリーゼのために」「ノクターン Op.9-2」「別れの曲」「トルコ行進曲」など、よく知られた名曲を弾きたいと考えます。気持ちはよく分かります。憧れの曲を弾きたい、というのが、ピアノを始める動機の一つだからです。
ただ、これらの有名曲は、最初の数か月で取り組むには、ほぼ確実に難しすぎます。譜読み、両手の合わせ、ペダル、テンポの安定、音色の作り込み、どれも初心者には負担が大きすぎて、途中で止まってしまうケースがとても多いです。この記事では、本当に取り組みやすいクラシック曲とは何か、有名曲のうち見た目より難しいものはどれか、そしてどう曲を選んでいけば長く続くかを、整理して書きます。
この記事の要点
- 初心者向けの曲は、難易度・読譜・音域・ペダルの4観点で選ぶ。
- 有名な曲ほど、見た目より難しいものが多い。
- 定番の初心者向け作曲家は、ブルクミュラー、バッハ(アンナ・マグダレーナ)、シューマン、バルトーク、カバレフスキー。
- 曲だけ進めると、姿勢・拍・読譜などの基礎が抜けやすい。
- 多くのクラシック楽譜は、IMSLPで無料で入手できる。
クラシック初心者向けの曲を選ぶ4つの基準
「初心者向け」と書かれた曲集は数多くありますが、その中にも本当に最初の数か月に向くものと、もう少し進んでから取り組むべきものが混ざっています。曲を選ぶときは、見た目の印象や曲の長さではなく、次の四つの観点で判断するのが現実的です。
曲選びの4つの観点
1. 手のポジション:手の位置が頻繁に変わらないか。最初の数か月は、ポジション移動の少ない曲が圧倒的に弾きやすい。
2. リズムの単純さ:四分音符と八分音符が中心か。付点、シンコペーション、複合拍子が多い曲は最初には向かない。
3. 読譜の負担:調号が多すぎないか、加線がほとんどないか。シャープやフラットが1〜2個以内の曲が現実的。
4. ペダルの必要性:ペダルなしで成立する曲か。ペダルを使った表現は、もう少し後の段階で十分。
この四つを満たす曲は、見た目には地味なものが多いです。けれど、最初の半年でこういう曲を何曲か通せると、その後の有名曲への進み方が大きく違ってきます。読譜の進め方は、楽譜が読めなくてもピアノは始められる?初心者が最初に読むべき音符もあわせてご覧ください。
本当に簡単な曲と、見た目より難しい曲
初心者の方が「弾けそう」と感じる有名曲のうち、いくつかは、実際には中級以降に取り組むべき難易度を持っています。これは曲の良し悪しではなく、入口として向くかどうかの話です。先に避けたほうがよい代表例を挙げます。
見た目より難しい有名曲(最初は避ける)
- ベートーヴェン「エリーゼのために」:冒頭は弾きやすいが、中間部のアルペジオと左右の独立で初心者は確実に止まる。
- ショパン「ノクターン Op.9-2」:左手のオクターブ伴奏、右手の装飾音、ペダル、すべて初心者には重い。
- ショパン「別れの曲 Op.10-3」:冒頭の旋律は美しいが、中間部に高度な技術が要る。
- モーツァルト ピアノソナタ K.545「ソナタ・ファシレ」:「やさしい」と名づけられているが、音階・分散和音・装飾が連続し、実際は中級曲。
- サティ「ジムノペディ 第1番」:音は少ないが、ペダル・拍感・音色の繊細さが要求される。
これらは「いつかは弾きたい曲」のリストには素晴らしい候補ですが、最初の数か月で取り組むと、譜面の読み解きで疲れ、姿勢や音色を整える余裕がなくなります。難しい曲を最初に選ばないほうがいい理由は、ピアノ初心者は何から始めるべき?最初の一か月で大切なことでも触れています。
クラシック初心者におすすめの定番曲
逆に、最初の半年から一年に取り組みやすく、クラシックの基礎を作るために本当におすすめできる曲を、作曲家ごとに整理します。どれも、長く弾かれ続けている定番です。楽譜は、IMSLP(Petrucci Music Library)で無料で入手できるものが多くあります。
