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ピアノ初心者が上達しない理由:練習時間より大切なこと

Enea|
ピアノ初心者が上達しない理由:練習時間より大切なこと

この記事を書いた人

Enea(ウィーン・ピアノ・スクール主宰 / 講師)

ウィーン市立音楽芸術大学ピアノ科修了。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学でも学び、東京・新宿でクラシックピアノを指導しています。初心者から音大受験まで、音色、身体の使い方、作品の構造を結びつけて見るレッスンを大切にしています。

「毎日練習しているのに、上達している感じがしません」。これは、独学の方からも、レッスンに通っている方からも、もっともよくいただく相談です。練習している時間は十分。教本も進めている。でも、半年前と比べて、自分が変わった気がしない。そう感じる時期は、ほぼ全員に訪れます。

結論から書きます。多くの場合、原因は練習時間でも、才能でもありません。原因は「フィードバックの質」、つまり、自分の演奏のどこが変わったか、何を変えるべきかが、見えていないことです。この記事では、上達が止まったと感じる本当の理由と、見直すべき具体的なポイントを、順番に整理します。

ピアノの鍵盤上で弾く手元を観察するための白黒写真
写真:Jamille Queiroz / Wikimedia Commons(CC0)。上達が止まったときは、弾いている手元を観察する視点を増やします。

この記事の要点

  • 上達しないと感じるのは、ほぼ全員が通る段階。才能や量の問題ではない。
  • 本当の原因は「練習量」ではなく「フィードバックの質」。
  • 問題を細かく分けず、漠然と練習している場合が多い。
  • 音を聴く基準、テンポの上げ方、自分の癖は、自分では見えにくい。
  • 練習時間より、自分の演奏を観察できる仕組みを作る方が、確実に伸びる。

上達しないと感じるのは、初心者の典型的な段階

最初の数か月、初心者の多くは大きな変化を体感します。指が動くようになり、楽譜の音が分かるようになり、片手の曲が通る。これは、上達の手応えがはっきりする時期です。

ところが、半年から一年ほど経つと、多くの方が「最初の頃の変化がなくなった」と感じます。これは、上達が止まったわけではありません。むしろ、最初の急な成長期が落ち着き、より細かい変化のフェーズに入った、というのが正確です。

問題は、この時期に変化が「見えにくい」ことです。指が動く、音が分かる、片手が通る、というのは目に見える成果でした。次の段階での変化は、音色、拍の安定、フレーズの呼吸、両手の独立性など、自分ではすぐに気づきにくいものに移っていきます。だからこそ、「上達していない」と感じやすくなります。

練習しているのに変わらない、本当の理由

多くの初心者は、上達が止まったと感じると、まず練習時間を増やそうとします。気持ちは分かります。しかし、現場で見ていると、これで状況が変わることは少ないです。一日30分から60分に増やしても、同じ場所で止まっている方は止まったままです。

本当の理由は、ほとんどの場合、フィードバックの質にあります。フィードバックとは、自分の演奏のどこが変わったか、何を変えるべきかという情報のことです。これが曖昧なまま弾いていると、どれだけ時間をかけても、進む方向が定まりません。

たとえば、同じ場所を10回弾いたとします。1回目と10回目で何が変わったか、自分で説明できますか。多くの方は説明できません。これは練習が悪いのではなく、観察の基準がないからです。基準がないまま量を重ねても、何が良くなったのか、何が悪い癖として残ったのか、自分でも分からないまま終わります。

練習時間そのものの考え方は、ピアノ初心者の練習時間はどれくらい?毎日何分から始めるべきかでも書いていますが、「長く弾けば上達する」という考え方は、初心者にとってもっとも誤解しやすい部分です。

「問題を分ける」ができていない

上達が止まる人の共通点として、もっとも多いのは「問題をひとまとめにしている」ことです。「両手が苦手」「テンポが安定しない」「弾きにくい」。これらは、症状であって原因ではありません。

