ハノーファー音楽大学のピアノ留学:学士・修士・ソリスト課程の違い

Enea — Vienna Piano School 主宰
Enea

ハノーファー音楽演劇メディア大学でピアノを学びたい方へ。学士・鍵盤楽器修士・Soloklasseの違い、日本の学歴と出願資格、全楽章の準備、ドイツ語要件を詳しく解説します。

ハノーファー音楽演劇メディア大学(HMTMH)でピアノを学ぶ場合、まず区別したいのは、ピアノ学士課程、鍵盤楽器修士課程、Soloklasse(ソリスト課程)の三つです。高校卒業後の専門教育、日本の音大を卒業した後の研鑽、修士修了後の演奏活動では、出願する課程も、留学先で取り組む音楽も変わります。

日本から調べると、「ピアノの修士」と「ソリスト課程」はどちらも高度な演奏を学ぶ場所に見えます。しかし、ハノーファーでは入学前の資格、履修する科目、修了時の演奏会に明確な違いがあります。好きな先生を探すことと並行して、次の4点を確認してください。

  • これまでの学歴:卒業・修了資格、ピアノの主専攻、成績証明書。
  • 学びたい内容:基礎を含む専門教育、特定の演奏分野、継続的な演奏会活動。
  • 演奏曲目の範囲:一つの楽章か全曲か、動画と現地試験で何が変わるか。
  • 受験する年度:志望課程の最新募集と、その年度に適用される条件。
2015年12月に撮影されたハノーファー音楽演劇メディア大学の本館

学士・修士・Soloklasse

大学の正式名称はHochschule für Musik, Theater und Medien Hannoverです。ピアノの学士はKlavier B.Mus.、修士はTasteninstrumente M.Mus.という名称で掲載されています。Tasteninstrumenteは「鍵盤楽器」の意味で、修士ではピアノのほかにオルガン、チェンバロ、フォルテピアノも主専攻の選択肢になっています。

学士の標準修業年限は8学期、修士とSoloklasseは各4学期です。SoloklasseはKonzertexamenという演奏家の修了試験につながる課程で、修士の別名ではありません。それぞれの入学条件と実技審査があり、前の課程を終えると自動的に次へ進む仕組みでもありません。

ハノーファーの三つのピアノ課程

01 · ピアノ学士

Klavier B.Mus.

8学期・240単位

主専攻に加え、理論・歴史・教育法・共演などを幅広く学ぶ。

入学前の資格・審査
学校の卒業資格と芸術的適性を審査
修了時の学位・資格
Bachelor of Music

02 · 鍵盤楽器修士

Tasteninstrumente M.Mus.

4学期・120単位

ピアノを主専攻に、実技の関連科目、理論、プロジェクトを組み合わせる。

入学前の資格・審査
関連する学士等と芸術的適性を審査
修了時の学位・資格
Master of Music

03 · ソリスト課程

Soloklasse

4学期・Konzertexamen

リサイタル・室内楽・協奏曲を含む、高度な演奏会活動に取り組む。

入学前の資格・審査
適切な修士等、優秀な成績、芸術的審査
修了時の学位・資格
Konzertsolistin / Konzertsolist

私は留学を考えている方と話すとき、弾きたい曲名に加えて、「その曲の何を学びたいか」を聞きます。ベートーヴェンの大きなソナタに挑戦したいのか、すでに弾いている作品の構成や響きを掘り下げたいのか、複数の演奏会でその作品を育てたいのか。同じ作品を挙げていても、必要な学習環境は変わります。

日本の学歴と出願資格

高校卒業後に初めて専門の音楽学位を目指す方は、学士課程の出願資格から確認します。学校の卒業資格と芸術的な適性が審査の対象です。日本の音大で学んだ方は、取得する学位だけでなく、主専攻と履修内容を示す成績証明書を用意して、修士への適合性を確かめます。

ハノーファーの修士入学規程は、志望分野に適した学士または同等の資格を求めています。通常は4年間・240単位の学士課程を想定していますが、240単位未満の場合にも、必要な能力を審査し、追加履修を条件として認める仕組みがあります。芸術面で求められる水準は同じです。