ブルクミュラー「25の練習曲 Op.100」
初心者から中級の入口にかけて、もっとも広く使われている曲集の一つです。一曲が短く、一曲ごとに学べる技術が明確で、音楽的な価値も十分にあります。最初に取り組む候補としては、第2番「アラベスク」、第3番「牧歌」、第4番「子供の集会」あたりがちょうどよい難易度です。手のポジション移動が控えめで、左手の伴奏もシンプルです。
バッハ「アンナ・マグダレーナのための音楽帳」
バッハが妻のために書いたとされる小品集です。ト長調のメヌエット(BWV Anh.114、現在は別作曲家とされる)は、両手の動きを学ぶ最初の一曲として、長く使われてきました。ポリフォニー(二つの旋律が同時に進む音楽)の入口として、これ以上に向く曲は多くありません。
シューマン「子供のためのアルバム Op.68」
シューマンが子どもたちのために書いた、43曲からなる曲集です。第1番「メロディ」、第2番「兵士の行進」、第10番「楽しき農夫」は、初心者から取り組める難易度で、音楽的にも豊かです。シューマンらしい和音の動きや、フレーズの呼吸を学ぶのに向きます。
バルトーク「子供のために」「ミクロコスモス」第1巻
20世紀の作曲家の中で、初心者教育のためにこれだけ綿密に曲を残した人は他に多くありません。ミクロコスモス第1巻は、最初の数曲は片手のみ、数音だけで構成されていて、まったくの未経験者でも取り組めます。リズム感と現代的な音感を、最初から自然に育てられます。
カバレフスキー「子供のためのピアノ小曲集 Op.39」
ロシアの作曲家カバレフスキーが初学者のために書いた24曲。1曲ずつが短く、それぞれにキャラクターがあり、子どもにも大人にも親しまれます。第19番「トッカティーナ」あたりは、初心者でも仕上げると満足感のある曲です。
弾きたい曲が難しすぎるときの、現実的な進め方
「ノクターン Op.9-2を弾きたい」「エリーゼのためにが弾けるようになりたい」という気持ちは、まったく否定する必要がありません。むしろ、その目標があるからこそ続けられる方が多くいます。問題は、いきなりその曲に取り組むと、ほぼ確実に途中で止まることです。
現実的な進め方は、次のように整理できます。まず、目標の曲に必要な技術を、いくつかの要素に分解します。ノクターン Op.9-2であれば、左手の広いオクターブ伴奏、右手の装飾音と細かいフレージング、ペダル、テンポの自由さ、と分けられます。それぞれの要素を、もっと易しい曲で先に身につけます。たとえば、ブルクミュラーの中で左手の伴奏型を学び、シューマンで装飾音とフレーズの呼吸を覚え、別の曲でペダルの基本を学ぶ、という形です。
半年から一年、こうした「準備の曲」に取り組んだ後で、目標の曲に戻ると、譜読みだけで疲れることはなくなり、音楽的にも仕上がります。遠回りに見えますが、これがもっとも早く憧れの曲にたどり着く道です。
曲だけ進めると抜けやすい基礎
曲を進めていくこと自体は楽しい時間ですが、曲ばかり弾いていると、抜けやすい基礎がいくつかあります。半年・一年経ったときに、「弾ける曲は増えたけれど、ある場所で必ず崩れる」状態になりやすいです。
抜けやすいのは、姿勢、手の形、拍の安定、音色の作り方、読譜の正確さ、です。これらは、曲を弾く中で自然に身につく面もありますが、意識せずに進めると、間違った癖のまま定着します。最初の一か月から、曲と並行して、これらの基礎を意識する時間を短く入れる方が、結果として早く進みます。
練習時間の組み立て方は、ピアノ初心者の練習時間はどれくらい?毎日何分から始めるべきかに書いていますが、10分の練習でも、「今日は曲」「今日は基礎」と日替わりにする形が、もっとも続きやすく、もっとも抜けが少ないです。
レッスンで曲を選ぶときの考え方
