ミュンヘン音楽演劇大学のピアノ留学:演奏・教育課程と受験準備
ミュンヘン音楽演劇大学(HMTM)でピアノの学士課程を志望する場合、演奏を中心に学ぶ課程と、演奏に加えて楽器教育を専門的に学ぶ課程があります。どちらも4年間・240 ECTSのBachelor of Musicです。履修する授業、入学試験、必要なドイツ語の水準が異なるため、「ピアノ科」という名前から一歩進んで課程を選びます。
演奏を続けながら教えることにも関心があるなら、両方のカリキュラムを読んでみてください。演奏中心の課程にも教育の導入科目があり、芸術・教育の課程でも主専攻のピアノを継続して学びます。何を中心に、どのような経験を積みたいかが選択の軸になります。
日本から準備するときは、最初に次の四点を整理しましょう。
- 課程と資格:演奏中心か、楽器教育も専門的に学ぶか。副専攻を加えるか。
- 実技の曲目:動画と現地試験で、それぞれ何を用意するか。
- 関連科目と言語:楽典・聴音に加え、選ぶ課程ではどんな会話が必要か。
- 出願書類と日程:現在の学歴、証明書の言語、提出期限、現地での試験期間。
この記事は、主に学士課程の第1学期へ入学する方を対象にしています。大学の課程案内と試験要項は、末尾の参考資料から確認できます。
二つのピアノ学士課程
公式ページでは、Klavierという専攻名のあとにある課程の表記を見ます。künstlerische Studienrichtungが演奏を中心とする芸術課程、künstlerisch-pädagogische Studienrichtungが芸術・教育課程です。修了時の学位は同じBachelor of Musicですが、授業の組み合わせと専門的に育てる力が変わります。
いずれもBachelor of Music、8学期・240 ECTS。
| 項目 | 芸術課程 | 芸術・教育課程 |
|---|---|---|
| 公式の課程名 | 芸術課程künstlerische Studienrichtung | 芸術・教育課程künstlerisch-pädagogische Studienrichtung |
| 主専攻 | 芸術課程ピアノ。独奏・共演を含む演奏の学び。 | 芸術・教育課程ピアノ。演奏の学びと、教えるための専門的な実践。 |
| 教育の学び | 芸術課程楽器教育の導入科目を含む。 | 芸術・教育課程指導法・教育実習などを継続して履修。副専攻を加える構成もある。 |
| 入学登録時のドイツ語 | 芸術課程B1 | 芸術・教育課程B2 |
芸術・教育課程では、ピアノを教えるための資格を取得します。さらにNebenfachという副専攻を選ぶと、別の楽器、声楽、基礎音楽教育などの分野でも教育資格を目指す構成になります。副専攻を加える場合は、その分野の入学試験と履修内容も確認してください。
ここでいう楽器教育と、学校の教科として音楽を教えるLehramtは、別の課程として案内されています。将来教えたい相手や場を思い浮かべ、大学の課程名と照らし合わせましょう。日本で使ってきた学科名だけを当てはめると、授業内容の違いを見落とすことがあります。
私は、演奏と指導のどちらにも、相手の音をよく聴く力が必要だと感じています。ただし、自分で弾けることを、別の人の学びに変えるには工夫が要ります。その過程を面白いと思えるかどうかも、教育を専門的に学ぶ課程を考える手掛かりです。
カリキュラムと学びたい音楽
演奏中心の学習計画には、主専攻の実技に加えて、室内楽、歌曲伴奏、音楽家としての専門性を育てる科目などが組まれています。楽典・聴音、音楽史、ピアノ音楽の歴史、楽器教育の導入も含まれます。専攻実技で扱う作品を、複数の授業から考える構成です。
たとえば、ソナタの弱起をどう弾くかを考えてみます。最初の音を目立たせるのか、次の強拍に向かう動きとして聴かせるのか。フレーズの区切り、和声、拍の重さを確かめると、同じ音符から違う表情が生まれます。分析で考えたことを実際の音で試す時間が、解釈を育てます。
室内楽では、その弱起に別の奏者が応じます。自分には自然に感じられる間合いでも、相手が入る瞬間を聴くと、もう少し早く方向を示したいと気づくかもしれません。独奏の中で完結していた呼吸を、他の楽器と共有する経験になります。
芸術・教育課程には、楽器別の指導法、教育実習、コミュニケーション、音楽学校での実習やプロジェクト、大人を含む学習者への指導を扱う科目があります。主専攻の演奏を磨きながら、教えるための観察と実践にも継続して取り組みます。
教える場面なら、「もう少し歌うように」という言葉をどう示すかが課題になります。まず一つのフレーズを二通りに弾き、生徒さんが違いをどう聴いたかを尋ねる。次に、どの音を長く感じたか、どこに向かっていたかを一緒に確かめます。説明を増やす前に、相手が聴き取った内容を知ることが大切です。