ここでいうヨーロッパの単位を、日本の卒業単位数と数字だけで比較するのは適切ではありません。日本で4年間学んだ場合も、大学名、学位名、ピアノの専攻内容、履修科目を資料にして提出します。「学士(音楽)」という名称だけでは、演奏の主専攻や教育分野の履修まで伝わらないことがあるからです。必要に応じて、大学が発行する英文の科目説明も役立ちます。

出願時に卒業見込みの場合は、修士規程にある暫定的な資格確認と、修了証明を後から出す条件を読みます。手元の証明書が「在学」「卒業見込」「学位取得」のどれを示すのか、書類名と内容をそろえて伝えてください。留学先が判断する資格の同等性と、自分で用意する書類の正確さは、ここで関わってきます。

Soloklasseでは、適切な修士、Diplom、または同等の芸術系資格と優秀な成績が必要です。現在の規程にある成績の目安はドイツ式の1.0〜1.5、またはそれに相当する評価です。日本のGPAを自己流で換算して可否を決めず、成績の尺度が分かる資料を添えて確認します。同じ主専攻への出願は2回までという制限も、受験時期を選ぶうえで重要です。

Vienna Piano School
グランドピアノを弾く生徒に、楽譜を示しながら指導する講師。

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ウィーン育ちのコンサートピアニスト、Enea。

Enea

ウィーン育ちのコンサートピアニスト

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学士課程のピアノと周辺科目

ピアノ学士課程では、主専攻の演奏に加えて、音楽理論、音楽史、身体に関わる科目、教育法、室内楽や歌曲伴奏などを学びます。ピアノの指導法には、導入的に学ぶ形と、より継続して取り組む形が用意されています。ソロのレッスンを中心にしながら、音楽家として扱う仕事の幅を広げる課程です。

たとえば、独奏曲を十分に練習していても、初めて歌手と合わせると、息を吸う時間や言葉の重さに戸惑うことがあります。ピアノだけで拍を守っていたときには気づかなかった、フレーズの始まりと終わりが聞こえてきます。歌の間に入る短い伴奏も、次の言葉を導く役割を持っています。

室内楽では、自分のパートに書かれた休符の間も音楽が続きます。相手の旋律がどこへ進むのかを聴き、戻ってくる音の強さやタイミングを決める。その経験は、一人で弾くソナタの内声や低音を聴くときにも生きます。カリキュラムを見る際は、こうした科目を単なる必修欄として読み飛ばさず、自分の演奏経験と照らし合わせたいところです。

受験準備でも、得意曲の完成度と基礎的な音楽力を並行して育てます。短い旋律を歌ってから弾く、低音だけを追って和声の区切りを聴く、初めて見る短い曲を拍を止めずに読む、といった練習にはそれぞれ目的があります。ハノーファーが公開する楽典・聴音の案内では、ピアノ学士に該当する課題を確認してください。別の専攻の試験内容を、そのままピアノの条件として使わないようにします。

修士課程で深める専門

鍵盤楽器修士は、主専攻を中心に、実技の関連科目、理論系科目、プロジェクトを組み合わせる構成です。現在の履修計画は合計120単位で、主専攻と修了試験に88単位、実技の関連科目に12単位、理論系に8単位、プロジェクトに12単位を配分しています。これは自習を含む学習量の枠組みで、週のレッスン時間数を表す数字ではありません。

実技の関連科目では、室内楽、ピアノデュオ、歌曲、歴史的鍵盤楽器、即興、新しい音楽などが選択肢になります。12単位を少なくとも三つの異なる小区分に分けて履修し、主専攻と同じ科目をここへ重ねることはできません。ピアノの主専攻を軸に、どの方面へ耳と経験を広げるかを考える部分です。

歌曲に関心があるなら、好きな曲を弾くだけでなく、詩の言葉がどこで強まるか、子音のあとに母音がどれだけ伸びるかを聴いてみてください。ピアノの和音をわずかに待つ理由が、歌の言葉から見えてくることがあります。歌詞を読んだ経験や、歌手と合わせた際の疑問は、進学後に深めたい内容を語る材料になります。