初心者の方とレッスンで曲を選ぶときに、私が見ているのは、次の三つのバランスです。
一つ目は、本人が弾きたい曲、または弾きたいジャンルです。動機を保つために、これを否定することはしません。二つ目は、現在の技術段階に合っている曲です。本人の希望と段階が一致しない場合、その曲を半年後・一年後にどう扱うかをまず一緒に決めて、いまは別の準備曲から始めます。三つ目は、これから育てたい技術要素です。読譜、両手の独立、ペダル、音色、フレーズ。曲ごとに、何を学んでいるかが見えていると、練習に意味が生まれます。
独学の場合、自分だけでこの三つのバランスを取るのは難しい部分があります。とくに「現在の段階に合っているか」の判断は、自分では正確には分かりにくいです。独学とレッスンの組み合わせ方は、ピアノは独学でも上達できる?レッスンを受けたほうがいい人の特徴もご覧ください。
弾きたい曲がある方は、まずそこから話してください
初心者の方の中には、「弾きたい曲が難しすぎたら、先生に笑われるのではないか」と心配される方がいます。むしろ逆です。弾きたい曲があることは、ピアノを続ける上で大きな力になります。レッスンの場では、その曲を否定するのではなく、いまの段階からどう近づいていくかを一緒に整理します。
弾きたい曲がある方は、初回体験レッスンで、現在のレベルと合わせて、どこから始めるべきかを一緒に整理できます。準備曲のおすすめや、無理のないペースも、その場で具体的にお伝えします。講師の背景については、講師プロフィールもあわせてご覧ください。
よくある質問
エリーゼのためには本当に難しいですか?YouTubeでは初心者が弾いていますが…
冒頭の有名な部分だけなら、初心者でも数か月で形にできます。問題は中間部です。アルペジオ、左右の独立、テンポの揺らし、ペダル、すべてが急に難しくなります。最初から最後まで通すなら、半年から一年の準備が現実的です。「冒頭だけ弾けるようになった」段階で満足するか、最後まで取り組む準備をするかは、自分の目標次第です。
ブルクミュラーやバッハは、なぜ昔から使われているのですか?
これらの曲集は、初心者が技術的に学べる要素と、音楽的に楽しめる要素が、無理なく組み合わさっているからです。短く、明確な学習目的があり、続けやすく、音楽として聴き応えがある。長く使われ続けているのは、それだけの理由があります。新しい曲集もたくさんありますが、これらの古典的な選択肢に勝るものは多くありません。
楽譜はどこで手に入れますか?
著作権の切れたクラシック楽譜は、IMSLP(Petrucci Music Library)で無料でダウンロードできます。ブルクミュラー、バッハ、シューマン、カバレフスキーの初期作品は、ここから入手可能です。原典版を購入する場合は、ヘンレ版、ベーレンライター版、ウィーン原典版などが、信頼できる校訂で広く使われています。
クラシックではなく、J-POPやアニメ曲から始めてもいいですか?
もちろん始められます。ただし、J-POPやアニメ曲のピアノアレンジは、難易度の幅が非常に広く、見た目より難しいものが多いです。技術段階に合わせたアレンジを選ぶ必要があります。クラシックの定番曲は、難易度が比較的整理されているので、最初の数か月だけは並行して取り組む方が、結果として早く進みます。
一曲をどれくらいで仕上げるのが普通ですか?
曲の長さと難易度によりますが、初心者向けの短い曲(ブルクミュラーの1曲、シューマンの1曲など)であれば、二週間から一か月で形になります。「形になる」とは、止まらずに、ある程度のテンポで通せる状態のことです。「仕上がる」(音色やフレーズまで含めて)にはもう少し時間がかかります。長すぎる曲を抱え込まず、短い曲を多く弾く方が、初心者の段階では成長が早いです。
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