HMTMの現在の資料は、演奏中心の課程では2025/26年冬学期、芸術・教育課程では2024/25年冬学期以降の入学者向けなど、入学時期ごとに分かれています。自分の入学年度と、副専攻の有無に対応する学習計画を使ってください。


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動画審査と現地の実技
どちらの課程も、まず動画による事前審査があります。演奏中心の学士では15分、芸術・教育の学士では約15分の動画が示され、古典派ソナタの主要楽章、エチュード、自由選曲の作品を用意します。演奏中心の課程では、このエチュードがショパンの作品に指定されています。
動画のための曲と、現地で弾く曲は同一でなくてもよいとされています。また、作品の途中の技術的な編集は禁止され、別の作品と作品の間のカットは認められています。大学のFAQでは、動画も出願期限までに提出する必要があると説明されています。
現地試験に向けて準備する曲目は、動画より広い範囲に及びます。下の比較は、第1学期への入学を志望する場合の主専攻ピアノの内容です。
学士課程の第1学期への入学。動画審査より広い範囲を用意します。
| 区分 | 芸術課程 | 芸術・教育課程 |
|---|---|---|
| バロック | 芸術課程1作品 | 芸術・教育課程1作品 |
| エチュード | 芸術課程2曲。少なくとも1曲はショパン。 | 芸術・教育課程1曲 |
| 古典派 | 芸術課程ベートーヴェンのソナタ、または変奏曲Op.34・35・120のいずれか。加えてハイドンまたはモーツァルトの1作品。 | 芸術・教育課程ウィーン古典派のソナタ1曲。 |
| ロマン派 | 芸術課程1作品 | 芸術・教育課程1作品 |
| 20・21世紀 | 芸術課程1作品 | 芸術・教育課程1作品 |
| 暗譜 | 芸術課程すべての作品。 | 芸術・教育課程20・21世紀の作品を除き、暗譜。 |
副専攻を希望する場合
芸術・教育課程で副専攻を選ぶ場合は、ピアノの曲目に加えて、その副専攻の試験を準備します。要項には楽器・声楽・基礎音楽教育ごとの条件が記載されています。
実技の試験時間が約15分でも、用意する全曲を15分に収めるという意味ではありません。演奏中心の要項では、審査委員会が演奏箇所を選び、指定作品が未完成または一部しか準備されていない場合は不合格になると明記されています。ソナタなら楽章を含め、要項が求める作品全体を準備します。
曲目を並べたら、それぞれの音楽がどんな役割を持つかも考えましょう。対位法のある作品では声部の関係を、古典派では拍と構成を、ロマン派では旋律の息と和声の色を聴きます。作品の数をそろえたあとに、音楽の違いを演奏の中で育てていきます。
私は、得意な一曲の仕上がりと、プログラム全体の準備を分けて聴きます。最もよく弾ける曲だけでは、他の作品で時間が必要な理由が見えにくいからです。録音を順に聴き、声部が曖昧になる場所、形式を見失う場所、暗譜が音の勢いだけに頼っている場所を探します。
撮影時の音と画面については、ピアノの動画審査に向けた確認事項で詳しく扱っています。曲目の条件は、HMTMの志望課程の要項を基準にしてください。
芸術・教育課程のグループ試験
芸術・教育課程の第1・第3学期への入学試験には、4〜6人の小グループで音楽をつくる課題があります。二つの出発材料から一つを選び、約15分で音楽的な結果をまとめ、そのあと5分間で個人の振り返りを書きます。編曲や即興につながる材料が想定されています。
ここでは、ピアノの独奏とは違う参加の仕方も練習しておきたいところです。相手の提案を聴き、自分の考えを短く伝え、全員で試した音から次の判断をする。弾く力に加えて、音楽を共有しながら考える力を使います。
準備の例として、一人が短い問いかけの旋律を弾き、別の人がそれに応じる形をつくってみましょう。最初の旋律が終わる前に返事を始めると、会話が重なったように聴こえます。少し間を置けば、問いと答えが分かれます。どちらの関係にしたいかを話し、もう一度弾きます。
全員が同時に主張を増やすより、一つの案を最後まで聴く時間が役立ちます。「後の旋律をもう一度聴こう」「ここは同じリズムで返そう」と、試せる提案にしてみてください。音楽が変わったときに、その変化を誰かが聴き取って言葉にすることも、共同作業の一部です。
振り返りでは、何をしたかと何が聴こえたかを対応させます。「二つの旋律の間を長くしたら、後の旋律が返事として聴こえた」というように、試した内容を記します。実際の試験では、与えられた材料とその場の参加者に向き合ってください。
楽典・聴音とドイツ語
第1学期への入学では、両課程とも楽典と聴音の準備が必要です。要項には、楽典の筆記60分、聴音の筆記約60分、聴音の実技約5分が示されています。大学が公開する模擬問題を使い、内容と設問の書き方を確かめましょう。