歴史的鍵盤楽器への関心も、音色への憧れから先へ進められます。たとえばモーツァルトで、長く保ちたい旋律の音が早く減衰すると、次の音までどう歌を保つか。伴奏の刻み方、音を離す時点、旋律の向かう先を聴き直すことになります。異なる楽器で得た発見を、普段のピアノでの判断にも持ち帰る。そのような問いがあると、修士で選ぶ科目に意味が生まれます。

私は「もっと表現力をつけたい」という希望を、まず一つのフレーズで扱います。どこを頂点に聴いているのか、そこへ向かう低音は何をしているのか、同じ旋律が戻るときに何が変わるのか。自分の耳で確かめたいことを持つ姿勢が、専門的なレッスンを支えます。

Soloklasseと演奏会の準備

Soloklasseでは、高度な演奏活動とKonzertexamenが中心になります。器楽の修了試験には二つのリサイタルと協奏曲の演奏があり、第1リサイタルには室内楽作品も含まれます。修了するとKonzertsolistinまたはKonzertsolistの資格につながります。

この課程を考える段階では、一度仕上げた受験曲以外にも、演奏してきた作品を振り返る価値があります。半年前のソナタをもう一度弾くと、指は覚えていても、展開部の緊張や終楽章の軽さが戻ってこないことがあります。音を思い出す作業のあとに、作品全体の時間と性格を再び作る作業が続きます。

鍵盤の上に置かれたピアノの楽譜を横から見た写真

新曲を練習しながら、以前の曲を演奏会に戻せるか。大きな作品を弾き終えたあと、静かな曲の冒頭で耳を切り替えられるか。共演者と意見が異なったとき、試して聴き比べられるか。継続的な演奏活動では、このような能力が日々の練習に現れます。

私がプログラムを通して聴くときは、曲の終わりから次の曲の最初までにも注意を向けます。最後の和音を離したあとの響きが消える時間、次の曲で必要な呼吸、最初の音を出す前の集中。その変化まで含めて音楽を保つ経験は、一曲ずつの仕上げだけでは得にくいものです。Soloklasseを志望する理由も、こうした演奏活動の中から言葉にしてみてください。

動画審査と全楽章の準備

2026年9月時点で大学からリンクされているMuvacの募集は、すでに終了した2026年10月入学分です。以下の曲目構成は、その募集を参考に準備の規模を知るための説明です。次の入学年度では、新しい募集本文のピアノ欄を確認して選曲を確定します。

2026年の学士・修士のピアノ募集では、動画に約15分の演奏を求め、ハイドンからシューベルトまでのウィーン古典派の作品または楽章と、ほかの時代の音楽を含めます。現地の第1段階では、ウィーン古典派の全曲と、練習曲または同程度に技巧的な作品が挙げられています。動画で一楽章を選べることと、現地までに全曲を用意することを、分けて読んでください。

一つの楽章から、ソナタ全体へ

2026年の学士・修士募集にある古典派作品の範囲。3楽章のソナタで考えた例です。

動画の古典派枠:作品または楽章

第1楽章
選んだ楽章
第2楽章
全曲へ準備
第3楽章
全曲へ準備

現地第1段階の古典派枠:全曲

1楽章
演奏を準備
2楽章
演奏を準備
3楽章
演奏を準備

速い楽章の技術、緩徐楽章の歌、終楽章への切り替えを、作品全体で育てます。

募集で読む「Satz」と「Werk」

Satzはここでは「楽章」、Werkは「作品」です。vollständiges Werkとあれば全曲を指します。この図は古典派の範囲だけを示しており、動画の他時代の音楽や現地の練習曲なども別に準備します。

ソナタの第1楽章が得意でも、緩徐楽章には別の課題があります。旋律の長い音が弱まる間に、伴奏だけが先へ進んでしまう。和声が変わる場所で歌が途切れる。こうした問題は、速い音の難所とは違う練習を必要とします。早い段階で全楽章に触れると、作品の中で時間をかけるべき箇所が分かります。

終楽章については、その楽章だけを元気に弾ける状態から、前の楽章を弾いたあとにも性格を保てる状態へ進めます。すべてを毎日通す方法だけでなく、第2楽章の終わりから第3楽章の冒頭を続けて弾くなど、楽章間の切り替えも扱います。試験曲の数をそろえる準備から、作品を通して聴かせる準備へ移る部分です。