たとえば「両手が苦手」を細かく分けると、リズムの問題、読譜の負担、指づかい、テンポの上げすぎ、手の独立性など、複数の原因に分かれます。それぞれ、直すための練習が違います。原因を分けずに「両手だから繰り返す」と続けても、どれも中途半端なまま終わります。両手の場合の具体的な分け方は、ピアノ初心者が両手で弾けない理由と、練習で直す順番でも整理しています。

練習を始める前に、「今日はこの場所の、どの要素を直すか」を一文で決めるだけで、状況がかなり変わります。「右手の三拍目の指づかいを直す」「左手の付点のリズムだけを声に出して確認する」。これくらい具体的でかまいません。漠然と「弾く」より、はるかに進みます。

音を聴く基準が曖昧なまま弾いている

もう一つの大きな原因は、「自分の音を聴く基準」が曖昧なことです。多くの初心者は、弾いている間、音を聴いているつもりでも、実際には「指が正しい鍵盤を押せたか」だけを確認しています。それは「音を確認する」のであって、「音を聴く」とは違います。

音を聴くというのは、出した音の質、長さ、つながり、強弱、フレーズの呼吸まで観察することです。初心者の段階では、その全部を聴く必要はありません。ただ、一つだけでよいので、「今日は音の長さに注目して弾く」「今日は二音のつなぎ目に注目する」と決めて弾くと、聴く力が育っていきます。

音色の話は、上級者だけのテーマだと思われがちですが、これは誤解です。初心者の段階でも、力を抜いて弾く音と、押し込んで弾く音はまったく違います。違いに気づけるかどうかが、上達のスピードを決めます。

テンポを上げるのが早すぎる

初心者が上達しなくなる三つ目の原因は、テンポを上げるのが早すぎることです。「ゆっくり弾けるようになったから、本来の速さで弾いてみよう」と考えるのは自然です。ただ、ほとんどの場合、「ゆっくり」がまだ十分でない段階で上げてしまっています。

テンポを確認するためのメトロノームの写真
写真:PJ / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)。テンポは上げる前に、ゆっくりの状態で安定しているかを確認します。

判断の目安はシンプルです。ゆっくりのテンポで、止まらずに、間違えずに、音色と拍を意識して、3回連続で弾けるようになってから、テンポを少し上げる。それまでは、いくら退屈に感じても、ゆっくりのテンポを守ります。多くの方は、1回弾けただけで「もう大丈夫」と次の段階に進みます。これが、長く続く停滞の最大の原因のひとつです。

遅く弾く練習は、表面的には進歩が見えにくいですが、その間に確実に体が覚えていきます。短く感じる時間でも、ゆっくり丁寧に弾けば、テンポを上げたときに崩れにくくなります。

自分では気づけない癖

最後の原因は、自分では気づけない癖です。これは、独学の方にもレッスンに通っている方にも共通する問題で、もっとも厄介な部分です。

よくある癖をいくつか挙げます。手首がじわじわ落ちている、肩が上がっている、指が突っ張っている、間違えた場所だけを反射的に弾き直している、テンポが小節ごとに少しずつ揺れている、左手だけ拍からずれている、ペダルを踏みすぎている、息を止めて弾いている。これらは、本人にはほとんど自覚がありません。

自分で気づくのが難しい理由はシンプルです。弾いている最中は、指の動きと音の確認だけで精一杯で、姿勢や呼吸を観察する余裕がないからです。録音しても、聴いて気づくのは「音のずれ」までで、原因までは見えにくいです。独学とレッスンの線引きについては、ピアノは独学でも上達できる?レッスンを受けたほうがいい人の特徴にも書いています。

古いピアノ教本に掲載された鍵盤上の手と指の形の参考写真
参考図:Marie Unschuld von Melasfeld / Wikimedia Commons(Public domain)。自分では気づきにくい癖は、手元の形や準備から見直します。