楽典では、音部記号、音程、音階、三和音と転回形、速度や表情などの用語を扱います。日本語で理解している内容についても、ドイツ語の指示を読んで答える練習を加えます。たとえば「書きなさい」「名前を答えなさい」「並べなさい」では、求められる返答が変わります。
聴音の実技には、聴いた旋律の始まりを歌う、楽器で再現して続ける、やさしい初見視唱などがあります。楽譜を見て弾く習慣に加えて、短い音楽を耳から受け取り、自分の声や楽器に移す時間を持ちましょう。
練習では、先生が弾いた旋律を、鍵盤に触れる前に歌ってみます。次にピアノで確かめ、音が違った場合は、その前後をもう一度聴きます。旋律全体の流れを覚えていたのか、最初の音から順に探していたのか。自分の聴き方を知ることが、次の練習内容を決めます。
ドイツ語の証明は、演奏中心の学士がB1、芸術・教育の学士がB2です。必要な証明書は入学登録時までに提出します。Goethe、telc、ÖSDなどの指定された試験・級を、大学の認定リストと照らし合わせて選んでください。
音楽の会話も並行して準備します。たとえば「もう一度、終わりを聴きたい」「この旋律に返事をしたい」「前の演奏より拍が安定した」と、自分の意図や聴いた結果を伝える練習です。音楽留学のドイツ語と語学証明では、証明書とレッスンの会話をそれぞれどう準備するかを解説しています。
日本の証明書と出願
HMTMの出願はオンラインのポータルで行います。日本の学校に在籍している方は、卒業や修了の時期、現在提出できる証明書、書類が発行される言語を早めに確かめましょう。提出項目は、志望課程と自分の学歴に合わせて確認します。
大学のFAQでは、現在の学業を終える前の出願も可能で、最終的な修了書類は入学登録時までに追加提出すると説明されています。自分の在籍状況を正確に示し、いま提出する書類と、後から提出する書類を整理してください。
外国の証明書・証書はドイツ語訳が必要ですが、英語で発行されたものは翻訳不要とされています。ドイツ語訳には、当該言語について公的に任命され、宣誓した通訳・翻訳者による認証が必要です。学校に英文の証明書を依頼できる場合は、その書類が要求項目を満たすかも確認します。自己訳を正式な認証訳として提出することは避けてください。
すでに日本の大学で学んだ方も、入学試験の関連科目が自動的に免除されると考えず、希望する入学学期の要項を読みます。HMTMのFAQは、その学期で指定されている必修科目の試験は、他大学での学習歴があっても受ける必要があるとしています。
副専攻を希望する場合は、出願時にその選択を正しく入力します。あとから関心のある授業を一つ増やすという話ではなく、試験と履修の構成に関わる選択です。ピアノの練習時間と合わせて、副専攻にも継続して取り組む計画を立てましょう。
出願期限とミュンヘンでの受験
両課程の案内にある出願期限は3月5日で、大学の共通案内は23時59分を締切としています。現在公表されている現地試験の期間は、2027年6月12〜22日です。出願ポータルで対象年度を確認し、動画を含めた提出物をその受付に合わせて準備します。
現地試験はミュンヘンで行われ、オンラインの試験への置き換えは、一部であっても認められていません。関連科目の試験に進むと、複数日にわたって滞在する場合があります。実技だけの日付を見て帰国便を決めず、大学からの案内と試験日程に合わせて渡航を計画してください。
慣れていない楽器で弾く経験も、準備に加えたいものです。鍵盤の反応、低音の伸び、部屋の響きを聴き、冒頭の数小節を試します。自宅と同じ強さで弾くことに固執せず、どんな音を届けたいかを保ちながら、そのピアノでの弾き方を探します。
学費の欄では、両課程とも学期ごとの負担金が案内されています。それとは別に、住居、生活、渡航、出願に必要な費用を考えます。まず受験までの準備、次に入学後の生活というように、時間の長さを分けて計画を見てください。
日本で進めるピアノ留学準備
志望課程が決まったら、いま弾いている作品を要項に当てはめ、これから育てる曲と並べてみましょう。曲を増やす時期、全体を通して聴く時期、ドイツ語や聴音に時間を使う時期を考えます。作品ごとの仕上がりと、プログラム全体を保つ力の両方を見ていきます。
私のレッスンでは、楽譜に書かれたことと、実際に聴こえていることを行き来しながら準備を進めます。志望校の条件を満たす曲目を選ぶとともに、その作品で何を表現したいかを深めます。音楽のためのドイツ語、出願の整理、教授との連絡についても相談できます。
Vienna Piano Schoolは中学生以上の方と大人を対象に、現在オンラインで指導しています。東京の池袋・新宿のピアノスタジオでの対面レッスンは、2026年10月からを予定しています。講師の背景と指導についてをご覧いただき、無料30分の体験レッスンでは、HMTMの志望課程と準備中の曲をお知らせください。演奏を聴きながら、時間をかけて育てたい課題を一緒に考えましょう。
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