学士・修士の第2段階には、バロックの作品とロマン派以降の自由曲が示されています。学士の募集には初見演奏もあります。バロックでは声部の受け渡し、古典派では拍と句読点、ロマン派では長い旋律と響きの変化を聴く、といった具合に、選んだ時代の違いを演奏で示したいところです。

Soloklasseの2026年募集では、器楽の動画は異なる二つ以上の様式による20〜30分の演奏です。現地のピアノ試験では、少なくとも三つの様式から3作品以上、約60分の曲目を準備し、協奏曲は最大1曲とされています。委員会がそこから演奏箇所を選び、最初の曲は受験者が選べます。曲目表の全体を弾ける状態で保つ必要があります。

動画は各作品を連続して演奏し、作品間の切り替えは認められています。ファイル数などは課程によって異なります。撮影面の準備は、ピアノの録画審査で確認したい音・画角・提出条件で詳しく扱っています。

ドイツ語と証明書

鍵盤楽器修士のドイツ語要件はB2と明記されています。語学証明が必要な出願者は、認められる証明書と提出時期を確認します。現在の規程ではB1・B2の証明は第2学期開始までが原則で、条件付きの延長規定もあります。入学許可書に付く条件まで読んで、語学試験の時期を決めてください。

Soloklasseは一般的なドイツ語証明の要件から除外されています。一方、ピアノ学士のKlavier B.Mus.は、現在の語学案内と学士規程の一覧に明示されていません。この課程の必要水準と提出期限は、学籍担当のImmatrikulationsamtに直接確認します。他専攻に書かれたB1やB2を、ピアノにも当てはめて受験を予約しないことが大切です。

証明書とは別に、レッスンや授業で使うドイツ語も育てていきます。私はウィーンでドイツ語のピアノレッスンを受けて育ちました。音の方向を話すとき、「もう一度弾く」という動作だけでなく、何を聴きたいのかを共有できると、先生とのやり取りに参加できます。たとえば「ここは低音をもっと聴きたい」「このテンポでもう一度試したい」と、自分の演奏を題材に短く答える練習です。

語学試験と音楽の会話をどう並行して学ぶかは、音楽留学に必要なドイツ語:語学証明とレッスンの会話で説明しています。出願書類については、卒業・成績証明などにドイツ語または英語の正式な翻訳が求められる場合があります。大学が英語で発行できる書類と、別途翻訳が必要な書類を確認しましょう。

出願日程と日本での準備

大学が案内する音楽課程の通常の出願期間は、冬学期入学に向けた2月15日〜3月15日です。出願はMuvacを通して行います。現在の案内に残る2026年の現地試験日程を、次の年度の日程として航空券の手配などに使わず、新しい募集の公開を待って確認してください。

その間に進めたいのは、志望課程に合う学歴資料の準備と、演奏全体の見直しです。日本の音大を卒業予定なら、これまで学んだ内容と修士で深めたい内容を結びつけて考えます。高校生なら、ソロ曲の完成度に加えて、読譜や聴音、合奏の経験にも目を向けます。Soloklasseを考える方は、最近の演奏会と、今後取り組みたいプログラムを振り返ってみてください。

先生を検討するときは、名前や演奏動画の印象に加えて、今の自分が取り組みたい音楽を話せるかを大切にしたいと思います。体験的なレッスンや連絡の機会があれば、よく知る曲から一つの疑問を持っていきます。旋律の歌い方、左右の音量、ある和声での間の取り方。その場で別の弾き方を試し、何が聞こえたかを伝えることが、学ぶ相手を知る機会になります。

Vienna Piano Schoolでは、中学生以上の方と大人の方を対象に、オンラインでのピアノ受験準備、音楽家のためのドイツ語、教授との連絡や留学準備の相談に対応しています。対面レッスンは2026年10月から、池袋・新宿のピアノスタジオで行います。無料30分の体験レッスンでは、これまでの専攻、志望課程、現在の曲目をお知らせください。演奏を聴きながら、留学までに深めたい音楽を一緒に考えます。

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