練習時間より、フィードバックの質を増やす

ここまでの整理をまとめると、上達が止まっている初心者にとって、もっとも効くのは練習時間を増やすことではなく、フィードバックを増やすことです。フィードバックを増やすためにできることは、思っているより多くあります。

今日からできる、フィードバックを増やす小さな工夫

  • 練習を始める前に、今日の「直すべき一か所」を一文で書く。
  • 練習を終えるときに、「今日変わったこと」を一文で書く。
  • スマートフォンで弾いている自分の手を録画して、横から確認する。
  • 録音して、自分の音と、好きなピアニストの同じ曲を聴き比べる。
  • 同じ場所をテンポを変えて弾き、どこから崩れるかを観察する。

これらは、一人でできるフィードバックの工夫です。完璧でなくてもかまいません。「自分の演奏を観察する」習慣ができるだけで、練習の質は確実に変わります。

それでも、自分では気づけない部分は必ず残ります。そこを補うのが、第三者の耳と目です。月に一度の点検レッスンでも、自分では何か月かかっても気づけない癖が、その場で見つかることがあります。最初の一か月の進め方を振り返るときは、ピアノ初心者は何から始めるべき?最初の一か月で大切なこともあわせてご覧ください。

上達感が止まっていると感じたら、努力不足を疑う前に練習の焦点を見直す

上達しないと感じるとき、ほとんどの方が最初に疑うのは、自分の努力です。「もっと練習しなければ」「やはり才能がないのでは」。これらは、ほぼ間違っています。上達が止まる本当の原因は、努力でも才能でもなく、練習の焦点がずれていることです。

焦点を取り戻すには、自分の演奏に対する基準を一つずつ作っていく必要があります。一人では難しい部分も、一度第三者に演奏を聴いてもらえば、ぐっと明確になります。初回体験レッスンでは、現在の練習を見ながら、何を最初に直すべきか、何は今は気にしなくていいかを一緒に整理します。継続を前提にしたものではないので、いまの状態を確認するためだけに使っていただいて構いません。

よくある質問

毎日練習しているのに上達を感じません。やめた方がいいのでしょうか?

やめる必要はありません。むしろ、毎日練習を続けられている時点で、土台は確実にできています。上達感が薄いのは、変化の種類が「目に見える」ものから「細かい」ものに移った段階だからです。練習の焦点を一度見直すと、ふたたび手応えが戻ってきます。

上達が止まったと感じたら、新しい曲に進むべきですか?

場合によります。今の曲で同じ場所が何週間も通らないのは、曲が難しすぎるサインのこともあります。一方で、すべての曲を簡単な段階で終わらせると、技術が育ちません。判断は、自分の今の段階と、その曲の難しさのバランスで決まります。一人で判断が難しい場合、これは体験レッスンで確認しやすい部分です。

録音を聴いても、自分の演奏のどこが悪いか分かりません。どうしたらいいですか?

最初は誰でも分かりません。録音を聴くときは、全体を漠然と聴くのではなく、「拍が揺れていないか」「音の長さが揃っているか」「フレーズの終わりが消えていないか」など、一つの観点だけに絞って聴いてみてください。同じ録音を、別の観点で何度も聴くと、少しずつ気づけることが増えます。

何か月たてば上達を感じるのが普通ですか?

大きな目安として、最初の3か月で「手応えのある変化」、半年で「自分でも分かる進歩」、一年で「他人にも違いが分かる変化」が一般的です。ただ、上達は均等ではありません。停滞に見える時期も、内側では準備が進んでいることが多く、ある日急に動き出します。停滞を「失敗」と見ない方が、長く続けられます。

独学で上達が止まったら、必ずレッスンに通うべきですか?

必ずではありません。ただ、独学で何か月か同じ場所で止まっている場合、原因が見えていない可能性が高いです。毎週レッスンに通う必要はなく、月に一回や、数か月に一回の点検レッスンでも、状況は大きく変わります。独学とレッスンを完全な二択にせず、組み合わせる前提で考える方が、現実的です。